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模倣されない人作り、国作り

『働く。なぜ?』より なぜ「就職」ではなく「就社」か--長期観察・長期育成・長期雇用 おじさんたちと「日本型雇用システム」

どんな仕組みにも光があれば影もあります。先の菅山真次は、「原理的矛盾を含まないシステムは世界のどこにも存在しない」とさえ言っています。だから、その「矛盾の存在に自覚的でありながら、なおかつ、「伝統」の最も優れた部分を活かしていくという視点に立つ、制度改革へのアプローチ」大切なのだと。

本章の冒頭で私はこう書きました。高度化する産業社会の要請に人事としてどう応えるか(義務)、そして高賃金国・日本にありながら引き続きどうやってこの国の雇用維持につとけるか、と。

では私たちは、この「義務」に応え、この「使命」を果たすためには、これから何をめざせばいいのでしょうか。そしてそれをめざす上で、大いに矛盾をはらんだ「日本型雇用システム」にどう向きあっていったらいいのでしょうか。

結論から言えば、その答えは「模倣されない人作り」です。

なお、その立論は多分に技術経営に詳しい延岡健太郎(一橋大学イノベーションセンター)に拠っています。ついては先ず延岡の主張を紹介し、その後もう一度持論にもどりたいと思います。模倣されにくい技術とは何か。延岡は、模倣されにくい技術には先ず「革新技術」と「積み重ね技術」の二つがあるといっています。「革新技術」とは業界における最先端の技術や特許、「積み重ね技術」とは組織として長年蓄積してきたノウハウやスキルや、経験知です。そしてその二つの内、圧倒的に売上・利益貢献度が高いのは、後者の「積み重ね技術」(全体の七六パーセント)だといっています。

ちなみに、このデータは二〇〇七年から二〇一一年にかけて日本を代表する製造企業四社(電機、情報、通信、自動車部品)を対象に、成功技術と思われるものを一一九件抜き出しその中からことさら売上・利益貢献度の高い四二件を選んで分析したものです。そしてこれらをふまえて延岡は、こんな言葉を添えて企業の覚悟を問いただしています。

技術変化が速い中で、新しい技術に対して短期的な視点から対応するだけの「もぐらたたき」の状況であれば(中略)過当競争の罠にはまり、いずれの企業も高い業績をあげることができない状況に陥る。(中略)最も重要なのは、長期間にわたり鍛えられた技術者の開発・設計能力を含む問題解決能力である。(中略)日本企業は、積み重ね技術によって高度な擦り合わせ型商品を開発し、意味的価値を創出することによって、国際競争力を高めるべきでもある。

先に述べた「義務」と「使命」を果たすために私たちはどこに向かえばいいのか。この延岡の言葉を聞くとき、その方向性は明らかになります。模倣されない人作りです。それこそが産業の高度化の要請に応える道であり、高賃金国・日本にありながらもこの国の雇用を維持しつづける唯一の道なのです。

そしてその願いをかなえるために「長期観察・長期育成・長期雇用」が必要ならば「日本型」だからではなく、「論理的」に日本型雇用を是認せざるを得ないのではないでしょうか。

なお、さらに若干の補足をすれば、「勤続年数」がおおむね「OJTで獲得された能力の代理指標」であることは労働経済学の常識です。また人的資源論が専門の佐藤博樹(東京大学)によれば、「長期雇用は、日本のみに固有の制度とはいえ」ず、「長期雇用とは無関係あるいはなじまないとみなされやすい中小企業、特に小企業においても長期雇用層の蓄積が着実に進んできたことの発見は重要」であるということです。
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