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日本の財政の現状 財政に関するQ&A

『【図説】日本の財政』より 日本の財政の現状 財政の現状 財政の課題

Q1 日本人が国債を買っているから、財政は破綻しない?

A1 日本の財政について、「日本人が国債を買っているから、財政は破綻しない」という意見がある。

 平成28年12月時点では、国債及び国庫短期証券(以下「国債等」)発行残高のうち、9割程度は国内投資家が保有し、海外投資家が保有する割合は1割程度(10.5%)に過ぎない。これは、日本の金融機関が安全資産である日本国債を持ち続ける傾向にあるためだが、この状況は変わり得る。現に、足もとでは低金利環境が続くなか、日本の金融機関では、国債中心の運用から外債を含め資産運用を多様化する動きがみられている。

 さらに、流通市場における海外投資家の売買シェアは現物では31%程度、先物では48%程度であり、保有割合と比べて相当大きなプレゼンスを占めている。海外投資家の国債保有については、投資家層の多様化により国債の安定的な消化につながる一方、活発な取引により金利水準に影響を及ぼす一要因となり得るため、その動向について注視する必要がある。

 現在、日本国債は市場で安定的に消化されているが、仮に日本国債の返済能力に対する市場の信認が失われる事態が生じれば、金利の上昇を通じて市場からの資金調達が困難となる可能性がある。このため、財政に対する市場の信認を確保できるよう、財政健全化を進めていくことが重要である。

 また、金利が大幅に上昇した場合、国債等発行残高1075兆円のうち, 228.7兆円を保有している銀行等に大きな評価損が生じ、金融機関の財務の悪化、ひいてはマクロ経済に悪影響を及ぼす可能性がある。

 この点に関して、日本銀行が2017年4月に公表した金融システムレポートの試算によると、金利が全ての年限でI%上昇した場合、金融機関が保有する債券の評価額が7.5兆円(銀行だけでも5.4兆円)減る。全国銀行の経常収益は平成27年度決算(単体ベース)で約16兆円であることから、評価損の影響は甚大といえる。

Q2 日本銀行が国債を買い続けるから、国債の消化は問題ない?

A2 日本の財政について、「日本銀行が国債を買い続けるから、国債の安定消化に問題はない」という意見がある。

 「日本銀行が国債を買い続けるから、国債の安定消化に問題はない」という考え方は、政府と日本銀行を一体の存在ととらえて政府の財政状況を見るべきであるという考え方に立っているといえる。こうした考え方は、政府はあたかも日本銀行に対して国債の売買・引受けを強制できるということを前提とする一方で、日本銀行が保有する国債は政府の債務ではないとみなすものであって、中央銀行である日本銀行が、政府の財政赤字を補填するかたちで資金を提供することを意味する「財政ファイナンス」を容認した考え方であるといえる。しかしながら、「財政ファイナンス」は、戦前、戦中において大量の公債発行が日本銀行の直接引受けによって行われた結果、激しいインフレーションを引き起こしたことへの反省に基づいて規定された財政法第5条本文における「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない」との条文に反することになる(*#)また、日本銀行法第3条第1項における「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」との条文にも反することとなる。

 政府と日本銀行の政策連携について、政府と日本銀行は、平成25年1月に、「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について(共同声明)」を公表し、その連携を強化した。同共同声明において、日本銀行は、「物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率2%とする」「上記の物価安定の目標の下、金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指す」こととされている。これを受けて、日本銀行は、平成25年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した。その後、日本銀行は、累次の追加緩和を行い、平成29年5月現在においては、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みのもと、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行うこととしている。

 このように、「量的・質的金融緩和」に始まり「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みに至るまで、日本銀行による国債買入れは、2%の物価安定目標の実現という金融政策の目的のもと、具体的な金融政策の手法の1つとして、日本銀行自らの判断により行われている点に留意する必要がある。一方、同共同声明においては、「政府は、日本銀行との連携強化にあたり、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する」こととされている。政府には、この共同声明にしたがって、財政健全化の取組みを着実に進めていくことが求められている。

 (参考)小村武「五訂版 予算と財政法」新日本法規出版、平成28年。

 (注)平成26年10月に「量的・質的金融緩和」の拡大、平成28年1月に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入、平成28年7月に「金融緩和の強化」が行われ、平成28年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が導入された。

Q3 債務をネット(純債務)で見ればたいしたことないのではないか?

A3 一国の財政の健全性を見る際、国際機関などでは、中央政府・地方政府・社会保障基金を合わせた負債の残高(「総債務残高」)の対GDP比が用いられることが多いが、我が国は253.0%(一般政府ベース、2017年)に達しており、主要先進国中最悪の水準である。

 ただ、こうした計算に用いる、我が国の「債務残高」を考えるにあたっては、上記のような「総債務残高」のほかに「純債務残高」を用いる場合もある。

 純債務残高とは、総債務残高から、一般政府が保有する金融資産を差し引いたものである。確かに、純債務残高の対GDP比は、総債務残高の対GDP比に比べると小さくなるが、我が国は、純債務で見ても、債務残高の対GDP比が主要先進国でひときわ厳しい水準(130.7%(一般政府ベース、2017年))となっており、純債務残高を用いれば、総債務残高を用いた場合と異なり、財政の健全性に問題がないとの結論が得られるわけではない。

 また、そもそも、一般政府の金融資産の多くは、①将来の年金給付のための備えや、②為替政策上必要な外貨証券などの政策上保有が必要な資産などであり、売却し債務の返済に用いることができない性質のものである。したがって、政府の純債務のみに着目して議論をするのは必ずしも適当ではないことに留意する必要がある。なお、ユーロ圏においては、過剰財政赤字を是正する手続きの指標として、グロスの政府債務残高(対GDP比60%)が採用されている。

 また、純債務残高を用いる考えには、「一般政府の金融資産に加え、日本銀行の保有資産も差し引くべき」との説もある。しかしながら、①Q2で述べたように、そもそも日本銀行と政府はそれぞれ独立した存在である。②また、「日本銀行は政府の子会社だから連結すれば子会社が保有する親会社の債務はネットアウトされる」という主張であれば、当然、日本銀行の負債も連結ベースの債務としてカウントする必要がある。③さらに、この説では、政府から独立して金融政策を決めている日本銀行が、現在、長短金利操作付き量的・質的金融緩和等を通じて買い入れている国債をあたかも永遠に保有し続けることを前提としているように見える。仮にこうした説をもって日本の財政の健全性を見る考えが一般に広がれば、結果的に我が国は「財政ファイナンス」を狙っているのではないかとのそしりを招きかねない点に留意する必要がある。

 財政の健全性を見る際、どのような指標を用いるかは、単なる技術論を超え、我が国に対する市場や国際社会からの信認の確保に影響を及ぼし得るということを常に念頭に置かなければならない。また、財政赤字は社会保障制度における給付と負担のアンバランスと裏腹であり、債務をどう見るにせよ、社会保障制度の持続性確保のために財政健全化を進める必要がある。

Q4 今まで何も起こっていないから問題ないのではないか?

A4 日本が長く経験してきたデフレの状況下では、企業がリスクをとった投資を行うことは難しく、安全資産としての日本国債を保有するインセンティブが働き、日本国債の価格も高い水準で推移してきた。

 しかし、国債の安定消化を支えてきた資金環境は大きく変化しつつある。

 企業は海外へのM&A等をはじめ投資を活発化させ、最近では日本の金融機関が資産運用を貸付や外国資産購入へと振り替える動きも見られる。

 また、いわゆる「金融危機」が発生した他国を見てみると、例えば、欧州債務危機の多くは財政状況の悪化によって市場の信頼が揺らいだことから始まった。日本でも、債務残高の累増が示すとおり、財政状況はきわめて厳しい状況にあるなか、財政危機が金融危機を起こす可能性はゼロではない。そして、我が国は国内金融機関や中央銀行の保有割合が高いことから、国債価格下落の影響は国内金融機関に対してきわめて大きい影響を及ぼす可能性があり、財政危機が金融市場・金融機関に及ぼす影響はきわめて大きいことをよく認識する必要がある。

 リーマン・ショックと同じレベルの大きな金融危機は「100年に一度」と言われたように、確かに珍しい事象ではあるが、金融危機自体は、過去20年を見ても、複数回発生しており、テールリスクが顕在化することがある。そして、一度発生した危機は、グローバル化した現在の世界において、かつては想像もできなかったほどの早さで広がり、伝搬していく。また、特に金利のようにマーケットで決定されるものは、そのときのマーケット・センチメントに影響され、それをコントロールすることは困難である。

 このような急激な危機や変化が起きるリスクが少しでもある以上は、「今まで大丈夫だったのでこれからも問題ない」とするのではなく、そのリスクを回避すべき政策を立案していくことが国として重要といえるだろう。
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