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インターネット・バイ・デザインの七つの要素

『インターネット・バイ・デザイン』より

本書では、インターネットの設計思想に基づいて、社会や産業のシステムを構築することを「インターネット・バイ・デザイン」と呼んでいます。これまで述べたことから、インターネット・バイ・デザインの特徴的な要素をまとめてみます。以下の七つが挙げられます。

 グローバルで唯一のネットワーク

  インターネットは国境などの境界を意識せずに「グローバル」に相互接続されるもので、地球で「唯一のネットワーク」と言えます。

 選択肢の提供

  インターネットの本質は「選択肢の提供」にあります。そのためには、モジュール間でインターフェースの共通化(=標準化)が必要となり、こうした技術の標準化によって、Co-Opetiton(CooperationとCompetition を統合した造語」の状況が作り出されます。すなわち、協調して新しい市場を創造し、そこで公正で自由な競争が行われるようになるのです。

 動くものの尊重

  選択肢の提供に資するには、技術の最適化を意図的に行わず、多様なモジュールを導入できる環境が保持されなければなりません。さらに、「動くものを尊重」しながら、システムのイノベーションを継続することを意識した設計が重要になります。第1章4節で述べたように、カオス理論における初期値鋭敏性(あるいは軌道不安定性)を念頭に置き、最初からシステム全体を精緻に設計するのではなく、動きながら・動かしながら順次修正を加えて、環境の変化に柔軟に対応させていくわけです。

 最大限の努力(ベストエフォート)とエンド・ツー・エンド

  「最大限の努力(ベストエフォート)」に基づいたサービスの提供によって、品質を保証しないにもかかわらず、逆に品質の向上が継続的に達成されるエコシステムが実現されます。最終的には、サービスの品質と機能を達成することは、各エンドのコンピュータの責任で行われます(「エンド・ツー・エンド」)。これによってネットワークにある機器は単純な機能だけを担う構造となり、システム全体の低廉化と大規模化か実現します。とりわけ大規模化のためには、この最大限の努力という考え方が必須のものとなります。

 透明性

  インターネットでは、情報を自由に発信することが匿名性によって確保され、その中味の加工も経路上で行われず、「透明性を持った方法が維持されます。これによって利用者(ユーザ)と利用法(アプリケーション)を制限しないインフラが登場し、第1章7節で述べたように、「持続的な進化」、「非常時の耐性」、「マルチカルチャーの創成」が実現されます。

 ソーシャル性と協調

  誰もが自由に利用して、新しい活動(=イノベーション)を行えるのが、インターネットの環境です。このような特質は「ソーシャル性」と呼ばれます。そしてユーザとアプリケーションを制限しないことで、新しい要因がシステムに継続して投入されます。その結果、個人の自律的投資が社会全体のシステムを向上させることに貢献し、かえって個人が享受できる機能・サービスが増大するという「正の帰還」が成立します。こうした「協調」(相互支援)が、個人かつ社会の利益の実現につながるわけです。

 自立性・自律性・分散性

  インターネットには、情報を一時的に保存するバッファ機能が導入されたので、信号や処理のタイミングを合わせる同期をシステム全体で行う必要性がほとんどなくなりました。この非同期性によって、次の三つが実現されます。(a)自身のシステムが外部のシステムに影響されない「自立性」、(b)、自身のシステムの構成や制御を決められる「自律性」、そして(c)各々のシステムが広い範囲に存在しながら、自由に相互接続が可能となる「分散性」です。

このようなインターネット・バイ・デザインの考え方は、すでに他の分野のインフラで独自に実践されている場合もあります。たとえば、建築の業界で知られている「スケルトン・アンド・インフィル」というシステムの構造が挙げられます(第5章参照)。そこでは、構成要素がモジュール化され、さらにオープン化によって入れ替えることができて、利用者や利用方法を制限しない設計になっており、インターネットと共通する原理が導入された建築物とコンプレックス(複合施設)のあり方が見られます。

また、流通や交通といった都市インフラでは、実際にインターネット・バイ・デザインに基づいて、各システムを相互接続してネットワーク化を行い、それによってグローバルな規模で支援し合う自律・分散・協調の構築がめざされています。企業や組織が自営のインフラに投資すれば、サービスを相互に提供し合う(=互助)という関係によって、グローバルなインフラ全体にリッチなサービスが達成されることになるでしょう。そして結果として自営のインフラの利益となって返ってくる。こうした性質によって、自律的な投資の意欲がもっと生まれ、インフラ整備が加速されていくでしょう。私たちはいま、このようなソーシャル性を持った社会・産業インフラを創出できる時代を迎えているのです。
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