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グリーン・イノペーションと「第三次産業革命」

『低炭素経済への道』より
 イノペーションの範囲は、なにも技術と企業に限られた問題ではない。低炭素経済が、現在の経済構造の延長線上では達成不可能で、大きな変革を必要とするのであれば、なおさら技術と企業を超えて、社会制度やガバナンスのあり方まで含めた社会総体のイノベーションを射程に収めなければならない。

 ペルリン自由大学の政治学者イェニケとジェイコブが精力的に論じるように、このような変化を「第三次産業革命」と呼んでもよいかもしれない。これは、低炭素経済への移行が、一八世紀末から一九世紀にかけての第一次産業革命、そして一九世紀末から二〇世紀前半にかけて起きた第二次産業革命に匹敵する大きな社会革命になりうる、との予想に基づいている。

 第三次産業革命は、再生可能エネルギーの爆発的な普及と、全産業領域におけるエネルギー効率性の劇的な改善によって特徴づけられる。実は、その噫矢は一九七三年の第一次石油ショックだったといえるかもしれない。日本の「最終エネルギー消費」の伸びは、一九七三年の石油ショック前後で大きく変化している。一九七三年以前は「最終エネルギー消費」や「C02排出量」が、GDPを上回る伸び率を示していたが、石油ショックの衝撃を受けて各産業が省エネに必死で取り組んだ結果、それ以降、両指数の伸びは突如鈍化し、一九八〇年代後半までは、ほぼ横ぽいとなっている。

 その後、省エネ努力が緩んで再び両指数は伸びはじめるものの、二〇〇〇年以降はもはやGDP成長率よりも低い率でしか伸びないようになっている。これは、一九七三年の石油ショックを契機として、GDP成長率と化石燃料消費の伸び率の「切り離し」が行われたことを示している。GDPが成長しても化石燃料消費の伸び率が減少に転じるようになれば、その時点を第三次産業革命のメルクマールとすることができるだろう。

以前の二つの産業革命では、GDP成長率、最終エネルギー消費、そしてC02排出量のすべてが右肩上がりで伸びることを前提としていたが、第三次産業革命では初めて、GDP成長率が他の二つの指標の伸びと切り離される段階を迎えることになる。また、第三次産業革命の特徴は、それが環境規制の強化によって、いわば意識的に促される点にある。結果として、再生可能エネルギーやエネルギー効率性の改善に関するあらゆる財・サービスに対する需要が飛躍的に伸び、「低炭素経済セクター」とでも呼ぶべき新しいリーディング・セクターが勃興することになる。こうして第三次産業革命でも、前の二つの産業革命と異なった形ではあれ、エネルギー源の転換と産業構造の転換が、相互に連関をもちながら進行することになるだろう。

 このような大きな社会変革には、さまざまな摩擦が生じるものである。時代の主潮流に乗り切れずに衰退していく旧産業と興隆する新産業間の闘争、変革の主体となる社会層の社会的地位の上昇と、それ以外の層の社会的地位の低下、あるいは、移行期における費用負担の重さに対する人々(とりわけ低所得者)の不満の高まり、といった問題を挙げることができる。

 イェニケらが指摘するように、産業革命はエネルギー、技術、産業の変革にとどまらず、政治的・社会的条件の大きな変革をともなう。つまり、第一次産業革命の時期には、農民と新興ブルジョア層の闘争が生じ、後者は営業の自由、私的私有財産の保護、市場の発展と社会的分業をともなう「自由主義革命」の実現を求めて闘った。これに対して、第二次産業革命は「社会革命」であって、資本主義発展にともなう社会的矛盾をどう解くかが問題となった。結果として社会保障制度が整うことで、労働者の購買力が確保され、それがさらなる産業発展の起爆剤となった(社会国家/福祉国家の成立)。

 第三次産業革命でも、低炭素経済への移行にともなって衰退産業から生まれる失業者を、拡大する新産業でどうスムーズに吸収するのかという問題が生じる。また、短期的にではあれ、膨らむ対策費用を価格に転嫁すれば、人々の費用負担は高まり、とりわけ低所得者層に大きな影響を与える可能性がある。それをどう解決するのか。低炭素経済への移行過程で起きてくるさまざまな問題を解決しながら、移行過程をコントロールするガバナンスの仕組みを構築することが、政府の重要な役割になるだろう。
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