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再燃している道州制導入論

『日曜日の自治体学』より 自治・分権型社会をつくろう 上昇型の政府制度の創造

二〇一二年一二月に成立した第二次安倍晋三内閣は、道州制の導入を強調しています。自民党は野党時代の二〇一二年九月に道州制推進基本法案をとりまとめており、同年て一月の衆議院議員総選挙さらに二〇一三年七月の参議院議員選挙では、自民党にくわえて公明党、日本維新の会、みんなの党も道州制の導入を公約しています。野党となった民主党のなかにも道州制の推進論者がいますし、経済界は熱心な道州制の推進論者です。

道州制の導入は、これまでにも経済団体や政党などから幾たびも提唱されてきました。それらはいずれも構想で終わってきましたが、今回は自民・公明両党の衆参両院の議席やそれ以外の推進グループの議席を考えると、実現の方向にむかう可能性があります。

自民党がまとめた道州制推進基本法案の内容は、以下のようなものです。

まず、手続き的には、内閣のもとに道州制推進本部(本部長・首相)をおく。このもとに道州制推進国民会議を設置する。国民会議の審議(三年)をへて関連法案を国会に上程し、道州制への移行をはかるとしています。

内容的には概括的な段階ですが、現行の四七都道府県を廃止して七から一〇程度の道州を設ける。道州には国(中央政府)の本源的権能を除いた権能を移管するとともに、府県のそれの大部分を移管する。また道州のもとに「基礎自治体」を設け、現行の市町村の機能と都道府県の機能の一部を担う、としています。

繰り返し提唱されてきた道州制論は、いずれも現行都道府県の廃止を語っており、この点については自民党道州制推進基本法案も変わりません。また、国の本源的機能を除いた権能を道州に担わせるという点でも、大きな差異はありません。ただ、道州のもとに市町村ではなく「基礎自治体」をおくとしていることは、市町村の大規模な再編を意味しているといってよいでしょう。

道州や「基礎自治体」が直接公選の「知事」や道州議会を備えた完全自治体なのか、あるいは中央政府の何らかの統制のもとにおかれるのかといった政治・行政制度や、税財政上の仕組み、道州と「基礎自治体」との行政・税財政関係については、まったく不明です。それらは道州制推進国民会議にゆだねられるのでしょう。

しかし、「道州制は究極の地方分権」という言説は、ほんとうに正しいでしょうか。

七から一〇程度の道州というのは、現在の中央省(国土交通省や農林水産省など)の地方出先機関(地方整備局や地方農政局など)の管轄区域とほぼ同様の区域です。道州の区域をどのようにさだめるかも容易に答えを見つけられるとは思いませんが、それはおいておきましょう。都道府県の廃止と市町村の大規模な再編をともないつつ道州に中央の内政上の権限が大幅に移管されます。「ミニステイト」といってよい道州政府の住民による民主的統制は、きわめて難しくなります。また、道州制論者は現行の都道府県の区域が一八九〇年以降変わっておらず狭小であり、行財政上も非効率だといいます。しかし、道州政府が多様な地域的条件に的確に対応することは困難でしょう。結局は、現行の府県庁を道州政府の支所(庁)とせざるをえないでしょうが、行財政ならびに政始的な意思決定においても、非効率なものとならざるを得ないといえます。

しかも、市町村を「基礎自治体」として大規模に再編するならば、これまた住民の手によるコントロールは形骸化していくことでしょう。「平成の市町村合併」によって三二〇〇余の市町村は一七〇〇余にまで減少しました。この大合併についての評価は、依然としてさだまっていませんが、三陸沿岸の東日本大震災の被災地を歩くならば、「合併するのではなかった」「合併は失敗だった」という声が聞こえてきます。住民たちが口々にこのようにいうのは、復旧・復興計画の作成に地域の詳細を反映し難いと考えているからです。たしかに、首長は旧町村のいずれからか選出されており、議会も旧町村単位で見れば代表を減少させています。まさに大震災の被災地だけに、自治のあり方が問われているのです。

道州制の導入論は、さきにも触れましたが、中央政府と道州との行財政関係、とりわけ財政調整について何事も詳細を語っていません。道州政府と「基礎自治体」との関係についても同様です。とはいえ、道州制は補完性の原理とは全く逆です。上昇型の政府間関係をつくるものではなく、下降型のそれにあらためようとするものです。道州政府が「強大な権限」をもつとしても、それは「地方分権の究極の姿」などでは、決してないといえます。
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