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「家族の困難」と未婚率の上昇、晩婚化の意味すること

『「人口減少社会」とは何か』より

現代日本社会における「家族の困難」

 ここ数年、「貧困」現象が日本社会の各階層に広がっています。ワーキング・プア(働く人の貧困)、高齢者の貧困(下流老人)、女性の貧困(シングルマザーの貧困)、子どもの貧困、「一億総貧困時代」、「貧困クライシス(危機)」などなど、さまざまな貧困を表わす言葉が、マスメディアで飛び交っています。こうしたさまざまな貧困現象は、「家計の貧困」あるいは「貧困な家族」の広がりでもあります。

 政府の調査でさえ、「生活が苦しい」という世帯(家計)が6割を超えています。安倍内閣のもとで、いっそう暮らしにくくなったというのが国民の実感です。久しく忘れられていた「エングル係数」(家計に占める食費の割合)という言葉さえ、最近はまた復活してきました。2016年には4年連続で上昇し25.8%になりました。これは29年ぶりの高水準です。

 本章の冒頭にとりあげた「鶴瓶の家族に乾杯」は、どちらかと言えば、幸せな家族の話題が中心ですが、家族はまた、さまざまなトラブルにも見舞われます。

 山田洋次監督は、2016年の「家族はつらいよ」に続いて、2017年にも「家族はっらいよ2」を発表しました。熟年夫婦の離婚問題や高齢者の自動車運転など、最近の家族をめぐって起こる騒動をコメディタッチで描いた家族劇です。山田監督は、2013年にはもう少しシリアスな視点から「東京家族」という映画も発表しています。

 2017年4月に公表された司法統計によると、2016年に全国の家庭裁判所が扱った「家事事件」は、102万2、859件(速報値)でした。過去最多だった2015年(96万9、952件)を更新し、1949年の統計開始以来、初めて100万件を上回りました。

 一方、刑事事件は減る傾向にあり、2016年に全国の裁判所が受理した事件は被告の人数ベースで延べ99万7、159件となり、初めて家事事件を下回りました。

 家事事件が増えている大きな要因の1つが、離婚をめぐる夫婦のトラブルが増え、養育費や子どもとの面会をめぐる争いも増えていることです。人口動態調査によると、2015年の離婚件数は約22万6千件で、30万件近くあった2000年代前半と比べると低い水準ですが、結婚件数そのものが減っていることの影響とみられます。

 家事事件のなかでは、離婚に絡む法的な争いが増えています。たとえば子どもと一緒に生活して世話をする「監護者」を定める調停と審判の申し立ては2015年に4、562件と、10年間で3倍以上になりました。高齢化が進んで相続や成年後見に関係する手続きが増えているほか、離婚後の子どもとの面会や養育費に絡む調停や審判も多くなっています。増加が目立つ案件は相続放棄の手続きです。住む予定のない実家などを相続しない人が急増し、2015年の申立件数は約18万9千件で30年前の4倍です。遺産相続に絡む争いも多く、故人の財産の分け方を決める遺産分割の調停は約1万2千件と10年間で3千件近く増えました。離婚に伴う争いも増えています。別居中の夫婦が生活費などの負担割合を決める「婚姻費用の分担」の調停や審判は、2015年に約2万3千件と10年間で2倍以上に、子どもとの面会交流を求める調停なども10年前の約5千件から約1万4千件に増えています。

 警察が受理した「配偶者からの暴力事案等の相談等件数」は、年々増大し、2015年には6万3、141件と10年前の3倍以上になっています。配偶者暴力相談支援センターにおける「相談件数」も、2015年には11万1、630件となり、史上最高を記録しています。家庭内暴力の原因としては、夫が妻に暴力を振るうのはある程度は仕方がないといった社会通念、妻に収入がない場合が多いといった男女の経済的格差など、個人の問題として片付けられない構造的問題が大きく関係しています。男女が社会の対等なパートナーとして様々な分野で活躍するためには、その前提として、女性に対する暴力は絶対にあってはならないことです。

 現代日本の「家族の困難」の拡大の背景には、日本社会が全体として劣化していることがあります。1り90年代の後半から、日本でも「新自由主義」路線にもとづく大企業経営や経済政策が強行されるようになり、本の政治・経済・教育・社会のあらゆる分野で「市場原理万能」がさけばれ、弱肉強食の競争社会になってきました。「新自由主義」路線が推進されるにっれて、「自己責任」論が蔓延し、社会的排除による孤立化が「家族の困難」をますます耐え難くしています。

「家族の困難」と未婚率の上昇、晩婚化の意味すること

 「家族の困難」を象徴的に示す指標の一つが未婚率の急上昇です。別図(5-2)のように、1970年には男女とも1~3%だった生涯未婚率は、とりわけ1990年代以降に急増し、2015年には男は23%を、女は14%を超えるようになりました。予測では2035年にはそれぞれ男28%、女19%を超えるものといわれています。若者の雇用不安、将来展望の閉塞感が未婚率に拍車をかけていると思われます。

 国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」(2016年9月発表)によると、「いずれは結婚したい」と考える18~34歳の未婚者の割合は、男性が85.7%、女性が89.3%となっています。にもかかわらず、現実には「結婚資金」や「結婚のための住居」の確保が障害となっています。また長時間労働が異性との出会いの機会を難しくしていることもあります。非正規労働者の増加が生涯未婚率の上昇を促進していることはまちがいないでしょう。

 未婚率の上昇、晩婚化の傾向は、「少子化」に拍車をかける大きな要因の一つであることは、否定できません。諸外国と比べて婚外子の割合が少ない日本では、結婚する若者の数が減少することは、直接的に社会全体の平均的な出生率の減少をもたらすからです。

 最近の日本経団連の提言「人口減少への対応は待ったなし」(2015年4月)や日本経団連のシンクタンク(21世紀政策研究所)の報告書「実効性のある少子化対策のあり方」(2014年5月)では、日本で「少子化対策」がこれまで効果をあげてこなかった第1の原因を、未婚率の上昇、晩婚化の傾向にたいする政府の対策が不十分だったことに求めています。

  「婚外子の少ないわが国において、出生率の継続的な低下をもたらした主な原因は『有配偶率』の低下、すなわち若者の『未婚化』であると考えられる」(日本経団連の提言)。

  「なぜ効果が不十分だったのだろうか。その理由としては、次のようなことが考えられる。第1は、政策が、少子化の根本的な原因にうまく照準を合わせていなかった可能性がある。例えば、これまでの『少子化対策』は、『子育て支援』という言葉からも分かるように、結婚して、子どもを産んだ後のステージをターゲットとしたものだった。しかし、前述のように、少子化の大きな原因は、結婚の減少、若者の生活不安など、結婚・子育ての前のステージにある。結婚後だけでなく、結婚前のステージに向けての政策的対応が不十分だったのではないか」(21世紀政策研究所『実効性のある少子化対策のあり方』)。

 日本経団連の提言やシンクタンクの報告書は、こうした「少子化の主な原因=若者の未婚率上昇」という単純な分析をもとに、若者が結婚しやすいような条件づくりとしての「働き方改革」にとりくむことを提案しています。しかし、財界の求める「働き方改革」とは、従来から財界が要求してきた「労働法制の規制撤廃」であり、「労働ビッグバン」にほかなりません。

 もともと、「少子化」の原因を結婚前のステージと結婚後のステージに分けてどちらが主な原因であるかなどと論ずること自体あまり意味のあることとは思えません。個々人の生活サイクルでは、結婚が出産・育児に先行することは当然ですが、だからといって未婚・晩婚化か少子化の第1の原因だということにはなりません。日本の出生率の低下は、未婚・晩婚化の傾向が強まる以前の1970年代80年代からすでにはじまっており、未婚・晩婚化は、「少子化」傾向に拍車をかけているだけです。

 大事なことは、未婚率の上昇、晩婚化の傾向と出産・育児にともなう困難は、その根源は同じであり、その深い原因を探究することです。後に第6章で解明するように、日本で「少子化対策」がこれまで効果をあげてこなかった原因には「3つの失敗」があり、それらの根源を突き詰めると、結局、現代日本の「資本主義のあり方」に行きっきます。「3つの失敗」という言い方の延長線上でいうなら、さしずめ「資本の失敗」、「資本主義の失敗」とでもいうべきでしょう。
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