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アイデアストアからサラボルサ

『図書館制度・経営論』より

図書館ではなくアイデアストアと呼ばれるこの施設は、利用者が区民の15%と英国では異例に低かったロンドン東部、タワーハムレッツ区に計画された「新しい図書館」で、その最初のものが2002年にバウ(Bau)にオープンした。週7日合計71時間開いていて、「ホワイエでは勉強も読書もできるし、広いカフェで食事もできる。ホールの至るところにインターネットにつながるコンピュータが置かれ、すぐに使える。図書館職員は成人教育と図書館の経験者で、一つのチームに統合され、同じTシャツを着ている。最初のアイデアストアの試作モデルの一部は改装された図書館で、[建てられてから]100年を経ていたが、鮮やかな色彩とモダンな家具のおかげで、レコード店かインターネットカフェのようになった。来館者は3倍になり、貸出は65%増えた」と政策文書『将来に向けての基本的考え方』(2003)にその状況が報告されている。

アイデアストアのウェブに「図書館と学習」とあるように、この「新しい図書館」では、図書館のサービスのほか、地域の人々のキャリアをつくる生涯学習ニーズに応えるよう、「美術とデザイン、ファッションと繊維、ビジネスと金融、健康と福祉、自動車保守、ITとコンピュータの使い方、建築、言語、ケーキ作り、音楽、ダンス、写真、家族学習」といった分野の800以上のコースが用意され、また、イペントスペースや託児所、小売店舗などを付加したもので、いわば「街角大学」をめざしている。

2012年にオープンしたウォトニイ・マーケット(Watney Market)のものは、図書館と「多元情報サービスとワンストップ・ショップ」を統合する、アイデアストアの新世代版だというふれこみである。提供されるものには、①成人と子ども図書館(CDやDVDやベストセラーを含めた広い範囲の収集を計画)、②インターネットアクセスによるサーフィン・スペース、③健康相談やその情報サービス、①「ワンストップショップ」による区役所のすべてのサービス、⑤「シングル・アクセスポイント」という、研修や技能向上や求職相談コーナー、⑥オンライン情報や地元研究などの高度なレファレンスや情報資源へのアクセスサービス、⑦展示スペース、があげられている。

アイデアストアの成功を受けて、さまざまな都市で図書館のブランドを更新する新しい公共図書館のあり方が試みられている。

その一つが、アイデアストアのチームの一人であったアントネラ・アンニョリ(Antonella Agnoli)が関与したイタリア、ボローニャのサラボルサ図書館である。もともとは証券取引所の建造物を活用した重厚な建物で、当然落ち着いた雰囲気が醸し出されているが、それとともに親しみやすい窓口の対応や、快適な利用席で、人々はめいめい読書やら、それぞれの関心の赴くまま過ごしている様子がみてとれる。また、アンニョリの専門の児童サービスの部門も充実している。

彼女の著書(邦訳『知の広場:図書館と自由』萱野有美訳、みすず書房、2011)に記されているように、識字教育の遅れという問題をかかえているイタリアでは、なによりも広く一般の人々のための読書の場として図書館が必要だったのである。実はボローニャには、広場を隔ててアルキジンナージオ図書館という、貴重なコレクションをもつ立派な図書館がある。しかし、そのような伝統的な保存図書館は、必ずしも人々の日常に役立っていたわけではなかった。両方が揃って公共図書館として担うべき役割の全体が果たせる。サラボルサ図書館によってボローニャの人々は、これまでなかった図書館ブランドを確保したといえる。

これらの新しい社会状況の中で成功をおさめている公共図書館には、次のような共通しか特徴があるように思われる。

 ① コミュニティのニーズを正確にとらえ、それに基づく設計である。

 ② 図書館はコミュニティの人々の場として、便利な場所にあって、必要なときには(週末でも夜でも)いつも開いている。

 ③ 図書館はオープンで人々を歓迎してくれる施設で、カフエなどもあり、くつろぐことができる。

 ④ 広い層の多くの人々に必要な情報や学習機会が、さまざまな媒体で入手できる。

 ⑤ 日々必要な社会サービスがそこに行けば利用できる、複合的な施設になっている。
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