未唯への手紙
未唯への手紙
地球の未来
『氷河時代』より
「IPCCはそんなに信じられるのか? そこからやらないといけない」
世界を救うコストは?
それでは、世界をこの危機から救うコストはどれくらいになるのだろうか。イギリス政府の委託で実施された2006年の「気候変動の経済学に関するスターン・レビュー」によると、現在できることのすべてを実行して、全世界の温室効果ガスの排出を抑え、来たるべき気候変動の影響に適応するとすれば、毎年かかるコストは世界の総生産のたった1%に収まるという。しかし、もし何もしなければ、気候変動の影響によって、世界の総生産の5~20%に相当する負担が毎年かかることになるそうだ。
この試算は大きな議論を巻き起こした。世界の排出量が最悪の予想を上回っている現状では、世界経済を低炭素社会に移行するのにかかるコストは、世界の総生産の1%に収まらないと主張する専門家も現れた。「スターン・レビュー」をまとめたイギリスの経済学者二コラス・スターン卿は、その指摘を受けて、試算を世界の総生産の2%に修正したが、ほかの専門家のなかには、このコストは世界的なC02排出量取引システムによって簡単に相殺できると主張する人も現れている。さらには、IPCCやスターン・レビューで見積もられた地球温暖化の影響とそれに付随するコストは小さすぎるとの見方もある。たとえ地球温暖化を解決する費用対効果がスターン卿の見積もりを下回ったとしても、何千万人もの人びとの死を防ぎ、何十億人もの人びとの苦しみを和らげるという倫理上の必要性があることは明らかだ。
解決策
地球温暖化の解決は、地球に暮らすすべての人類の社会にとって大きな課題だ。その課題は決して低く見積もってはいけない。 IPCCが2007年に発表した気候予測のベースとなった今後100年の炭素排出シナリオは、2000年の時点で現実的だった予測にすぎない。 IPCCは、アジアの2000年から2010年のC02排出量の上昇は最大で3~5%と見積もっていたが、中国が予想以上の経済発展をとげたために、上昇率は11~13%に跳ねあがった。また、IPCCはすべての関係者の合意を得るという手法をとったため、その予測はもともと保守的なものだった。つまり、IPCCによる最悪の気候変動予測をより現実的なシナリオとみなすべきであり、2100年までに6℃を超える気温上昇が起こるということも十分あり得るということだ。
また、気候システムは直線的に変化するものではないため、ある転換点を境に大きな気候変動が急速に起きるだろう。近い将来起きる可能性が最も高く、影響が大きいと気象学者が考える転換点を示した。現在の世界的な排出量の傾向を減少に転じることができなければ、将来こうした転換点のすべてが起きるだろう。
地球温暖化を解決するにはどうすればいいのか。まず、国際的な政治での解決が必要だ。2012年に対象期間が終わる京都議定書に代わる次の国際合意がなければ、世界のC02排出量は劇的に増え、地球の気温は大幅に上昇するだろう。どのような国際合意であっても、新興国・発展途上国を枠組みに含め、かつこれらの国々の急速な経済成長を妨げないものでなければならない。新興国や発展途上国の人びとが、現在の先進国と同じような生活を送る権利があるのは道義的にも当然のことである。また、次世代エネルギー、再生可能エネルギー、そして低炭素技術に大規模な投資をして、世界のC02排出量を減らす手段を提供する必要がある。
しかし、私たちはすべての望みを世界の政治とクリーンエネルギー技術に託してはならない。私たち一人ひとりも、最悪の事態に備え、適応していかなければならない。今から動きだせば、気候変動によって生じる多大なコストや損害を軽減することができる。それには世界中の国と地域が今後50年に向けての計画を立てる必要がある(政治ではどうしても短期的な問題にばかり目がいくため、ほとんどの社会にとってなかなかできないことではあるが)。
地球温暖化は、人間社会の形成の仕方に疑問を投げかける。ひとつの国家と世界全体で果たすべき責任の対立という概念だけでなく、目先の問題しか考えない政治指導者たちの姿勢も問われている。地球温暖化を解決するために何かできるか。その答えを出すには、人間社会の基本的なルールを見直し、長期にわたって持続的に利用できる手法を地球規模で取り入れることが必要だ。
まとめ
氷河時代は過去250万年を特徴づける気候であり、その痕跡はいたるところに残っている。グリーンランドと南極大陸を覆う広大な氷床は、地球の歴史から見れば現在の気候が寒冷であることを物語っている。皮肉にも、この氷があるために、気候が温室効果ガスの増加に特別敏感に反応するようになってしまった。
膨大な量の氷床が残る惑星で大量の温室効果ガスを大気に排出したら何か起こるかー。人類が始めた壮大な「科学実験」はいまも進行中だ。だが、なにも絶望することはない。この壮大な実験の進行を遅らせるための、また進行を止めるための技術的・政治的な解決策はいくつもある。私たちは、そうした解決策を採用すると決断しなければならない。氷河時代の研究が教えてくれるのは、気候変動は突然、何の前触れもなくやってくるということなのだから。
「IPCCはそんなに信じられるのか? そこからやらないといけない」
世界を救うコストは?
それでは、世界をこの危機から救うコストはどれくらいになるのだろうか。イギリス政府の委託で実施された2006年の「気候変動の経済学に関するスターン・レビュー」によると、現在できることのすべてを実行して、全世界の温室効果ガスの排出を抑え、来たるべき気候変動の影響に適応するとすれば、毎年かかるコストは世界の総生産のたった1%に収まるという。しかし、もし何もしなければ、気候変動の影響によって、世界の総生産の5~20%に相当する負担が毎年かかることになるそうだ。
この試算は大きな議論を巻き起こした。世界の排出量が最悪の予想を上回っている現状では、世界経済を低炭素社会に移行するのにかかるコストは、世界の総生産の1%に収まらないと主張する専門家も現れた。「スターン・レビュー」をまとめたイギリスの経済学者二コラス・スターン卿は、その指摘を受けて、試算を世界の総生産の2%に修正したが、ほかの専門家のなかには、このコストは世界的なC02排出量取引システムによって簡単に相殺できると主張する人も現れている。さらには、IPCCやスターン・レビューで見積もられた地球温暖化の影響とそれに付随するコストは小さすぎるとの見方もある。たとえ地球温暖化を解決する費用対効果がスターン卿の見積もりを下回ったとしても、何千万人もの人びとの死を防ぎ、何十億人もの人びとの苦しみを和らげるという倫理上の必要性があることは明らかだ。
解決策
地球温暖化の解決は、地球に暮らすすべての人類の社会にとって大きな課題だ。その課題は決して低く見積もってはいけない。 IPCCが2007年に発表した気候予測のベースとなった今後100年の炭素排出シナリオは、2000年の時点で現実的だった予測にすぎない。 IPCCは、アジアの2000年から2010年のC02排出量の上昇は最大で3~5%と見積もっていたが、中国が予想以上の経済発展をとげたために、上昇率は11~13%に跳ねあがった。また、IPCCはすべての関係者の合意を得るという手法をとったため、その予測はもともと保守的なものだった。つまり、IPCCによる最悪の気候変動予測をより現実的なシナリオとみなすべきであり、2100年までに6℃を超える気温上昇が起こるということも十分あり得るということだ。
また、気候システムは直線的に変化するものではないため、ある転換点を境に大きな気候変動が急速に起きるだろう。近い将来起きる可能性が最も高く、影響が大きいと気象学者が考える転換点を示した。現在の世界的な排出量の傾向を減少に転じることができなければ、将来こうした転換点のすべてが起きるだろう。
地球温暖化を解決するにはどうすればいいのか。まず、国際的な政治での解決が必要だ。2012年に対象期間が終わる京都議定書に代わる次の国際合意がなければ、世界のC02排出量は劇的に増え、地球の気温は大幅に上昇するだろう。どのような国際合意であっても、新興国・発展途上国を枠組みに含め、かつこれらの国々の急速な経済成長を妨げないものでなければならない。新興国や発展途上国の人びとが、現在の先進国と同じような生活を送る権利があるのは道義的にも当然のことである。また、次世代エネルギー、再生可能エネルギー、そして低炭素技術に大規模な投資をして、世界のC02排出量を減らす手段を提供する必要がある。
しかし、私たちはすべての望みを世界の政治とクリーンエネルギー技術に託してはならない。私たち一人ひとりも、最悪の事態に備え、適応していかなければならない。今から動きだせば、気候変動によって生じる多大なコストや損害を軽減することができる。それには世界中の国と地域が今後50年に向けての計画を立てる必要がある(政治ではどうしても短期的な問題にばかり目がいくため、ほとんどの社会にとってなかなかできないことではあるが)。
地球温暖化は、人間社会の形成の仕方に疑問を投げかける。ひとつの国家と世界全体で果たすべき責任の対立という概念だけでなく、目先の問題しか考えない政治指導者たちの姿勢も問われている。地球温暖化を解決するために何かできるか。その答えを出すには、人間社会の基本的なルールを見直し、長期にわたって持続的に利用できる手法を地球規模で取り入れることが必要だ。
まとめ
氷河時代は過去250万年を特徴づける気候であり、その痕跡はいたるところに残っている。グリーンランドと南極大陸を覆う広大な氷床は、地球の歴史から見れば現在の気候が寒冷であることを物語っている。皮肉にも、この氷があるために、気候が温室効果ガスの増加に特別敏感に反応するようになってしまった。
膨大な量の氷床が残る惑星で大量の温室効果ガスを大気に排出したら何か起こるかー。人類が始めた壮大な「科学実験」はいまも進行中だ。だが、なにも絶望することはない。この壮大な実験の進行を遅らせるための、また進行を止めるための技術的・政治的な解決策はいくつもある。私たちは、そうした解決策を採用すると決断しなければならない。氷河時代の研究が教えてくれるのは、気候変動は突然、何の前触れもなくやってくるということなのだから。
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