『格差社会と現代流通』より 格差社会の進展にともなうマーケティングの変化
本節では、衣料品流通チャネルの変容について考察する。第1節でみたように、衣料品は大幅に名目消費支出が減少した分野である。この消費の停滞に対応して、流通チャネルがいかに変容したのかについて、特に小売業における変化に注目して論じる。
従来の衣料品流通チャネル
最初に従来の衣料品流通チャネルの特徴を概観した上で、近年の変化を明らかにする。
従来の衣料品流通チャネルの特徴として、第1に、衣料品流通の全体像を概観した図表5-6が示すように、紡績や縫製といった生産工程や、生産と販売といった機能が多段階にわたり、それぞれ異なる企業が担っていたことがある。主に卸売段階に位置するアパレルメーカーがチャネルリーダーを担い、自社でブランドをもち、商品企画を行い、生産は縫製メーカーやニッター(編みたてメーカー)に委託するなどして、全体を管理している。このように多段階にわたり多くの企業が複雑に関係しあうことで、在庫などのリスクを広く薄く分担できていた。
第2に、百貨店などを中心に委託販売が行われていた。委託販売とは小売業者が発注した商品を店頭に並べ、売れた分だけアパレルメーカーに代金を支払い、売れ残った商品は返品できるという制度である。メーカーから商品を買い、それを消費者に販売する買取制では、小売業が販売リスクをすべて負うことになり、品揃えや販売量が限定されることになるが、委託販売のもとではそのリスクが低下するため、積極的に品揃えを展開することが可能となる。その一方で、返品にともなうコストが商品の原価にあらかじめ含まれるため、商品価格は高くなる。このように、ファッション性が高く、販売リスクが高い衣料品ではそのリスクを複数の企業で分担する流通の仕組みであった。
近年の動向について、流通チャネル別の売上の変化をみると、図表5-7が示すように、百貨店と量販店(総合スーパーなど)が減少する一方で、専門店が売上を伸長させている。その専門店の中でも特に成長著しいのがユニクロ(ファーストリテイリング社)である。同社の成長要因として指摘されるのがSPAである。SPAとは、Specialty store retailer of Private label Apparel の略称で、アパレルメーカーが生産した商品を販売するのではなく、独自にデザインしたプライべートブランドを製造、販売する小売業のことである4)。すなわち、小売業が自社でデザインや、生産まで担うということであり、従来の複雑な分業関係を特徴とする衣料品流通チャネルとは大きく異なっている。 1990年代末から日本に進出して注目されたZARA(Inditex社)やH&MなどもSPAである。他にも、アパレルメーカーであるワールドや、ユナイテッドアローズのようなセレクトショップも部分的にSPA化している。図表5-8をみると、アパレル小売業の売上高全体に占めるSPAの割合が増大していることが分かる。さらに、衣料品以外にも、家共・卸貨ではニトリ、無印良品(良品計画社)、イケア、靴ではABCマート、眼鏡ではジェイアイエヌなどがSPAである。
SPAの特徴:ユニクロ
SPAの背景
ファーストリテイリングは、衣料品流通において成長を続けている代表的な企業の1っである。同社の中核事業であるユニクロは、2010年時点で売上高6783億5300万円、店舗数944店舗にまで成長している。ユニクロの強みは、同社の最大のヒット商品の1つである「ヒートテック」に代表されるように機能性に優れる一方で、ファッション性という点ではベーシックな製品を、低価格で生産、販売できるという点である。
もともとユニクロもリーバイスなどのメーカー商品を販売する一般的な衣料品小売企業であったが、創業者である柳井氏が台湾企業ジョルダーノなどの視察以降、自社企画商品の製造・販売へと転換していった。
実際の転換が始まるのは、1998年以降である。 94年の上。場以降、ユニクロは出店の増加により売上高は増加する一方で、経営利益率が低下するなど経営効率が悪化していた。その打開策として、97年に新業態「スポクロ」「ファミクロ」を出店したが、売上高が計画に達せず一年足らずで撤退した。
経営効率低下の原因として、生産と販売の乖離があった。過剰に生産した商品が余れば、大幅に値引きして売り切らなければならず値引きロスが生じる。反対に需要が集中した商品は生産が追いっかず品切れすれば、機会ロスが生じる。従来はシーズンの一年ほど前までに委託生産工場に発注し、シーズンの前には生産を完了する。後は在庫数量を確認しながら、少しずつ価格を引き下げてシーズン終了までに売り切るというものであり、販売動向に介わせて供給量を削減したり、追加生産したりすることができなった。
そこで同社は、抜本的な改革を行うために、ABC(オール・ベター・チェンジ)改革をすすめた。「作った商品をいかに売るかではなく、売れる商IWIをいかに早く特定し、作るかの作業に焦点を合わせる」ために、企川段階から生産、物流、販売にいたるまで自社ですべてをコントロールする仕組みづくりを行った。
SPAの仕組み
ユニクロでは、まず製品開発部門のデザイナーがデザインを決定する。その上で、原材料の調達が行われるが、同社は、機能面に差別化を求めており、東レなどの繊維メーカーと共同開発をすすめるなど、原材料面で積極的に活動している。その後、生産数量やマーケティング計画が決定される。
その決定した生産数量に基づいて、生産が行われる。ユニクロの商品の約80%が、中国で生産されており、近年では販売拠点のグローバル化に伴い、生産拠点もベトナム、カンボジア、タイ、バングラデシュなど東南アジアヘも拡大している。そこで現地企業と契約し、委託生産を行っている。完成した商品は、店舗に送られて、販売されることになる。
ユニクロは、SKU (Stock Keeping Unit : 最小在庫単位)レペル、すなわち商品別、カラー別、サイズ別に週間販売計画を立てたうえで生産に着手する。生産ではすべてを一度にっくるのではなく、工場と直接交渉を行い、糸、生地、製品の3段階で発注管理を行い、最終段階の製品を発注するときには、週次ベースの販売実績に基づいてきめ細かく需要を分析し、追加生産したり、生産を中止したりする。このように、製品として生産する前に調整することで事前に需給ギャップを小さくしている。
商品が店頭に並ぶと、週次ベースで販売計画と販売実績の乖離を分析し、計画を下回れば、チラシと連動した期問限定値下げなどで販売促進する。販促によって当初の計画に戻れば商IWIの価格は当初の計画に戻される。計画を上回った商品は、追加生産を行う。
このようにユニクロは、高度なサプライチェーンの管理を実現し、実際の製造以外の機能をすべて自社で担うことで、従来多段階の企業で広く薄く分担していた販売リスクをすべて自社で負担し、余分なマージンが不要になり、その分価格を引き下げることができ、より低価格での販売が可能となった。
SPAの条件
ユニクロはSPAを実現することで販売助向に応じた柔軟な生産・在庫管理を可能にした。資本関係のない委託工場であるにもかかわらず、このような高度な調整を可能にしている主に2つの要囚がある。
第1に、発注ロットが非常に大きいということである。 ABC改革で、それまで1シーズン400品番であったのを、200品番まで品番を半分に削減した。それにより一品番ごとの発注量が大きくなる。さらに、中国各地に約140社あった委託生産工場を(1)生産能力、(2)品質管理体制、(3)財務諸表、(4)工場経営者の人柄の4つの基準で選別し、特に優秀な40ヵ所に集約した。それにより工場に発注する生産量が大幅に増大した。このように品番を絞り込み、品番あたりの発注量を引き上げることで工場の生産ラインや工場そのものをいわば占有している状態になる。それによって委託工場の生産工程を自社工場のようにコントロールすることが可能となる。
第2に、工場への技術指導者の派遣による技術水準の向上である。従来工場とは直接取引ではなく商社などを媒介したものであった。技術指導も商社などが派遣していた。それを「匠プロジェクト」と称して、自社で技術指導者を確保して派遣し、その委託工場に品質をチェックすることで品質を担保すると同時に、改善活動を通じて技術水準を向上させた。
以上のように、従来の衣料品流通チャネルは、需要の不確実性が高い衣料品を生産・販売するために、複雑な分業構造と商慣行を特徴としていた。しかし、消費者の需要が縮小する中で、コストの引き下げと機会損失の防止が求められるようになった。その具体的な対応が、SPAである。ユニクロは、1990年代終わりからSPA構築に着手し、販売動向に対応した柔軟な調幣を実現し、成功を収めている。
このように衣料品や家具など市場が縮小する分野では、単にメーカー商品を低価格で仕入れて、販売するというだけでなく、自ら生産段階にまで踏み込み、サプライチェーン全体を管理することで製品そのものを低価格にするだけでなく、消費者が求めるときに販売できるような流通チャネルヘと変容している。
本節では、衣料品流通チャネルの変容について考察する。第1節でみたように、衣料品は大幅に名目消費支出が減少した分野である。この消費の停滞に対応して、流通チャネルがいかに変容したのかについて、特に小売業における変化に注目して論じる。
従来の衣料品流通チャネル
最初に従来の衣料品流通チャネルの特徴を概観した上で、近年の変化を明らかにする。
従来の衣料品流通チャネルの特徴として、第1に、衣料品流通の全体像を概観した図表5-6が示すように、紡績や縫製といった生産工程や、生産と販売といった機能が多段階にわたり、それぞれ異なる企業が担っていたことがある。主に卸売段階に位置するアパレルメーカーがチャネルリーダーを担い、自社でブランドをもち、商品企画を行い、生産は縫製メーカーやニッター(編みたてメーカー)に委託するなどして、全体を管理している。このように多段階にわたり多くの企業が複雑に関係しあうことで、在庫などのリスクを広く薄く分担できていた。
第2に、百貨店などを中心に委託販売が行われていた。委託販売とは小売業者が発注した商品を店頭に並べ、売れた分だけアパレルメーカーに代金を支払い、売れ残った商品は返品できるという制度である。メーカーから商品を買い、それを消費者に販売する買取制では、小売業が販売リスクをすべて負うことになり、品揃えや販売量が限定されることになるが、委託販売のもとではそのリスクが低下するため、積極的に品揃えを展開することが可能となる。その一方で、返品にともなうコストが商品の原価にあらかじめ含まれるため、商品価格は高くなる。このように、ファッション性が高く、販売リスクが高い衣料品ではそのリスクを複数の企業で分担する流通の仕組みであった。
近年の動向について、流通チャネル別の売上の変化をみると、図表5-7が示すように、百貨店と量販店(総合スーパーなど)が減少する一方で、専門店が売上を伸長させている。その専門店の中でも特に成長著しいのがユニクロ(ファーストリテイリング社)である。同社の成長要因として指摘されるのがSPAである。SPAとは、Specialty store retailer of Private label Apparel の略称で、アパレルメーカーが生産した商品を販売するのではなく、独自にデザインしたプライべートブランドを製造、販売する小売業のことである4)。すなわち、小売業が自社でデザインや、生産まで担うということであり、従来の複雑な分業関係を特徴とする衣料品流通チャネルとは大きく異なっている。 1990年代末から日本に進出して注目されたZARA(Inditex社)やH&MなどもSPAである。他にも、アパレルメーカーであるワールドや、ユナイテッドアローズのようなセレクトショップも部分的にSPA化している。図表5-8をみると、アパレル小売業の売上高全体に占めるSPAの割合が増大していることが分かる。さらに、衣料品以外にも、家共・卸貨ではニトリ、無印良品(良品計画社)、イケア、靴ではABCマート、眼鏡ではジェイアイエヌなどがSPAである。
SPAの特徴:ユニクロ
SPAの背景
ファーストリテイリングは、衣料品流通において成長を続けている代表的な企業の1っである。同社の中核事業であるユニクロは、2010年時点で売上高6783億5300万円、店舗数944店舗にまで成長している。ユニクロの強みは、同社の最大のヒット商品の1つである「ヒートテック」に代表されるように機能性に優れる一方で、ファッション性という点ではベーシックな製品を、低価格で生産、販売できるという点である。
もともとユニクロもリーバイスなどのメーカー商品を販売する一般的な衣料品小売企業であったが、創業者である柳井氏が台湾企業ジョルダーノなどの視察以降、自社企画商品の製造・販売へと転換していった。
実際の転換が始まるのは、1998年以降である。 94年の上。場以降、ユニクロは出店の増加により売上高は増加する一方で、経営利益率が低下するなど経営効率が悪化していた。その打開策として、97年に新業態「スポクロ」「ファミクロ」を出店したが、売上高が計画に達せず一年足らずで撤退した。
経営効率低下の原因として、生産と販売の乖離があった。過剰に生産した商品が余れば、大幅に値引きして売り切らなければならず値引きロスが生じる。反対に需要が集中した商品は生産が追いっかず品切れすれば、機会ロスが生じる。従来はシーズンの一年ほど前までに委託生産工場に発注し、シーズンの前には生産を完了する。後は在庫数量を確認しながら、少しずつ価格を引き下げてシーズン終了までに売り切るというものであり、販売動向に介わせて供給量を削減したり、追加生産したりすることができなった。
そこで同社は、抜本的な改革を行うために、ABC(オール・ベター・チェンジ)改革をすすめた。「作った商品をいかに売るかではなく、売れる商IWIをいかに早く特定し、作るかの作業に焦点を合わせる」ために、企川段階から生産、物流、販売にいたるまで自社ですべてをコントロールする仕組みづくりを行った。
SPAの仕組み
ユニクロでは、まず製品開発部門のデザイナーがデザインを決定する。その上で、原材料の調達が行われるが、同社は、機能面に差別化を求めており、東レなどの繊維メーカーと共同開発をすすめるなど、原材料面で積極的に活動している。その後、生産数量やマーケティング計画が決定される。
その決定した生産数量に基づいて、生産が行われる。ユニクロの商品の約80%が、中国で生産されており、近年では販売拠点のグローバル化に伴い、生産拠点もベトナム、カンボジア、タイ、バングラデシュなど東南アジアヘも拡大している。そこで現地企業と契約し、委託生産を行っている。完成した商品は、店舗に送られて、販売されることになる。
ユニクロは、SKU (Stock Keeping Unit : 最小在庫単位)レペル、すなわち商品別、カラー別、サイズ別に週間販売計画を立てたうえで生産に着手する。生産ではすべてを一度にっくるのではなく、工場と直接交渉を行い、糸、生地、製品の3段階で発注管理を行い、最終段階の製品を発注するときには、週次ベースの販売実績に基づいてきめ細かく需要を分析し、追加生産したり、生産を中止したりする。このように、製品として生産する前に調整することで事前に需給ギャップを小さくしている。
商品が店頭に並ぶと、週次ベースで販売計画と販売実績の乖離を分析し、計画を下回れば、チラシと連動した期問限定値下げなどで販売促進する。販促によって当初の計画に戻れば商IWIの価格は当初の計画に戻される。計画を上回った商品は、追加生産を行う。
このようにユニクロは、高度なサプライチェーンの管理を実現し、実際の製造以外の機能をすべて自社で担うことで、従来多段階の企業で広く薄く分担していた販売リスクをすべて自社で負担し、余分なマージンが不要になり、その分価格を引き下げることができ、より低価格での販売が可能となった。
SPAの条件
ユニクロはSPAを実現することで販売助向に応じた柔軟な生産・在庫管理を可能にした。資本関係のない委託工場であるにもかかわらず、このような高度な調整を可能にしている主に2つの要囚がある。
第1に、発注ロットが非常に大きいということである。 ABC改革で、それまで1シーズン400品番であったのを、200品番まで品番を半分に削減した。それにより一品番ごとの発注量が大きくなる。さらに、中国各地に約140社あった委託生産工場を(1)生産能力、(2)品質管理体制、(3)財務諸表、(4)工場経営者の人柄の4つの基準で選別し、特に優秀な40ヵ所に集約した。それにより工場に発注する生産量が大幅に増大した。このように品番を絞り込み、品番あたりの発注量を引き上げることで工場の生産ラインや工場そのものをいわば占有している状態になる。それによって委託工場の生産工程を自社工場のようにコントロールすることが可能となる。
第2に、工場への技術指導者の派遣による技術水準の向上である。従来工場とは直接取引ではなく商社などを媒介したものであった。技術指導も商社などが派遣していた。それを「匠プロジェクト」と称して、自社で技術指導者を確保して派遣し、その委託工場に品質をチェックすることで品質を担保すると同時に、改善活動を通じて技術水準を向上させた。
以上のように、従来の衣料品流通チャネルは、需要の不確実性が高い衣料品を生産・販売するために、複雑な分業構造と商慣行を特徴としていた。しかし、消費者の需要が縮小する中で、コストの引き下げと機会損失の防止が求められるようになった。その具体的な対応が、SPAである。ユニクロは、1990年代終わりからSPA構築に着手し、販売動向に対応した柔軟な調幣を実現し、成功を収めている。
このように衣料品や家具など市場が縮小する分野では、単にメーカー商品を低価格で仕入れて、販売するというだけでなく、自ら生産段階にまで踏み込み、サプライチェーン全体を管理することで製品そのものを低価格にするだけでなく、消費者が求めるときに販売できるような流通チャネルヘと変容している。
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