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中国のオイルマネーが支える人権弾圧-スーダン共和国

『ルポ資源大陸アフリカ』より

ダルフールの反政府武装闘争が国内外の「有志」によって支えられているとすれば、人権抑圧を続けるスーダン政府の政治的・経済的後ろ盾は中国である。中国は二〇〇四年九月、国連安保理がスーダンヘの制裁決議を採択した際に棄権に回るなど、スーダン政府を政治的に支持、少なくとも理解する立場を取ってきた。その最大の理由は、中国がスーダンに持つ石油権益だ。

二〇〇七年二月には胡錦濤国家主席がスーダンを訪問し、バシル大統領との間で経済とエネルギーの協力に関する協定を結んだが、中国はそのずっと前からスーダンで石油開発を手掛けてきた。中国の石油開発が生み出す利益はスーダン政府の財政的生命線であるといっても過言ではなく、この問題に触れない訳にはいかない。

スーダンで油田探査が始まったのは一九七〇年代で、探査に当たっていたのは米国のシェブロン社であった。同社はスーダン南部で原油の埋蔵を確認したが、一九八九年に現大統領のバシル准将がクーデターで政権を掌握したことを受け、本格生産を始める前の九一年に撤退してしまった。その後、カナダの有力石油企業タスマリン社が開発に参画したが、タスマリン社も二〇〇二年に撤退する。米国政府がスーダンを「テロ支援国家」に指定していること、さらにはスーダン政府が油田開発のために南部の住民を強制移住させている弾圧の実態が明るみに出たため、米国の株式市場に上場しているタスマリン社に人権団体から激しい非難が寄せられたのである。

こうして欧米の主要石油企業が手を引く中、スーダンの油田開発の主役に躍り出たのが中国の国営石油企業「中国石油天然ガス集団公司(CNPC)」であった。CNPC社は一九九七年にスーダン南部で操業へ向けた準備を開始し、九九年十月、日産十二万七千バレルで石油生産を開始した。

プレハブ村にはざっと見たところ百台近い真新しい四輪駆動車があり、ほぼすべて日本車だ。ここでは常時約千二百人が寝泊まりしており、敷地内では英語、アラビア語、中国語が飛び交っている。プレハブと書くとイメージが悪いが、中は冷房完備の個室に細分化されており、シャワーと水洗トイレも完備。私も泊めてもらったが、実態は砂漠の高級ホテルである。食堂はバイキング形式の食べ放題。酷暑の乾燥帯での作業で体力の消耗が激しいことから、多くの作業員はプリン、ケーキ、チョコレートなどのデザート類を皿に山盛りにして食べる。油田は二十四時間操業で、作業は十二時間交代。暗闇の中、このプレハブ村と油井の明かりだけが煌々と灯っており、さながら砂漠の不夜城の観がある。 油井から汲み上げられた石油はCPF(Central Process Facility)と呼ばれる施設へ集められた後、長さ千六百十キロのパイブラノーンを通って紅海に面した港町ポートスーダンまで運ばれ、タンカーで積み出される。油井の現場を案内してくれたGNPOC社の前マネージャー、アブドルーマジード氏によると、ヘジリッジ油田で採掘された石油がもたらす収益の二割がGNPOC社に還元され、八割はスーダン政府の歳入になるという。

二〇〇五年二月にハルツームでインタビューしたジャズ・エネルギー鉱山大臣(当時)は「我々は世界中に門戸を開いており、世界のすべての企業の石油開発を歓迎する」と話していた。しかし、採掘の主役は、中国のCNPC社、マレーシアのペトロナス社、インドのOVL社の三社である。スーダン側は、SUDAPET社という国営石油会社を設立し、各鉱区で上記三社を中心とする外国企業と「共同開発」という形態をとってはいるか、各鉱区での出資比率は全体の五~十五%程度に過ぎない。独自の採掘技術を有していない点を考えても、実質的な開発の主役は完全に外国企業だ。

このようにして開発されている石油産業が、ダルフールにおけるスーダン政府の激しい人権抑圧とどう関係しているのか。当たり前のことだが、砂漠のただ中にそびえる油井の矢倉をただ眺めているだけでは、この関係は分からない。だが、スーダンの各種経済統計を詳細に見ることで、その関係性は徐々に浮き彫りになってくる。

一九八三年から二十二年にわたって続いた南北内戦により、九〇年代のスーダン経済は壊滅状態であった。一九八七年に約二百億ドルあった国内総生産は、九七年には約百十七億ドルにまで低下していた。だが、スーダン経済は一九九九年の油田の操業開始以降、劇的なV字回復を果たした。国内総生産は二〇〇六年には約三百六十四億ドル、○七年には約四百六十二億ドルにまで拡大した。二〇〇六年のスーダンの輸出総額は約五十七億ドルで、その実に約九十%を石油輸出が占めている。そして、石油輸出の約五十%は中国向けである。中国は爆発的な経済成長に伴って増大する原油需要を満たすため、自らの手でスーダンで石油を掘り、自国へ運び出していると言っても過言ではない。
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