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EUというキーワード

『朝日キーワード2020』より
支持率低下するメルケル政権
 ドイツで2018年3月、第4次メルケル政権が発足した。すでに主要7カ国(G7)のトップの中で最も長い在任期間となったメルケル首相だが、最近は連立政権内の内輪もめが目立ち、支持率の低下が止まらない。一方で、難民排斥を掲げる新興右翼政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が支持を伸ばす。ポピュリズム政治が世界で台頭する中、民主主義や人権の守り手として重要な役割を担ってきたメルケル氏の足元が揺れている。
 第4次メルケル政権は、メルケル首相率いる中道右派、キリスト教民主同盟(CDU)、姉妹政党で南部バイエルン州を活動基盤とするキリスト教社会同盟(CSU)、中道左派の社会民主党(SPD)の3党で発足した。発足直後から足並みの乱れが目立ったのは、CDUとCSU。10月のバイエルン升lの州議会選挙を前に、AfDの台頭に危機感を持ったCSUは難民受け入れに厳しい政策を相次いで打ち出し、メルケル氏と衝突。一時は連立崩壊の危機にまで陥った。
 有権者そっちのけで内輪もめを繰り返す両党に有権者は批判を強め、10月の世論調査で両党の支持率は過去最低の26%に低下。CSUは州議会選挙でも歴史的な大敗を喫した。
 一方でSPDの衰退も止まらない。「保守との連立では存在感が薄れる」として、もともと連立参加には消極論が強かったが、その懸念が顕在化し、世論調査ではAfDや緑の党に抜かれる局面も増えてきた。
 AfDは、15年にメルケル氏がシリアなどからの多くの難民受け入れを決めたのを機に伸長。第3党となった17年9月の総選挙後も旧東独地域を中心にじわじわと支持を伸ばしている。
 トランプ米大統領の対極として「正論」を放ってきたメルケル氏だが、政権の組み替えや解散総選挙を予想する声は絶えない。10月29日、メルケル氏はCDU党首の辞任を表明。21年の任期満了後は政界から身を引く意向も示した。
EUの移民・難民対策
 中東やアフリカから欧州を目指す難民・移民の流入が止まらない。欧州連合(EU)は、受け入れ数を加盟各国で割り当てることを決めたが、実数は大きく下回っている。公平な負担を求めるイタリアなどの不満は根強い。 EUでは移民排斥をうたうポピュリストや右派政党が台頭、加盟国で押しつけ合う構図が欧州分断の火種になっている。欧州へ渡る前に難民かどうか判断する仕組みも議論されたが、実現への道のりは厳しい。
 2011年の「アラブの春」やシリア内戦をきっかけに、これまでに数百万人の人々が祖国を逃れて欧州に向かった。目指すルートは大きく分けて二つある。一つは、主にトルコを経由してギリシャに渡り、バルカン半島を縦断してドイツなどに向かう束地中海ルート。もう一つはリビアから地中海を渡り、主にイタリアに上陸するルートだ。
 迎えるEU加盟国の間では、「ダブリン規則」によって、最初に上陸するイタリアやギリシャに受け入れの負担が押しつけられる形となり、イタリアでは国民の不満が高まった。18年の総選挙の結果、移民排斥をうたう右派「同盟」が政権入り。サルビーニ党首が難民・移民問題を担当する内相となり、EUにダブリン規則の抜本的な見直しや、加盟国の「公平な負担」を求めた。
 一方、ドイツはメルケル首相が15年に難民申請希望者の受け入れを表明したことで、百万人にも及ぶ人々が国内に流れ込んだ。人道的な対応が世界的な称賛を浴びる一方で、難民の要件を満たさなくても経済的な豊かさを求めてやってくる移民が激増した。国内では反移民の世論が高まり、極右政党の伸長を招く結果となった。 18年秋にはメルケル氏が率いる与党「キリスト教民主同盟」が州選挙で相次いで敗北。メルケル氏は党首を辞任し、3年後の政界引退を表明した。
 メルケル氏が対策の先頭に立ってきた、EU加盟国による難民受け入れの割り当ても行き詰まっている。15年に、イタリア・ギリシャにいる16万人を加盟国で分担して受け入れる計画だったが、実際に受け入れた総数は計画の約2割にとどまった。18年に「反移民法」を可決させた八ンガリーのように、受け入れ自体を拒否する国もある。北アフリカのリビアから地中海を渡ってくる難民を救助、支援する船がイタリアやマルタに寄港を拒否され、受け入れ先をめぐって「たらい回し」になる事態も発生。地中海ルートでの最大の上陸国は、イタリアからスペインに移った。
 EUは同6月、受け入れについて首脳会議で議論したが、根本的な解決策は打ち出せていない。 EU内に共通の収容施設をつくることで合意はしたものの、設置は各国の判断に委ねられた。またイタリアなどの主張により、欧州に渡る前に難民かどうかを判断する施設をEU外に設け、移民の流入を減らす方針で一致。だが設置に応じる国はなく、実現性を疑う指摘も出ている。
強まるEUの遠心力
 米国のトランプ大統領に象徴される「自国第一主義」の波が、欧州連合(EU)を揺さぶっている。 EU主要国の南欧イタリアでは、難民排斥を訴えるEU懐疑派政権が誕生した。東欧ハンガリーでも反移民、反EUを掲げる政党が圧勝。東欧の一部の国とEUは民主主義をめぐっても大きく対立し、EUは南北、東西間で問題を抱える。親EUの筆頭であるドイツ、フランスでもこうした機運が高まり、EUの遠心力が強まっている。
 2018年、EUで最も注目されたイペントの一つは3月のイタリアの総選挙だった。EUの行政機関トップ、ユンケル欧州委員長が事前に「結果を心配している」と述べた通り、反EU、反難民を訴える新興政党・五つ星運動が躍進。「第一にイタリア人の仕事と未来を守る」として移民の強制送還などを訴える右派政党「同盟」と連立を組み、6月に新政権が誕生した。
 新政権はさっそく、同月のEU首脳会議で難民受け入れ問題に関し強硬な主張を展開。予定した抜本的な改革案の決定は見送られた。自国の19年予算案でも、財政赤字の削減をめぐりEUと対立した。
 東欧で、反EU勢力への支持の強さを改めて浮き彫りにしたのは4月のハンガリーの総選挙だ。反EU、反難民を強く打ち出した与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」が、前回選挙に続き圧勝した。
 欧州委は17年12月、EUで決めた難民受け入れの義務を果たしていないとして、ハンガリーとともにポーランド、チェコをEU司法裁判所に提訴。その後も、欧州議会がメディアや大学への圧力を問題視し、ハンガリーヘの制裁を求める決議をしたり、司法の独立が脅かされているとして欧州委がポーランドを提訴したりするなど、EUと東欧の関係が改善する兆しはない。
 一方、親EU狽口よ足元が大きく揺らいでいる。 EUの重し役として、難民受け入れの分担を求めたり、民主主義的価値観の尊重を強く訴えたりしてきたドイツのメルケル政権、フランスのマクロン政権はともに、国内で大きく支持を落としている。
 メルケル首相は18年10月、党首を務める「キリスト教民主同盟(CDU)」が二つの州議会選挙で歴史的な大敗を喫した責任をとり、党首の辞任を表明。いずれの選挙でも、難民排斥を訴える新興右翼政党が勢力を伸はした。
 17年5月に就任したマクロン大統領は当初、メルケル氏とともにEUの統合を深める存在として期待されたが、労働市場改革などで批判を浴び、支持率は就任1年半で約半分の30%程度に。ナンバー2の内相や環境相らの辞任もあり、政権基盤が弱まっている。
 反EU機運の高まりと親EU政権の低迷が示すのは、人々の移民への不満、不安の大きさだ。反EU派は「移民vs.自国民」という構図を描き、移民に厳しい姿勢をとらないリベラル政党や、加盟国に難民受け入れを求め、域内での人の移動の自由を義務づけるEUを移民側に位置づける。説得力ある答えや政策を示せない政権、EUはその構図を打ち崩せず、支持を失うという流れだ。
 EUは19年5月、5年に1度の欧州議会選を迎える。EUの遠心力がさらに強まるのか、歯止めがかかるのか。結果は、EUの将来を大きく左右することになりそうだ。

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