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失業さえできない日本の若者たち

『若者が働きはじめるとき』より

低い日本の若者の失業率のナゾ〈ずいぶん低い日本の若者の失業率〉

 こうしてみてくると、いま、日本の若者たちにとって、学校を出て働きはじめるときに、いろいろと大変な状況が生まれていることがわかる。正社員で就職できても、長時間労働やまわりの支えがないなかでひとりで頑張ることを強いられたり。そもそも正社員になれなくて、不安定なフリーターなどの仕事を続けざるをえない人たちも増えている。

 こういう状態は、日本だけなのだろうか。実は若者が安定した仕事に就きづらいという状況は、いまほかの先進国でも共通におこっている。一九八〇年前後から、欧米先進国では中心産業が、工業から情報・金融・サービスなどの第三次産業に移っていった。それとともに、いままで若者をたくさん雇用していた工業の衰退などで、若者の失業が急増するという事態が各国に発生した。非正規雇用などの不安定な仕事も増加した。多くの国で、政府の政策の方向が、国民全体の生活の安定を基本においた福祉国家から、市場原理と競争重視の新自由主義に移ったことも、こうした変化に大きな影響を与えた。

 こういう大きな変化が生じた時期は、国によっても違っているが、イギリスなど早いところでは一九八〇年代前半からそういう状態がおこっている。日本は、先進国のなかではだいぶ遅れたほうだ。若者の就職をめぐる深刻な状況が本格的におこりはじめたのは一九九〇年代に入ってからだ。大きな変化はだいたい九五年前後からとなっている。

 そういう意味では、いま、先進国をはじめ世界中の若者が、こういう難しい状況に直面している。ただ、そうはいっても、国によっておかれている状況には違いもある。

 先進各国の若者の失業率の最近の推移を見ると、日本の若者の失業率はほかの国々に比べて、ずいぶん低い。二〇一〇年の数値で見ると、日本の失業率はイタリアの三分の一、アメリカやイギリスの二分の一、OECDに加盟している先進国全体の平均値に比べても半分近くになっている。これだけ失業率が低いということは、それでも日本の若者は恵まれているということだろうか。

〈でもフリーターの数は?〉

 フリーターなど若者の不安定な仕事についてはどうだろうか。各国同士これを数字で比べるのは、なかなか難しい。例えばOECDは、加盟している先進諸国などの臨時雇用(契約期限が限られている比較的短期の雇用)の割合を調べている。そこでは日本の若者(一五-二四歳)の臨時雇用の割合はおよそ二七パーセント(二〇一〇年)で、OECD平均よりもちょっと多い程度だ。しかし、国によって雇用制度や慣行が異なるので、実態を比べるのはけっこうやっかいだ。例えば、ヨーロッパのドイツや北欧の国ぐにではおよそ半数前後と、臨時雇用の割合がとても高い。しかしそれらの国々には、アプレンティスシップと呼ばれる職業訓練制度が広く普及していて、若者の臨時雇用の大半はこの訓練生だ。この制度は会社が若者を訓練生として雇い、職場で働きながら訓練を受ける仕組みだ。訓練期間は職業ごとに決まっていて、だいたい二、三年。その期間を終えると資格がもらえる。そうした国ぐにでは、この資格がないと就けない職業が多いので、資格を持っているということはとても重要になる。同じ臨時雇用といっても、教育訓練を受ける機会がほとんどない日本のフリーターとは大違いだ。

 もうひとつ、日本の若者の非正規雇用について、OECDの数字は実際よりも少なめに計算されているようにみえる。前の章の図1で用いたデータ(「労働力調査」)では、同じ年・同じ年齢でおよそ四六八Iセントになる。この数字はほとんど先進国トップクラスだ。

 そんなわけでなかなか単純な比較は難しいが、ヨーロッパのなかでもアプレンティスシップがあまり広がっていないイギリスを取り上げて、日本と詳しく比べてみよう。ここではひとまずOECDのデータを使ってみる。二〇一〇年現在で、日本の若者の失業率は九・二パーセント(一五-二四歳、以下同じ)、臨時雇用の割合は二六・六パーセント、合わせて働いている人や今すぐ働きたいと仕事を探している人(これを労働力人口という)全体のおよそ三六パーセントにあたる。一方イギリスは、失業率が一九パーセント、臨時雇用が一四パーセントで、労働力人口全体のおよそ三三パーセントにあたる。

 両国とも、仕事がなかったり安定していなかったり、そういう不安定な状態にいる若者が、およそ三人に一人ほどいることになる(日本の臨時雇用・非正規雇用の数字の、先のずれを考えると、不安定に暮らす日本の若者はもっと多いかもしれない)。ただ、大きく違うのは、失業と臨時雇用の割合が、日本とイギリスとで逆転していることだ。日本はフリーターなどの臨時雇用が多く、イギリスは失業が多い。
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