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政策の複合化 地域のネットワーク化

『「環境思考力」入門編』より 政策の環境変化 人間行動の変化 政策視点の質的変化 政策の複合化

政策の耐久力形成に関して視野や思考のネットワーク化とともに、第二に求められるのが地域そして地方自治体間の連携によるネットワーク構造の充実です。人口減少と超高齢化が進む中で、単独の市区町村・基礎自治体で完結する生活・経済活動は極めて限られるほか、公共サービスの面でも単独の基礎自治体だけで提供し持続性を担うには限界があり、複数の地方自治体が連携して担う仕組みの充実が将来に向けて不可欠となっています。

(従来からの地方自治体間連携)

 従来も地方自治体間の連携の仕組みは展開されてきました。具体的には、

  ① 任意協議会

  ② 一部事務組合

  ③ 広域連合

 等です。それぞれの特色は、次のとおりです。

  ①の任意協議会は、自主的かつ法的な拘束力を受けない任意の協議会・研究会を設置し、地方自治体間の参加・連携を行う形態であり、各地方自治体の単費事務事業(国・県等補助事業外)に適するほか、民間企業等多様な主体と連携する事務事業でも有効性を発揮してきました。

  ②の一部事務組合方式では、事務の一部を処理するため複数の地方自治体が共同組織を設置し構成自治体から独立した位置づけとなり、独自の議会・執行機関が設置されます。

  ③の広域連合は、事務を広域的に実施するため、複数の地方自治体が共同して設置する形態であり、直接公選・間接公選で独自の議会・執行機関が設置されます。一部事務組合との違いは、広域連合では、各構成自治体を経ずに国や都道府県等から直接権限移譲を受けることが可能であること、事務執行上必要な事項を構成自治体に勧告等ができること、必要な規約変更を構成地方自治体に要請できることがあげられます。

  さらに、圏域を視野に入れた政策としては、④定住自立圏構想や⑤地方中枢拠点都市圏の形成があります。

  ④の定住自立圏構想は、圏域全体として必要な生活機能等を確保するために設けられた連携制度であり、⑤の地方中枢拠点都市圏の形成は、「過疎集落等の維持・活性化」「定住自立圏構想の推進」を越えてさらに政令指定都市や新中核市等を(ブにして、経済成長の牽引、都市機能の集積、生活の向上を目指し連携協定の導入、先行モデルに対する交付税等支援措置によって推進する制度となっています。

 このように、従来も地方自治体間での連携を推進する努力が展開されてきました。

(政策連担)

 しかし、今後求められる地方自治体間連携の仕組みは、個別事業だけでなく政策を圏域で形成し実施する「政策連携」の本格化です。その上で、構成する各地方自治体がそれぞれ役割を分担しつつ結びつく「連担」のネットワークを構成することも重要となります。

 各基礎自治体が重複した事業や政策を展開するのではなく、医療、福祉、安全・安心等核となる役割をそれぞれ分け合い、相互に担い圏域として結びつく仕組みです。この圏域を中心に地産・地消的な経済的循環構図を厚くすることで、グローバル化に対する地域の耐久力を充実させます。

(内部事務の共同設置と事務の代替執行)

 同時に、地方自治を支える行政機関の職員構成のピラミッドをいかに将来に向けて安定的に構成するかも重要となります。単独の地方自治体ごとにフルセットで業務を担う職員構成を確保することは、生産年齢人口が急速に減少する中で都市部も含めて不可能となっています。二〇一一年の地方自治法改正で導入された「内部事務の共同設置」は、特別地方公共団体の設置手続の煩雑さと事務の委託におけるサービス提供方法の不安定性等の課題を解消するため、機関等の共同設置の制度拡充により実現した仕組みです。

 また、事務の委託による執行権限の委譲を伴わない状態で、事務の管理執行を他の地方自治体に委ねることができる「事務の代替執行」という制度も、二〇一四年の地方自治法改正で導入されています。同種・類似のサービスを実施している分野の場合、行政機関の人的資源の制約の面からも連携する構図が大きな選択肢となります。

(議会間連携)

 連携・連担の際にさらに重要となるのは、議会間連携です。議会は、単に行政をチェックするだけの機関ではなく、地域の民主主義を育てるとともに政策を形成し進化させる役割をも本来は担っています。このため、地方自治体の行政区域に止まるのではなく、住民の経済社会活動の循環に目を配り、複数の地方自治体をネットワーク化した圏域での政策展開の視点を議会も重視する必要があります。

 たとえば、自治財政権は、地方自治の根幹を支える原則です。地方自治体の財政は、自らの地方自治体の住民からの税収で賄い、その効果は住民に帰着することを原則とします。こうした原則を形式的に貫けば、他の地方自治体との連携で他の地方自治体にも効果が直接帰着する財政支出を行うことには議論が生まれます。しかし、行政区画で議論することが有効な政策領域と、行政区画で議論せずより広い「圏域」といえる視野で議論すべき政策領域を分ける必要があります。現代の経済社会活動は、単独の地方自治体の行政区画で完結することはなく、所得循環の範囲も単独の行政区画を越える範囲でほとんどが形成されています。形式的な行政区画に限定することなく、最終的な政策効果が自らの地方自治体の住民に帰着することが検証できるのであれば、広い視野から政策を思考する姿勢が求められます。圏域としての所得循環構図の形成に向けた視点となります。

(コミュニティによる補完)

 なお、政策は、「市場の失敗の補完」という側面を持ちます。資本主義の市場は、景気変動を伴い、競争関係の中で所得格差なども拡大させる側面を持っています。こうした市場の失敗を政策が補う機能を持っています。一方で、政策も既得権の硬直化や行財政の肥大化、行政コストの増大、行政経営の非効率化などの失敗をもたらします。こうした政策の失敗を、民間の視点や市場機能が補完する役割を果たします。政策と市場は、相互に失敗の要素を持ち、相互に補完する関係となっています。

 ただし、災害時等で認識されたように、一時的でも、政策・市場ともに機能せず失敗状態に陥ることがあります。そうしたときに、地方自治体を支えるのは地域のコミュニティであり、コミュニティのネットワークは最終的なセイフティ・ネットといえます。

 「覗き見コミュニケーション」という指摘があります。もちろん、個人の秘密や私生活を悪意で覗き見することではなく、ゴミ出しや郵便箱、生垣など日常生活で普通に目にする状態から隣人を意識することでコミュニティを通じたセイフティ・ネットを形成することです。日常時でも政治や市場が機能しづらい部分でコミュニティが果たしている機能といえます。

 なお、コミュニティとは本来は「同志の集まり」を意味します。このため地域のコミュニティだけでなく、趣味のコミュニティ、仕事のコミュニティなど様々な形態が存在します。自治会・町会等の地域コミュニティが超高齢化などで空洞化する中で、様々な形態のコミュニティが多層的に形成されることが重要となります。

(アソシエーション)

 防災・子育てなどテーマを基軸として活動するアソシエーションも、同志の集まりたるコミュニティの一類型であり、NPO活動の高まりにより重要性を増しています。アソシエーションで顕著に発生しがちな課題として、他のアソシエーションと情報が連携されず、自らの実施事業の位置づけを認識していないことがあります。この場合、他のアソシエーションの実施する事業との重複や公共サービスの空白を生み出すことにつながります。こうした点を克服するには、地方自治体が地域コミュニティやアソシエーションが担う公共サービスを特定し、空白が生じる公共サービスについて、どのように対応するかを常にモニタリングすることが求められています。
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