『パラレルキャリアを始めよう!』より ⇒ 28歳の時に、仕事の伏線として、数学・社会学・歴史学を決めたのは正解だった!
60歳を過ぎてもいきいき働ける人
第1章で、シングルキャリアのリスクについて触れた。ここで考えてみたいのは、長い期間、ずっとシングルキャリアのままでいた場合のリスクだ。
昨今では、定年をどう延長していくかということに議論の焦点が当たっている。ただし、定年そのものを延長するわけではなく、定年は60歳のまま、その後は再雇用などの仕組みを導入している企業が現段階では多数派である。
再雇用の場合、報酬などは従来に比べて減額されてしまうことが多い。また、そもそも60歳になる前に役職定年制度があり、その段階でも報酬が減額される場合が多い。シングルキャリアで会社に尽くしてきた自負があればあるほど、また自分が経営幹部まで昇進する可能性を強く信じていたほど、実際に報酬が減額されたときの衝撃が大きいという。いきなりやる気がなくなってしまう場合もあるという。やる気がないまま職場にいるとなれば、同じ職場のより若い社員たちから冷ややかな目で見られてしまうこともあるだろう。
そのような事態を避けるためには、ひとつの組織での昇進ということ以外の目標があることが望ましい。しかしシングルキャリアでひとつの組織に依存し切っている場合は、目標を切り替えることはなかなか難しいのではないだろうか。
実際、筆者は、2014年の時点で、すでに65歳まで定年延長をしている複数の会社に、その状況をヒアリングしてみたことがある。その際、明らかになったことは、役職定年後、あるいは60歳を過ぎた後にいきいき働くことができる人と、そうではない人に二極化するということだ。
では、なぜ二極化するのだろうか。実は、いきいきと働くことができる人は、自分の役割を再設定することができる人だという。たとえば、いままで営業部長だった人が同じ営業部にいたとしても、別の役割--単に第一線の営業部員に戻るということではなく、これまでの営業部長としての経験を活かしつつ、自分がずっとあたためていた新しい営業戦略に基づき、新規顧客、新規事業の開拓をするなど--をするということだ。一方、いきいきと働くことができない人は、いままでの営業部長という役割に固執してしまい、あたかも部長であるかのようにそれまでどおりに職場の人が接してくれないと強い疎外感を感じてしまうという。
つまり、ある意味、自分を再定義できる柔軟性のある人がいきいきと働くことができるわけだ。
キャリアの時間軸は自分で決める
自分を再定義するためには、どうしたらいいだろうか。役職定年のときまで、あるいは60歳になるときまで、ずっとシングルキャリアのままでいて、いきなり自分を柔軟に変えるというのはなかなか難しいだろう。ここで参考になるのは、キャリアの時間軸を自分で決めるという考え方である。これは職業生活の長期化に対応するためには、どのようなキャリアの選択肢があるのかという研究の中で提唱された考え方だ。
キャリアの時間軸を自分で決めない場合、これは他者が決めた基準によって自分の職業生活の終了時点を決めることになる。簡単に言えば、会社が60歳定年を定めているから、自分の職業生活の終了時点も60歳と考えるということだ。これに対し、キャリアの時間軸を自分で決めるとは、会社が定めた定年の年齢には関わりなく、自分は何歳まで働きたい対話のある職場がシニアと若手の共存を生むと考えることを指す。
会社の定めた定年が60歳だとしても、自分は75歳までは働きたいと考えたらどうだろう。このように考えることは、キャリア時間軸の延長と表現できる。キャリア時間軸を延長するとなると、シングルキャリアには収まりきらず、ひとつの組織に頼らない期間(たとえば60歳から75歳)が発生する。そうすると、その期間を生き抜くためにどうしたらいいか、事前に考えなければならない。つまり、複合的なスキルや経験が必要となってくるわけで、パラレルキャリアによって新しい経験やスキルを培うことは役に立つことだろう。キャリア時間軸の延長と、パラレルキャリアはなじみのよい考え方なのである。
実際、このキャリア時間軸についての研究によれば、キャリア時間軸を自分で決めたいと思う人は、そうでない人に比べ自己啓発に熱心なことが明らかになっている。キャリア時間軸を延長していくとなると、シニアがいきいきと働くことのできる組織が多ければ多いほどいい。では、そのような組織にはどのような特徴があるのだろうか。筆者の大学院のゼミ生か、シニアと若手が共存している組織を選んで、その特徴を抽出した研究がある。
その研究によれば、シニアと若手がうまく共存している組織の特徴は職場で対話が促されていることだった。実は、対話のある職場が成立するには、それを支える3つの要素が必要だという。第1の要素は、フラットな関係性である。組織には役職・肩書があるが、これにこだわりすぎるとうまく対話できなくなる。役職・肩書で、人の上下関係が決まるわけではない。役職・肩書はあくまで、役割、ラべルにすぎない。それにもかかわらず上下関係にこだわると、本音で対話することが難しくなってしまうのだ。実際、対話のある職場では、役職名で呼び合うことはなく、「さん」づけで呼び合うことが多い。
第2の要素は、自律性である。たとえば開発の討議などは、自由参加が基本になっている。自ら手を挙げればさまざまな機会に参加することができるが、望まなければ強制的に参加させられることはない。このように自ら手を挙げて参加する文化があると、いやいや参加して何もしやべらないという状態は少なくなっていく。
第3の要素は、開かれた関係性である。開発の会議には、社内の誰でも手を挙げれば参加することができる。必要とあれば、社外の人にも参加してもらう。オープンイノべーションにも近い考え方だが、社外を含めた多様な関係者の意見を確保することが対話につながるという。
こうした3つの要素が存在すると、シニアと若手は年齢の壁を感じずに忌憚なく対話することができる。対話のある職場の成立である。そうなると若手がシニアをけむたく思う、あるいはシニアが若手に上から目線で物を言うなどの事態にはなりにくい。シニアは、若手にうまく自分の経験を助言することができるようになる。
この対話のある職場は、サポートプロジェクト、プロボノの状況と似ていないだろうか。サポートプロジェクト、プロボノでも、多様なメンバーが、自律的に、年齢、性別、肩書に関わりなく対話していくことが求められる。パラレルキャリアで生み出される状況は、シニアがいきいきと働くための個人の特徴、組織の特徴に通じるところがあるのではないだろうか。
60歳を過ぎてもいきいき働ける人
第1章で、シングルキャリアのリスクについて触れた。ここで考えてみたいのは、長い期間、ずっとシングルキャリアのままでいた場合のリスクだ。
昨今では、定年をどう延長していくかということに議論の焦点が当たっている。ただし、定年そのものを延長するわけではなく、定年は60歳のまま、その後は再雇用などの仕組みを導入している企業が現段階では多数派である。
再雇用の場合、報酬などは従来に比べて減額されてしまうことが多い。また、そもそも60歳になる前に役職定年制度があり、その段階でも報酬が減額される場合が多い。シングルキャリアで会社に尽くしてきた自負があればあるほど、また自分が経営幹部まで昇進する可能性を強く信じていたほど、実際に報酬が減額されたときの衝撃が大きいという。いきなりやる気がなくなってしまう場合もあるという。やる気がないまま職場にいるとなれば、同じ職場のより若い社員たちから冷ややかな目で見られてしまうこともあるだろう。
そのような事態を避けるためには、ひとつの組織での昇進ということ以外の目標があることが望ましい。しかしシングルキャリアでひとつの組織に依存し切っている場合は、目標を切り替えることはなかなか難しいのではないだろうか。
実際、筆者は、2014年の時点で、すでに65歳まで定年延長をしている複数の会社に、その状況をヒアリングしてみたことがある。その際、明らかになったことは、役職定年後、あるいは60歳を過ぎた後にいきいき働くことができる人と、そうではない人に二極化するということだ。
では、なぜ二極化するのだろうか。実は、いきいきと働くことができる人は、自分の役割を再設定することができる人だという。たとえば、いままで営業部長だった人が同じ営業部にいたとしても、別の役割--単に第一線の営業部員に戻るということではなく、これまでの営業部長としての経験を活かしつつ、自分がずっとあたためていた新しい営業戦略に基づき、新規顧客、新規事業の開拓をするなど--をするということだ。一方、いきいきと働くことができない人は、いままでの営業部長という役割に固執してしまい、あたかも部長であるかのようにそれまでどおりに職場の人が接してくれないと強い疎外感を感じてしまうという。
つまり、ある意味、自分を再定義できる柔軟性のある人がいきいきと働くことができるわけだ。
キャリアの時間軸は自分で決める
自分を再定義するためには、どうしたらいいだろうか。役職定年のときまで、あるいは60歳になるときまで、ずっとシングルキャリアのままでいて、いきなり自分を柔軟に変えるというのはなかなか難しいだろう。ここで参考になるのは、キャリアの時間軸を自分で決めるという考え方である。これは職業生活の長期化に対応するためには、どのようなキャリアの選択肢があるのかという研究の中で提唱された考え方だ。
キャリアの時間軸を自分で決めない場合、これは他者が決めた基準によって自分の職業生活の終了時点を決めることになる。簡単に言えば、会社が60歳定年を定めているから、自分の職業生活の終了時点も60歳と考えるということだ。これに対し、キャリアの時間軸を自分で決めるとは、会社が定めた定年の年齢には関わりなく、自分は何歳まで働きたい対話のある職場がシニアと若手の共存を生むと考えることを指す。
会社の定めた定年が60歳だとしても、自分は75歳までは働きたいと考えたらどうだろう。このように考えることは、キャリア時間軸の延長と表現できる。キャリア時間軸を延長するとなると、シングルキャリアには収まりきらず、ひとつの組織に頼らない期間(たとえば60歳から75歳)が発生する。そうすると、その期間を生き抜くためにどうしたらいいか、事前に考えなければならない。つまり、複合的なスキルや経験が必要となってくるわけで、パラレルキャリアによって新しい経験やスキルを培うことは役に立つことだろう。キャリア時間軸の延長と、パラレルキャリアはなじみのよい考え方なのである。
実際、このキャリア時間軸についての研究によれば、キャリア時間軸を自分で決めたいと思う人は、そうでない人に比べ自己啓発に熱心なことが明らかになっている。キャリア時間軸を延長していくとなると、シニアがいきいきと働くことのできる組織が多ければ多いほどいい。では、そのような組織にはどのような特徴があるのだろうか。筆者の大学院のゼミ生か、シニアと若手が共存している組織を選んで、その特徴を抽出した研究がある。
その研究によれば、シニアと若手がうまく共存している組織の特徴は職場で対話が促されていることだった。実は、対話のある職場が成立するには、それを支える3つの要素が必要だという。第1の要素は、フラットな関係性である。組織には役職・肩書があるが、これにこだわりすぎるとうまく対話できなくなる。役職・肩書で、人の上下関係が決まるわけではない。役職・肩書はあくまで、役割、ラべルにすぎない。それにもかかわらず上下関係にこだわると、本音で対話することが難しくなってしまうのだ。実際、対話のある職場では、役職名で呼び合うことはなく、「さん」づけで呼び合うことが多い。
第2の要素は、自律性である。たとえば開発の討議などは、自由参加が基本になっている。自ら手を挙げればさまざまな機会に参加することができるが、望まなければ強制的に参加させられることはない。このように自ら手を挙げて参加する文化があると、いやいや参加して何もしやべらないという状態は少なくなっていく。
第3の要素は、開かれた関係性である。開発の会議には、社内の誰でも手を挙げれば参加することができる。必要とあれば、社外の人にも参加してもらう。オープンイノべーションにも近い考え方だが、社外を含めた多様な関係者の意見を確保することが対話につながるという。
こうした3つの要素が存在すると、シニアと若手は年齢の壁を感じずに忌憚なく対話することができる。対話のある職場の成立である。そうなると若手がシニアをけむたく思う、あるいはシニアが若手に上から目線で物を言うなどの事態にはなりにくい。シニアは、若手にうまく自分の経験を助言することができるようになる。
この対話のある職場は、サポートプロジェクト、プロボノの状況と似ていないだろうか。サポートプロジェクト、プロボノでも、多様なメンバーが、自律的に、年齢、性別、肩書に関わりなく対話していくことが求められる。パラレルキャリアで生み出される状況は、シニアがいきいきと働くための個人の特徴、組織の特徴に通じるところがあるのではないだろうか。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます