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持続可能な発展

『現代政治学』より

従来の国際政治の粋組みの限界

 地球環境破壊を防ぐのに、従来の国際政治のあり方では次のような限界がある。

  ①個別の国家ごとの対応では成果に限度がある。

  ②南北間の格差を是正しないかぎり、適切な対応は難しい。

 まず①であるが、ある国で生じた原因によって別の国の環境が破壊されるという現象(たとえば、ドイツの工業地帯で排出される硫黄酸化物によって、北欧諸国に酸性雨が降り、森林が破壊される)がしばしば発生するし、さらに環境破壊は、公海・南極・成層圏・宇宙空間というような、どの国の主権も及ばない空間にまで広がっている。このような問題の解決のためには、個別の国家組織(たとえば、各国の環境省)が単独で取り組んでも成果には限度があり、国境を越えた調整・協力が必要である。

 ②の南北問題については、第一に、地球環境破壊の進行によってすでに深刻な被害をこうむっているのは主に「南」の民衆であるのに、このことが看過されがちである。たとえば、森林破壊の場合、森林破壊が進むと大気中のCO2の濃度が上昇し地球温暖化が進行するというように、先進国に将来脅威の及ぶ面が強調されることが多い。他方、東南アジアやアマゾンの熱帯林に住む多くの先住民が、熱帯林の消失によってすでに生活手段のほとんどを奪われ、民族の存亡の危機にあることは、あまり注目されない。今後は、このような「南」の貧しい民衆の生命・生活の危機の問題を、何よりも優先すべき課題として取り組む必要があるだろう。

 第二に、途上国の過重負担の問題がある。産業革命が起こって以来、近年に至るまで先進諸国は、環境を野放図に汚染し、資源を浪費しながら工業化を達成した。いわば「安上がり」の発展を行ってきた。今後、世界人口の3分の2以上を占める途上国が同じような工業化を進めたならば、地球全体の環境破壊はすさまじいものになる。そこで途上国はこれから、汚染をもたらさず、資源を浪費しないような方法で発展を進めることが求められる。しかし、これは「高くっく」発展となる。先進国は、工業化を達成して豊かになってから、公害防止装置を取り付けたり、省エネルギー技術の開発に取り組んだりすることができた。ところが途上国は、貧しいうちからこのような負担を課せられるのである。このような矛盾を解消するためには、「北」から「南」への資金援助や技術援助が必要である。

持続可能な発展

 環境破壊を防ぐには、社会の発展を一切行わなければよいという見解もあるが、現実的な道としては、汚染や資源の利用を環境に回復不可能な破壊を与えない範囲にとどめながら、社会の発展を進めていくのが妥当であろう。このような発展のあり方は、「持続可能な発展」(「持続的発展」、sustainable development) と呼ばれる。この概念は、国連の諮問を受けた「環境と開発に関する世界委員会」(ブルントラント委員会)が、人類は今後、将来の世代のニーズを奪わないような発展である、「持続可能な発展」をめざすべきだと、1987年に提唱して以来、国際社会で広く支持されるようになった。

 どうやって持続可能な発展を実現するかをめぐっては、これまで以下のような方法が提示されている。

 ①リベラル・モデル  これは、市場メカニズムを利用する方法である。たとえば、地球温暖化の原因であるC02をはじめとする温室効果ガスについて、各国の排出量枠を国際的に取り決め、その上でその排出権を国家や企業の間で自由に売買できるようにする方策がその典型例である。これは、大量のC02排出を必要とする先進国や先進国の企業が、それはどの量の排出を必要としない途上国から、排出権を買い取ることができる一方で、途上国は発展のための資金を獲得でき、実現可能性が高い方法である。実際, 1997年の地球温暖化防止京都会議で主要国の温室効果ガス排出量の削減目標について合意形成がなされ(「京都議定書」)、これに沿って排出量取引も開始されている。しかし一方で、2001年にアメリカのG. W.ブッシュ政権は京都議定書を拒否することを宣言し、このような国際的合意の脆弱さも明らかになった。

 ②テクノクラート・モデル  これは、国際組織の専門家に強大な権限を持たせ、地球環境保護に必要な政策を実施させるという方法である。たとえば、フロンなどがオゾン層を破壊するという事実が確認されたのは1980年ごろのことであったが、その約10年後には、フロンをはじめとするオゾン層破壊物質を2000年までに全廃するという国際的合意がっくられた。これは、UNEP(国連環境計画)の専門家のイニシアティブによって実現した面が強かった。このように、テクノクラート・モデルは、必要な方策を迅速に立てられるという点ですぐれているが、現在の制度のままでは、各国がテクノクラートの提案に反対した場合には強制できないという限界がある。

 ③草の根モデル  これは、地域の住民のイニシアティブによる小規模開発を積み重ねることで、環境破壊を引き起こさない発展を実現しようというものである。途上国政府が進める巨大開発プログラムは大規模な環境破壊(たとえば、熱帯林の破壊)を伴いがちであることを考えると、この方法は、環境破壊防止策として有効であるといえよう。しかしその半面、多くの途上国では民主化が進んでおらず、地域住民のイニシアティブによる開発計画の実現はそう容易ではない。この点に関し近年は、先進国の多くのNGOが途上国における草の根の開発計画を援助する活動を行い、かなりの成果をあげている。
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