『システムエンジニアは司書のパートナー』より SEの図書館見聞録 変わりゆく図書館
まず、一番大きな違いは図書館の設立にあります。「図書館はそもそも誰のためにあるのか?」伊万里市民図書館は、設計段階から、「伊万里をつくり市民とともにそだつ市民の図書館」を旗印に、建築施工者、図書館、市民のトライアングルで、多くのプロセスの中で育てられていきました。ボランティア団体が「ミシンをかける部屋が欲しい。アイロンをかけるためにはコンセントがいっぱい必要」と訴えれば、それを実現した図書館なのです。
人口5万7千人の伊万里市に、図書館をサポートする市民活動団体「図書館フレンズいまり」には、400名近い方が登録され、図書館をバックアップしています。図書館の周りの草刈りから読み聞かせや布絵本制作など、それらが独立して自発的におこなわれている「ボトムアップ」方式の図書館です。1994年の起工式の日、敷地をみんなで歩いた後にぜんざいを食べました。今もその日を「芽生えの日」とし300食のぜんざいが振舞われています。伺った日、テラスでお年寄りと若者が囲碁をしていて、それをまた数人のお年寄りと若者が見守っていました。日常的に住民が利用する滞在型の図書館でした。
一方の武雄市図書館は、「トップダウン」方式の図書館です。樋渡啓祐市長(当時)は高校まで武雄市で過ごされ、伊万里市と人口もほぼ同じ武雄市に市長として戻ってきました。夕方午後5時には閉館する図書館に疑問をもち、市長として奮闘し、武雄市図書館は2013年4月にTSUTAYAを運営するCCCを指定管理者として開館しました。今も全国からの視察が絶えず、図書館は観光名所としての経済効果に十分一役買っています。その経緯は樋渡啓祐著『沸騰!図書館』にまとめられています。
伊万里市民図書館は、毎週月曜日、祝日などの休館日があり、開館時間も金曜日以外は午前10時~午後6時までの従来型の図書館です。それに比べ、武雄市図書館は年中無休、午前9時~午後9時まで開館しています。武雄市に住む私の友達は、図書館を、「ちょっとおしゃれして家族で半日過ごせる場所」と話していました。今まで図書館を利用したことはなかったそうですが、夕食を終えて、くつろぎながらコーヒー片手に本をよむために図書館を利用するとのことでした。参加者の中にも、「ここでゆっくりくつろぎたい」と言わしめたほど、図書館を利用していなかった層を発掘しているのもまた事実のようです。
図書館は単に本を借りる場所から、公共性や経済効果など地域のニーズをうまく取り入れて、変わろうとしています。このふたつの図書館に、その到達方法の違いを見た気がしました。
ただ、一同がとても残念がったのは武雄市郷土資料館(蘭学館)の扱いでした。蘭学館には、江戸後期の佐賀藩近代化の礎になった鍋島藩武雄領の蘭学資料が常設されていましたが、来場者が少ないことを考慮して、その場所はTSUTAYAのCD、ビデオコーナーヘと替わったのでした。資料の活用を望む声が参加者の中にもありました。
対照的に、伊万里市民図書館の郷土研究室の前に無造作に貼られていたのは、1930年伊万里町図書館の標語でした。
一.真の文化は、図書館を背景とす
一.覚めざる者は、図書館を解せず
一.一日読まざれば、一日遅る
一.無智は、読まざる報いなり
一.一日一頁あなどり難し
私は、このふたつの図書館の違いを、この標語に見た気がしました。
元伊万里市民図書館長だった犬塚まゆみ氏は、「市民は風、図書館は帆、行政は船」と例えました。
どの図書館も、その生い立ちや歴史があり、抱える問題も違い、首長の采配で対処も変わります。その中で図書館がどうやって利用され、利用者とどうやって繋がっていくのか。その答えは、伊万里にも武雄にもなく、実際に暮らずその町’にしかないのではと感じたツアーでした。
⇒その後の追記
2018年6月に再び武雄市図書館を訪れました。2017年10月に子ども図書館ができ、レイアウトが大きく変わっていました。CDやビデオコーナーは撤去され、ビジネス・経済の本に囲まれた50席に変わり、パソコンを持ち込んで作業する方の姿がありました。館長の話では、高校を卒業すると地元を離れる若者に、パソコン1台あれぼ故郷でも仕事はできる、そんな姿を見てほしい意図もあるとのこと。
この場所は、音楽会や映画会の会場としても利用されているそうです。かつての子どもコーナーは、スターバックスに隣接する新たな50席と、「私たちの武雄(こども歴史コーナー)」になっていました。そして、館内2か所ですが撮影OKの場所ができていました。子ども図書館は親御さんの要望も多く、館内撮影OK。新しくできた駐車場は、ほとんどが軽自動車用。市内の軽自動車の保有率を考慮して作られたそうです。
武雄を訪れた翌日、諌早市立諌早図書館にお邪魔しました。カウンターの前は、「初めて出会う絵本バッグ」や「スポーツの本(熱くて、面白くて、感動する)」など、司書の方が工夫したコーナーでにぎわっていました。アルコールのにおいをプンプンさせた方が館長に、「このくらいの本は、この図書館に置いていてほしい」と専門書を持ってきます。「訪れる人には、それまでの人生のプロセスがある」。利用者の人生のプロセスにも寄り添いたいと話す相良裕館長の言葉に、「図書館は地域が育てるもの」の意味を改めて感じました。
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