未唯への手紙
未唯への手紙
若者は仕事に希望を持てないのか
『日本の若者はなぜ希望を持てないのか』より
7カ国中第1位、なぜ日本では専業主婦の希望度が高いのか
先の就業状況別に見た希望度でいまひとつ気になるのは、フルタイムにせよパートタイムにせよ、働いている若者の中で希望を持っている者の割合よりも、専業主婦(カテゴリーは専業主婦・主夫であるが、男性の回答者がいなかったので「・主夫」を除く)の中で希望を持っている者の割合の方が高いことである。これは一体、どういうことだろうか。
1つ考えられるのは金銭的な不安が解消もしくは軽減されたという可能性である。第2章で明らかにしたように、金銭的な不安は希望度を押し下げる傾向がある。金銭的な不安があれば結婚しても働くはずであり、専業主婦にはならないと考えれば、専業主婦をしている人たちは働かなくてもいい人々、つまり金銭的な不安がなく、ゆえに希望度が高い人々ということになるのかもしれない。
ところが、実際に調べてみるとどうもそうではないようだ。フルタイムで働いている日本の若者のうち、お金のことが「心配」という回答の割合は44%、「どちらかといえば心配」を合わせると79%であったが、専業主婦については、「心配」が59%で、「どちらかといえば心配」を合わせると86%と、実は専業主婦の方が金銭的な不安度は高い。女性が専業主婦をしている家庭が、必ずしもお金に困っていないわけではないのだ。
専業主婦の希望度が高い理由として次に考えられるのは、結婚の効果である。第3章で見たように、結婚・事実婚をしている若者は、そうでない若者よりも希望を持っている可能性が高い。『若者調査』によると、日本においてフルタイムで働く若者のうち結婚・事実婚をしているのはわずか21%、パートタイムでも28%にとどまっているので、結局はこの差が全体としての希望度の差に表れているといえそうである。
それでは、このような現象は日本に特有のものなのか。第3章で明らかにしたように、パートナーの有無が希望の持ち方に与える影響は日本においてとりわけ高いが、イギリス、韓国、スウェーデンについても、統計的に有意な影響が認められる。それでは、これらの国々においても専業主婦・主夫の希望度は、働いている者に比べて高いのであろうか。
図表は、専業主婦・主夫とフルタイム就業者の間で、将来に希望を持っている者の割合にどのくらいの差があるかを、国ごとに算出したものである。これによると、専業主婦の希望度がフルタイム就業者を上回っているのは日本のみである。同じ東アジア文化圏の韓国においては、専業主婦(韓国の回答者も全て女性であった)の希望度がフルタイム就業者を下回ってはいないが、上回ってもいない。さらにフランスとスウェーデンにおいては、日本とは対照的に専業主婦・主夫の希望度が著しく低いのである。
特にスウェーデンでは、パートナーの存在が希望度を上げているにもかかわらず、それを全く帳消しにするほど、専業主婦・主夫の希望度が低い。スウェーデンも、かつて1960年代までは男性が仕事をし、女性が家を守るというスタイルが一般的であったが、1970年代から1980年代にかけて急速に意識と制度の改革が進み、今では男女ともにフルタイムの正社員として働くことがごく当たり前となっている。
日本では、働かずに育児と家事に専念することがライフコースにおける積極的な選択肢の1つとして認められているが、スウェーデンで専業主婦や主夫になるというのは、様々な事情で働けない、もしくは仕事が見つからなかった結果として、仕方なくそうしていることが多いようだ。スウェーデンで暮らしていた時に、スウェーデン人の男性と結婚してやってきた日本人の女性から、パートナーから働いてほしいというプレッシャーがかかっているが、スウェーデン語が十分話せないためになかなか職が得られないので困っているという悩みをよく聞いたものだ。
日本のアニメが好きなスウェーデンの女子大生から、「私もサザエさんやのび太のママみたいに働かないでずっと家にいたいです」と冗談交じりに言われたことがあるが、彼女たちは本気でそう思ってはいない。逆に日本では、大学を卒業したらまずは働きたいけれども、もし経済力のある男性と結婚できたら、仕事をやめて専業主婦になりたいです、と真剣に語る女子大生が少なくない。
つまり、ものすごく単純化していえば、スウェーデンでは「働けないから専業主婦・主夫になる」という流れになっているのに対して、日本では「専業主婦・主夫になれないから働く」という流れになっている。そして、これが両国における専業主婦・主夫の希望度の差に表れているのである。
そういえば、2015年4月に放映された「サザエさん」のアニメで、サザエさんがスーパーのパートタイマーとして働きに出たことが一部で話題となった。専業主婦のシンボルであったサザエさんが働きに出るというストーリーはどうやら初めてだったらしいが、結局「夕ラちゃんが寂しがっている」という理由ですぐに辞めてしまったというオチであったとのことこれをスウェーデン人が見たら何と言うだろうかと、ふと考えてしまった。
どの国よりも長い日本の失業期間
リーマンショック以降、景気の低迷が続いているヨーロッパ諸国における大きな悩みの種の1つが、若者の失業である。OECDの統計によれば、ギリシャにおける2013年時点の15歳から24歳の若者の失業率は、なんと58・3%。若者の半数以上が失業しているという異常な事態である。『若者調査』の対象国においても、イギリス、フランス、スウェーデンでは20%を超えている。ヨーロッパで最も若者の失業率が低いのはドイツであるが、それでも7・9%である。これに対して日本は6・9%と、OECD加盟34カ国中で最も低い。失業率の定義は国によって異なる場合があるので、単純な比較には注意が必要だが、それでも注目すべき点である。
日本の若者の失業率が低いのは、そもそも全体の失業率が低い(2013年時点で4・O%)こともあるが、新卒一括採用制度によるところも大きい。先に述べたように、新卒一括採用制度では就業経験や高度な専門性が問われないので、高校や大学を卒業したばかりの若者が就職しやすい制度になっている。ヨーロッパの多くの国々の若者のように、就業経験がないから採用されない↓採用されないから就業経験を積めない、という悪循環にはまらなくて済むのである。ちなみにドイツの場合は、中等教育以降において充実した職業訓練を実施することで、この問題を解決している。
ただし新卒一括採用制度は深刻な問題も生み出している。それは長期失業である。在学中の就職活動がうまくいかなかった、あるいは新卒で就職したけれども辞めてしまった、などの理由で「新卒」の扱いを受けられなくなってしまうと、次の就職先を見つけるのがとても難しくなる。結局、企業が「新卒」枠を設けて新卒者を優遇するので、その枠に当てはまらない者は、それだけ不利な状況に置かれてしまうということだからだ。
実際、日本の若者(15~24歳、2013年)の失業者について、失業している期間の長さ別の割合を示すと、図表のようになる。他の多くの国々では「1ヵ月未満」や「1ヵ月以上3ヵ月未満」の割合が多い、つまり3ヵ月以内に職を探して失業状態から抜ける者が多いのに対して、日本では「1年以上」が32・4%、つまり若者の失業者の約3人にI人が1年以上職探しをしているという状況なのである。『若者調査』の対象国の中で、長期失業者の割合がこれほど高いのは日本だけなのである。
このことが、失業している日本の若者の希望の持ち方にどのような影響を与えるのかについて考えてみよう。むろん、働いている人よりも職を失った人の方が、将来への希望が持ちにくくなるというのは、日本だけでなく他の国々であっても変わらない。
しかし、職を失っても比較的早く次の職が見つかる国よりも、職を失ったらなかなか次の職が得られない国の方が、若者が希望を持ちにくくなるに違いない。このことを証明すべく、失業中の若者と、フルタイムもしくはパートタイムで就業中の若者との間の希望度の差(失業者の希望度から就業者の希望度を引いた数値)を算出し、それを国際比較したのが図表である。
これによると、日本において失業が希望に与える負のインパクトは、やはり諸外国に比べて大きい。日本に次いでインパクトが大きいのはドイツであるが、ドイツもまた、日本ほどではないものの、長期失業者の割合が23・2%と高い。日本もドイツも、システムの違いはあるものの、ともに失業率を比較的低く抑え、雇用の安定に成功している。おそらくそれゆえに、そのシステムに乗れなかった、あるいはそのシステムから外れてしまった者は再び戻るのが難しく、しかも「周りはうまくいっているのに、自分だけ……」という劣等感に苛まれることになるのだろう。
これら日本やドイツと対照的なのは韓国である。韓国でも失業中の若者の方が働いている者よりも希望度が低い。しかしその差は、統計的な有意と認められないほど小さい。韓国の失業率は日本やドイツよりも高いが、若者の失業者のうち3ヵ月未満の者が74・O%と大半で、1年以上の長期失業者の割合は、わずかO・2%に過ぎない。つまり韓国では、日本やドイツよりも簡単にクビを切られるが、次の職を見つけるのも日本よりずっと簡単であり、失業がことさらに希望度を低下させることがないのである。
7カ国中第1位、なぜ日本では専業主婦の希望度が高いのか
先の就業状況別に見た希望度でいまひとつ気になるのは、フルタイムにせよパートタイムにせよ、働いている若者の中で希望を持っている者の割合よりも、専業主婦(カテゴリーは専業主婦・主夫であるが、男性の回答者がいなかったので「・主夫」を除く)の中で希望を持っている者の割合の方が高いことである。これは一体、どういうことだろうか。
1つ考えられるのは金銭的な不安が解消もしくは軽減されたという可能性である。第2章で明らかにしたように、金銭的な不安は希望度を押し下げる傾向がある。金銭的な不安があれば結婚しても働くはずであり、専業主婦にはならないと考えれば、専業主婦をしている人たちは働かなくてもいい人々、つまり金銭的な不安がなく、ゆえに希望度が高い人々ということになるのかもしれない。
ところが、実際に調べてみるとどうもそうではないようだ。フルタイムで働いている日本の若者のうち、お金のことが「心配」という回答の割合は44%、「どちらかといえば心配」を合わせると79%であったが、専業主婦については、「心配」が59%で、「どちらかといえば心配」を合わせると86%と、実は専業主婦の方が金銭的な不安度は高い。女性が専業主婦をしている家庭が、必ずしもお金に困っていないわけではないのだ。
専業主婦の希望度が高い理由として次に考えられるのは、結婚の効果である。第3章で見たように、結婚・事実婚をしている若者は、そうでない若者よりも希望を持っている可能性が高い。『若者調査』によると、日本においてフルタイムで働く若者のうち結婚・事実婚をしているのはわずか21%、パートタイムでも28%にとどまっているので、結局はこの差が全体としての希望度の差に表れているといえそうである。
それでは、このような現象は日本に特有のものなのか。第3章で明らかにしたように、パートナーの有無が希望の持ち方に与える影響は日本においてとりわけ高いが、イギリス、韓国、スウェーデンについても、統計的に有意な影響が認められる。それでは、これらの国々においても専業主婦・主夫の希望度は、働いている者に比べて高いのであろうか。
図表は、専業主婦・主夫とフルタイム就業者の間で、将来に希望を持っている者の割合にどのくらいの差があるかを、国ごとに算出したものである。これによると、専業主婦の希望度がフルタイム就業者を上回っているのは日本のみである。同じ東アジア文化圏の韓国においては、専業主婦(韓国の回答者も全て女性であった)の希望度がフルタイム就業者を下回ってはいないが、上回ってもいない。さらにフランスとスウェーデンにおいては、日本とは対照的に専業主婦・主夫の希望度が著しく低いのである。
特にスウェーデンでは、パートナーの存在が希望度を上げているにもかかわらず、それを全く帳消しにするほど、専業主婦・主夫の希望度が低い。スウェーデンも、かつて1960年代までは男性が仕事をし、女性が家を守るというスタイルが一般的であったが、1970年代から1980年代にかけて急速に意識と制度の改革が進み、今では男女ともにフルタイムの正社員として働くことがごく当たり前となっている。
日本では、働かずに育児と家事に専念することがライフコースにおける積極的な選択肢の1つとして認められているが、スウェーデンで専業主婦や主夫になるというのは、様々な事情で働けない、もしくは仕事が見つからなかった結果として、仕方なくそうしていることが多いようだ。スウェーデンで暮らしていた時に、スウェーデン人の男性と結婚してやってきた日本人の女性から、パートナーから働いてほしいというプレッシャーがかかっているが、スウェーデン語が十分話せないためになかなか職が得られないので困っているという悩みをよく聞いたものだ。
日本のアニメが好きなスウェーデンの女子大生から、「私もサザエさんやのび太のママみたいに働かないでずっと家にいたいです」と冗談交じりに言われたことがあるが、彼女たちは本気でそう思ってはいない。逆に日本では、大学を卒業したらまずは働きたいけれども、もし経済力のある男性と結婚できたら、仕事をやめて専業主婦になりたいです、と真剣に語る女子大生が少なくない。
つまり、ものすごく単純化していえば、スウェーデンでは「働けないから専業主婦・主夫になる」という流れになっているのに対して、日本では「専業主婦・主夫になれないから働く」という流れになっている。そして、これが両国における専業主婦・主夫の希望度の差に表れているのである。
そういえば、2015年4月に放映された「サザエさん」のアニメで、サザエさんがスーパーのパートタイマーとして働きに出たことが一部で話題となった。専業主婦のシンボルであったサザエさんが働きに出るというストーリーはどうやら初めてだったらしいが、結局「夕ラちゃんが寂しがっている」という理由ですぐに辞めてしまったというオチであったとのことこれをスウェーデン人が見たら何と言うだろうかと、ふと考えてしまった。
どの国よりも長い日本の失業期間
リーマンショック以降、景気の低迷が続いているヨーロッパ諸国における大きな悩みの種の1つが、若者の失業である。OECDの統計によれば、ギリシャにおける2013年時点の15歳から24歳の若者の失業率は、なんと58・3%。若者の半数以上が失業しているという異常な事態である。『若者調査』の対象国においても、イギリス、フランス、スウェーデンでは20%を超えている。ヨーロッパで最も若者の失業率が低いのはドイツであるが、それでも7・9%である。これに対して日本は6・9%と、OECD加盟34カ国中で最も低い。失業率の定義は国によって異なる場合があるので、単純な比較には注意が必要だが、それでも注目すべき点である。
日本の若者の失業率が低いのは、そもそも全体の失業率が低い(2013年時点で4・O%)こともあるが、新卒一括採用制度によるところも大きい。先に述べたように、新卒一括採用制度では就業経験や高度な専門性が問われないので、高校や大学を卒業したばかりの若者が就職しやすい制度になっている。ヨーロッパの多くの国々の若者のように、就業経験がないから採用されない↓採用されないから就業経験を積めない、という悪循環にはまらなくて済むのである。ちなみにドイツの場合は、中等教育以降において充実した職業訓練を実施することで、この問題を解決している。
ただし新卒一括採用制度は深刻な問題も生み出している。それは長期失業である。在学中の就職活動がうまくいかなかった、あるいは新卒で就職したけれども辞めてしまった、などの理由で「新卒」の扱いを受けられなくなってしまうと、次の就職先を見つけるのがとても難しくなる。結局、企業が「新卒」枠を設けて新卒者を優遇するので、その枠に当てはまらない者は、それだけ不利な状況に置かれてしまうということだからだ。
実際、日本の若者(15~24歳、2013年)の失業者について、失業している期間の長さ別の割合を示すと、図表のようになる。他の多くの国々では「1ヵ月未満」や「1ヵ月以上3ヵ月未満」の割合が多い、つまり3ヵ月以内に職を探して失業状態から抜ける者が多いのに対して、日本では「1年以上」が32・4%、つまり若者の失業者の約3人にI人が1年以上職探しをしているという状況なのである。『若者調査』の対象国の中で、長期失業者の割合がこれほど高いのは日本だけなのである。
このことが、失業している日本の若者の希望の持ち方にどのような影響を与えるのかについて考えてみよう。むろん、働いている人よりも職を失った人の方が、将来への希望が持ちにくくなるというのは、日本だけでなく他の国々であっても変わらない。
しかし、職を失っても比較的早く次の職が見つかる国よりも、職を失ったらなかなか次の職が得られない国の方が、若者が希望を持ちにくくなるに違いない。このことを証明すべく、失業中の若者と、フルタイムもしくはパートタイムで就業中の若者との間の希望度の差(失業者の希望度から就業者の希望度を引いた数値)を算出し、それを国際比較したのが図表である。
これによると、日本において失業が希望に与える負のインパクトは、やはり諸外国に比べて大きい。日本に次いでインパクトが大きいのはドイツであるが、ドイツもまた、日本ほどではないものの、長期失業者の割合が23・2%と高い。日本もドイツも、システムの違いはあるものの、ともに失業率を比較的低く抑え、雇用の安定に成功している。おそらくそれゆえに、そのシステムに乗れなかった、あるいはそのシステムから外れてしまった者は再び戻るのが難しく、しかも「周りはうまくいっているのに、自分だけ……」という劣等感に苛まれることになるのだろう。
これら日本やドイツと対照的なのは韓国である。韓国でも失業中の若者の方が働いている者よりも希望度が低い。しかしその差は、統計的な有意と認められないほど小さい。韓国の失業率は日本やドイツよりも高いが、若者の失業者のうち3ヵ月未満の者が74・O%と大半で、1年以上の長期失業者の割合は、わずかO・2%に過ぎない。つまり韓国では、日本やドイツよりも簡単にクビを切られるが、次の職を見つけるのも日本よりずっと簡単であり、失業がことさらに希望度を低下させることがないのである。
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