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消費税は地方税に適している

『財務省の逆襲』より 社会保障のための消費税増税という方便 むしろ消費税は地方税化すべきだ

消費税はフランス大蔵省の役人が発明した税制である。徴税コストが安い割に大きな税収が得られる利点があり、本家のヨーロッパでは概して消費税率が高い。

EU各国の消費税率を見ると、キプロスの15%が最低で、デンマーク、スウェーデンの25%が最高となっている。ほかの国はその中間で、ドイツ19%、フランス19・6%、イタリア20%、イギリス20%など。ほぼ20%程度となっている。

欧州で消費税が重視される理由は、徴税コストが少なく、景気の変動の影響を受けにくく、地方ごとの偏在の割合も低くて使いやすいためである。

欧州の国は、人口や面積、経済などの点で、一国の規模が小さい。GDPでくらべると、日本は欧州の国が7つか8つ集まった規模だ。規模が小さな国では消費税は、安定した財源として重要な存在なのである。

ただ各国の消費税をめぐる状況は、歴史的な経緯もあってそれぞれに異なっている。西欧州でも中央集権が強いイギリス、フランスでは、消費税は国の財源に割り当てられている。

国と地方で分け合う形としては、オーストラリアのように国が消費税を課税し、地方に税収を分与する方式、ドイツ、オーストリアのように国と地方が消費税を共同税として課税し、税収を国と地方で配分する方式、カナダのように国が消費税を課税し、そのうえに地方が課税する方式、アメリカのように国は消費税を課税せず、地方が消費税を課税する方式、がある。地方分権が進んだ国ほど、地方の税源としての比重が高くなっている。

税を「国税」と「地方税」に分けた場合、それぞれに適した税制とはなんだろうか。これは、国と地方の、それぞれの行政機能の分担から決まってくる。

行政には「補完性の原則」がある。地域でできる行政サービスは、できるだけ地域にまかせ、住民密着型のサービスを行う。それがむずかしい行政サービスについてのみ、より上位の行政単位が引き受けるという「ニアーイズ・ペター」の原則だ。

地域で行うべきサービスとして、一例を挙げればゴミ収集だ。ほかにも教育、治安維持、社会福祉などがある。これらのサービスを担うのは基礎的自治体(市町村)である。

基礎的自治体ではむずかしい、道路・空港・治水などのインフラ整備や、高等教育については、より広域の行政組織が担当する。国が行うべきは、マクロ経済政策、外交、安全保障といった抽象的な業務や、年金等による所得の再配分である。

国税と地方税の性格の違いも、この補完性の原則から導き出される。

国税の原則は「応能税、人税、累進的課税」である。

政府は住民サービスのほかに、社会の安定のために、地域や年代、社会階層間の格差を是正しなくてはならない。そのために所得を再分配することが求められる。

所得再分配の役割を担うのは、多くの地域をたばねる中央政府である。これを地方にゆだねてしまうと、再配分政策を強化するほど高所得者が逃げ、低所得者が流入することになり、格差が是正されない。国家間でも高所得層の国外脱出は起こり得るが、移動の可能性は国内にくらべれば少ない。

このため中央政府には、所得再分配機能を持った応能税(納税者の支払能力に応じて課せられる税)が向いている。所得税と法人税がこれに該当する。所得税の累進課税部分や法人税の所得比例部分は、地域差があり、景気動向にも左右されるので、本来的には国税がふさわしい。中央政府はこれらの税の累進性を利用して、徴税の時点でも所得の再配分を行うのである。それによって、個人のみならず地域間を超えた国の所得再配分機能が発揮できる。

所得再分配機能のもう一つの中心は給付である。これが社会保障であり、やはり中央政府が管轄することが適している。母集団が大きいほうが「大数の法則」が働きやすいからだ。大数の法則とは、集団が大きくなるほど、現象の起こる頻度が確率論などの理論値と一致してくる現象のことである。保険制度などは、大数の法則が働くことで成り立っている。大数といっても人口で2000万人を超えれば、大きな誤差は出にくくなる。その意味では年金はともかく、より地域密着型のサービスが望ましい医療や介護については、地方に委譲すべきといえる。

国税に対する地方税の原則は「応益税、物税、比例的課税」である。

応益税とは、租税負担能力にかかわりなく、受ける行政サービスの便益に応じて納税する税である。

住民全員が一律のサービスを受ける場合、税の形としては理論上「I人いくら」で費用を拠出する、人頭税が最適ということになる。ただ人頭税では、支払い能力のない人にまで課税されてしまう。この点を考えると、現在の税制のなかで比較的、応益税の性格が強い消費税が、地方税にふさわしい。また所得税の人頭割や法人税の均等割部分も地方税に向いている。
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