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Readin' Writin' TAWARAMACHI BOOK STORE

『街灯りとしての本屋』より
「書く」を考える、Reading'Writin' TAWARAMACHI BOOK STORE
 「中二階では職人さんが寝泊まりしていたそうです。元は材木倉庫だったので、天井が高いんです」。
 浅草にはど近い田原町にある Reading'Writin' TAWARAMACHI BOOK STORE(以下、リーディンライティン)は築約六十年の建物をリノベーションした本屋さんです。度々、撮影や取材で使われるほど店内は魅力的で、壁の格子を利用した本棚は、外国の大図書館のように天井まで高く続いています。
 リーディンライティンでは新刊の本を販売するだけでなく、イベントや教室を企画したり、一部をレンタルスペースとして古本や作品を販売できるように貸し出したり、ビールやコーヒーを販売したりと様々な取り組みをプラスしています。通販サイトやブックイベントなど本を手に入れるための方法が多様化している今だからこそ、本を買うための場所としての本屋へちょっと違った価値を与えることも必要なのかもしれません。店主の落合博さんが、空間としての本屋さんの役割を語ってくれました。
他者を知るためのライティング講座
 本屋を始める前から、落合さんは活字に慣れ親しんでいました。スポーツを中心とした新聞記者の経歴があるのです。読者としてではなく、書き手として活字と向き合う生活を送っていました。そんな落合さんが始めたリーディンライティンでは、文章を習うライティング教室も開講しています。
 「今はマンツーマンで文章を教えています。テーマに沿った文章を四百字前後で書いてもらって、それを元にディスカッションしてリライトする形式です。
 なんで、ライティングの教室をやっているのかというと、自分とは違う考えとか、意見をもっている人を尊重するようになってはしいからかな。自分とは異なる人たちの考え方があるんだっていうことを踏まえて表現すれば、そうそう喧嘩にならない。大概の人って自分の頭の中で文章を作ってしまって、広がりがないというか、はっきり言ってつまらない文章になっちゃう。基本的には誰も読んでくれないんだっていう前提のもと書かないといけないんです。家族が大事とか、環境対策しようとか誰でも言えることじゃなくて、その人にしか書けないことがきっとある。偶然の出会いから生まれる体験だったり、昔の思い出だったり、他人には語れない、自分にしかないものです。
 そういう事実を集めて、自分の意見を相手に伝えられるように書きましょうと話しています。
 人に会ってみたり、いろんなところに行ったり、取材をして、調べて、材料を集めて書くことが大事です。自分の頭の中で完結した文章はつまらない。でもそうやって書く人が多い気がする。みんながもっている、体験とか経験とかを自分の中だけで終わらせないで、色々な物をつけ足して広げると普遍性のある文章になります。
 こんな風にして、文章教室で書き方の話をするんだけど、マンツーマンでやってるからいろんなことを聞いてます。ある意味、カウンセリングみたいなことをしているのかも。三十年以上書く仕事をしていたので本屋でここまでやる人はいないなと、書くことについてはキャリアがあるので、それを強みにして続けようと思ってます」
イベントのメリットとデメリット
 特別な内装のリーディンライティンには、イベント会場としての依頼が来るそうです。ギャラリーとして作品展示やトイビアノの演奏会、演劇、短歌教室、落語会も開かれます。友人の結婚記念パーティーの会場にも選ばれました。
 本屋にとっての「イベント」の意味と課題について落合さんは考えています。
 「多かった月には二十回くらい、イベントをやっていました。それだけ開催してる割にお客さんが定着しなくて、家族で過ごす時間も減るし、疲れるし、何のためにやってるのかわかんなくなっちゃった。
 イベントって本屋のドーピングだと思っています。ドーピングすると売上が伸びるけど、副作用がある。お店を始めた時はイベントのことは考えていませんでした。本と雑貨と文房具があり、ライティング教室をやってるというイメージだった。今後は、持続性のあるイベントを企画したいです。活版印刷の職人さんを呼んだり、落語会や短歌教室といった活動を定期的にやったり。
 リピーターを作りたいんですよね、突発だとイベントに来てくれるだけで終わっちゃうんです。
 〝書く〟ことに関するイベントは文章教室以外にもやっていて、新聞を作ろうを企画しました。数回の連続講座にしていて、取材の仕方や記事の作り方なんかをレクチャーしました。
 基礎的な話をした後は、それぞれ自分の好きなテーマを立てて、それぞれA4表裏程度の新聞を作りました。広告スペースも入れたりして、まあ嘘の広告ですけど。印刷も新聞っぽくこだわる人がいたり、自分のイラストや写真を掲載したりと個性的な新聞ができたと思います。実際に取材して作る人もいて、寅さんファンの三十代女性がとても熱心な新聞を作っていました。これをキッカケに寅さん好きが集まる寅さんシンポジウムをやりたいと思っています。
 一回完結ではない連続性のあるイベントは次の何かに繋がることがありますね」
佐賀で本屋のリーダーになる?
 落合さんが本屋を始める当初の計画は「佐賀で古本屋をやる」というものでした。今のお店は新刊書店、場所もコンセプトも異なる形式に着地したのは家族を思ってのことです。
 「仕事のために買い集めた本がたくさんあったこともあり、古本屋を始めようと思って、色々な個人書店へ話を聞きに行ったんです。和気正幸さんが運営する本屋紹介ブログBOOKSHOP LOVERはとても役に立ちました。サイトで紹介されてる本屋の情報をプリントアウトして、何度も読んで足を運びました。2017年本屋始めます、という名刺を作って配り歩いていました。自分の名前を名乗って、自己紹介をするとみんな話を聞いてくれたんです。
 福岡にあるブックスキューブリックの大井実さんに話を聞きに行った時に『本屋やるなら新刊だよ』と言われて、佐賀に本屋が少ないから新しいことを始めたらリーダーになれるだろうということも聞きました。
 そこで新刊にテーマが変わり、カミさんの実家がある佐賀でやろうとしてました。デザイナーさんまで決めていたんです。新しい本屋を始めるために家族と相談もしていたんですが、佐賀には行けない状況になってしまい、急油東京で物件探しをしました。
 この空間を作ってくれたのは、新聞記者時代に知り合った、建築を教えている大学の先生です。ここはもともと、木材倉庫だったんですが、天井が高い構造や内壁を活かして作ってくれました。
 本棚を作ってくれたのは本屋巡りで出会った水中書店さんなどの棚を手掛けている、フォレストピアさんです。可動式なところが気に入っています。動く棚にしたことで、イベントができるようになりました」
本のある「空間」としての本屋
 本を売る場所としての本屋さんに様々な可能性を考える落合さんは、リーディンライティンの在り方を動的にとらえています。本屋が本を売る以外の可能性を探るように実験していました。
 「この空間は色々な使い方があると思います。ジャズなどのコンサートをやってみたいし、映画の上映とかもやりたいですね。
 人によっては店舗を借りるんじゃなくて、自宅を開放するでもいいし。できる範囲で専業でもいい、兼業でもいい。自分に合ったスタイルでやれば絶対に面自くなると思います。家に人を呼んだ時に、リビングの本棚を見て『面白いですね』と言ってもらったりする。自分では普通だと思っていることが、他人から見たら変わっていることかもしれない。その人のスタイルを表現しているってことは、人の頭の中を覗いてるようなものだから楽しいわけですよ。
 本屋さんは、街の駄菓子屋みたいな感じでいいんじゃないかなと思っています。小さくてもいいから、街の駄菓子屋みたいに個人のやっている本屋が街のあちこちにあった方が街としても面白いと思うな。
 リーディンライティンは二十。世紀のコーヒー・ハウスを目指したいですね。コーヒー・ハウスは十七、十八世紀のロンドンで繁栄しました。そこには政治家や実業家、詩人、小説家、ジャーナリストらたくさんの人が出人りしていて、様々な情報が集まっていたそうです。社交の場になっていたんですね。情報をまとめた新聞も発行され、ジャーナリズムも生まれていきました。この店も人が集まって、いろんなものが生まれる場所にしたいです。
 今、この空間を活かしきれていないと思っています。知り合いに棚をレンタルしてたりもするんですが、もっと借りてる人たちが定期的にお店に来て出会う仕掛けを作りたい。常にここでワークショップを行ったりとか近所の人が来てくれたりとか。人が集まる仕掛けを考えています」
これから本屋を始める人たちへ
 「自分の店をもつ人たちから『お店をするといろんな人が来てくれるよ』と聞いていました。確かにその通りで、会社員時代とは比較にならないぐらいたくさんの名刺をもらったりして、店のレジに立っているだけで新しい人と出会うことができています。
 お客さんと話す機会も多くて、本の話よりも雑談をしてますね。この前『恐竜時代』っていう組み立て絵本を買ってくれた人がいて、絶対に売れないと思っていた本だったので話しかけちゃいました。そうしたら 『ずっと探してたんです』と言ってくれて。自分でもどこに置いたかわからない本を探し出して、買ってくれたのは嬉しかったですね。
 お客さんと話すのは楽しみのひとつです。精神衛生にとても良い。おしゃべりしたくなかったら、ここに立ってないですよ。
 僕自身は、あまり長時間労働したくないので何かを犠牲にしないと成り立たない本屋になるのは嫌です。ちゃんと家族との時間を取って、旅行に行ったりして、そういうことを大切にやっていきたい。
 すごい立地の良い場所で家賃をたくさん払ってやっている本屋さんもあるけれど、ちゃんと続けていけるシステムになっていないと、どこかにしわ寄せが来てしまう。そういう業界っておかしいし、長続きもしないと思います。もっと余裕のある働き方ができないのかなと考えています」

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