goo

仲のよい人間関係は150人が限界

『99.996%はスルー』より 進化は情報量とともに 結局、スルーが基本だった

脳が限界を決めているのか

 本章の最後に、進化と脳と情報量の関係についても、触れておこう。化石レペルの研究だと、頭蓋骨の中の脳容量は、人類の進化(猿人→原人→旧人→新人)とともに増えている。ということは、おおまかには、脳の大きさで知能や知性を評価できるかも? という仮説が立てられる。しかし、体格が大きければ、当然、脳も大きくなるはずだ。身体の大きいほうが、知能が高い?さすがに、そこまで単純ではないだろう。

 これを発展させ、「体重に対する脳の割合が大きいほど、知的な動物だ」という仮説を1973年に立てたのが、ハリー・ジェリソンだ。彼の提唱した脳化指数(厳密には、単純な割合ではない)は、知的と思われる動物ほど、大きくなる傾向が見られた。一番大きいのは、断トツでヒトである(脳化指数:7・4~7・8)。そのあとバンドウイルカが並ぶ(約5・3)。よくイルカは賢い動物だ、といわれる根拠である(実際、賢いけどね)。サルの仲間で、シロガオオマキザルは4・8である。しかし、このサルは、そんなに賢いとは、評価されていない。むしろ賢いサルの代表格としては、やはりチンパンジーになるだろう(一般に、3~4歳児ぐらいの知能を持つみたいやね)。ところが、そんなチンパンジーの脳化指数は2・2~2・5と、シロガオオマキザルより小さいのだ。やはり、脳全体の重量で単純に考えることは、無理があるのかもしれない。

 そこで、ロビン・ダンバーは、いろんなサルの「脳髄質に対する大脳新皮質の割合」を計算してみた。すると、進化の進んでいるサルほど値が大きくなった(もちろん、ここでもヒトは断トツ)。脳の中でも、高度な情報処理を司っているのは、主に大脳新皮質なのだから、当然の結果だろう。

 ここでダンパーは、ちょっと面白いデータを出した。サルの群れの頭数と大脳新皮質の割合をグラフ化したのだ。すると、脳全体に対する大脳新皮質の割合が大きいほど、群れの最大頭数が大きくなっていることが分かった。ちなみに大脳新皮質の割合が小さい順(つまり進化の古い順)で並べると、テナガザルの群れが平均4匹、ゴリラが8匹、チンパンジーで50匹なのだそうだ。群れの頭数は、個体が行うコミュニケーションの情報量と比例するだろう。ようするに、脳が処理できる情報量に合わせて、コミュニケーションの可能な頭数が決まる可能性を示しているのだ。これを言い換えると、大脳新皮質の肥大化は、仲良し集団のサイズを大きくするような進化の結果だと仮説を立てることができる(社会脳仮説)。そして、彼は、このグラフで計算できる、大脳新皮質の大きさに沿った集団のサイズを「ダンパー数」と呼ぶことにした。

 当然、このグラフから、ヒトのダンパー数を計算したくなる。すると、だいたい100~230人という結果になった。ようするに150人くらいが、平均的なヒトの仲良しグループの上限らしい。これは経験則的にも、どうやら正しそうである。例えば、アフリカやパプアニューギニアなどの部族や村人が、そのくらいの人数なのだそうだ。明文化されていないルールで意思の疎通ができて、上手く動ける会社組織の規模が、150人くらいまでという話も、よくいわれる。それ以上の大きな組織になると、ルールを明文化するなり管理部署を分けるなりする必要があるそうだ。ようするに、「特別なルールを作らなくても、自然発生的にコミュニケーションできる人数」の上限と解釈できるわけだ。

仲のよい人間関係は150人が限界

 あるWebの記事に、ダンパー数に挑戦する、という面白い話が掲載されていたので紹介してみよう。記者には、Facebookで2000人の友人がいるそうだ。特別、増やそうと思ったわけではないらしいが、ダンパー数の約10倍である。ところが、いざ、その2000人に彼から連絡を取ってみると、スルーされるわ、「あなた誰だっけ?」と返されるわ、散々だったらしい(実際は1000人で頓挫したそうだ)。ちゃんとした繋がりが確認できた友人は200人に満たなかったのだ。つまり、彼は、挑戦どころか、ダンパー数のもっともらしさを確かめたことになる。

 少し興味深いのは、ヒトは2000人くらいの顔を記憶できるらしいのだ。つまり、親しくなくても、知り合い程度なら2000人くらいは大丈夫らしい。そう考えると、この記者の、Facebookでの友人が2000人というのは、ちょっと面白い(たぶん偶然やと思うけど)。

 おそらく、現時点で、ヒトという種が処理できる情報量として、仲のよい人間関係は、150人前後が限界点なのかもしれない(個人差はあるやろけど)。しかし、僕ら、ヒトの社会は、そんな人数ではすまない。実際のところ、大きな会社の従業員なら、数万人を下らないわけだ。そこには、大脳新皮質の中でも、ヒトに特有である、前頭前野(意思を司る脳の領域)の肥大が関係しているのかもしれない。その後の論文によれば、そんなふうに、ダンパーは考えているようだ。ダンパーは大脳新皮質に注目したわけだが、ケビン・ビッカートは、「感情」や「好き嫌い」「記憶」などに関係する脳部位として知られる、扁桃体に注目した。彼の研究によれば、社会的ネットワークが「大きく(定期的に連絡を取っている人数)」「複雑(所属する友人グループの数)」なヒトであるほど、扁桃体が大きかったそうだ。脳機能の解明と社会行動をリンクさせるような研究は、今後も注目である。

 さて、読者の皆さんの密な人間関係は、ダンパー数に比べてどうだろうか? 今のところ、こうした能力が後天的(環境や訓練)で増すものか、遺伝的に決まっているのか、明確な結論は出ていない。でも、童謡の「一年生になったら」で、友だち百人できるかな? と歌ったのは、少し控えめな数字だったかもしれない。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« シェール革命... 国家は貧困を... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。