『精神科医はどのようにこころを読むのか』より
1 人間のこころを読むのは簡単なことではない、ということを知る
人間のこころを読むというのは、そう単純ではありません。「笑ったから喜んでいる」、「泣いているから悲しいのだ」と単純に決めつけられるものでもありません。たとえば、うつ病の人が、面接の中で「もう大丈夫です」と答えたからといって、安心できるものではありません。更なる苦悩を抱き、自死の覚悟をしたから、「もう大丈夫です」と答えたかもしれないのです。
話すことや聴くこと、表情や仕草、行動の観察、そして周囲の人からの情報など、さまざまな観察や情報の整理を経て、こころが読めていくという作業ができていくのです。
こころを上手に読むために、私は、その作業が単純なものではなく、丹念に分析していく過程が必要であることを心得ておくことが大切だと思います。こころを上手に読むコツをすぐに知りたいと思って本書を手に取っていただいた方には、希望に沿わないかもしれませんが、作業を丹念に続けていくという覚悟が、第一に要求されます。
2 こころを読むことは科学的でもあり、非科学的でもある
こころを読むためには、論理的な思考も必要ですが、一方では情緒的な関わりも大切だということです。こころを読む資料を得るためには、話を聴くことがもっとも重要ですが、情緒的な関わりがないと聴くべき内容を引き出すことができません。
そうして聴き取った内容や行動の観察を基に、こころを読んでいくことになりますが、この際にはそれらの資料を分析していく論理性が要求されます。また、正しくこころを読み取っているか否かの検証の際にも、エビデンス(実証)を求めながら検証していくという論理性が求められます。
こころを上手に読み取っていくには、科学的な部分と非科学的な部分がバランスよく遂行されていくことが必要です。
3 こころの病気を正しく理解することが、こころを読むことの助けになる
本書は精神科医が、どのようにこころを読むのかという主題で、筆を進めてきました。精神科医はこころを読むことで、患者さんをよく理解し、そして診断、治療していこうとします。さらに、こころの病気に罹ることで、こころにどのような変化が生じるのかについて、多くの症例との出会いを通して、知るようになりました。
統合失調症、うつ病、アスペルガーー障害、境界性パーソナリティ障害……等の多くの病気の特徴や症状を知っているので、精神科医は病者がこのように感じているのだろうと理解しやすいのです。したがって、読者の方は、こころの病気の細かい部分まで知る必要はありませんが、本書に挿入したような病気の事例を理解していると、こころを読むことの助けになると思います。また、専門家に相談したり、アドバイスを受けたりすることもプラスになることを知っていれば、問題の解決に役立つでしょう。
4 先入観をもたないようにする
こころの病気の知識を有していることは必要ですが、一方で先入観をもって他者を評価しないように心がけることも大切です。この疾患であるから、このように思っているに違いないと断定するのは誤りです。精神科医は、丹念に話を聴きとり、様子や表情を観察し、周囲の人の情報も加えて、病名を診断し、それに基づいて治療を進めていきます。しかし、ある病気と誰かが診断しているから、このように考えているに違いないと断定することはありません。
つまり、○○病だからこのようなこころの特徴をもっていると考えるのではなく、このような症状や状態の特徴があるから○○病だと考えるのです。逆は真ではなく、そのように考えてしまうと、誤った先入観として働いてしまうということになります。
一般の人でよく出会うのは、○○病と診断されたから、あの人のこころはこうであるに違いないと決めつけてしまうことです。こころの病気では、たとえ同じ病名でも多様性があり、個々の事例に即して理解を進めていかなければならないことが通常です。
先入観によって判断してしまうと、こころを深く読めないばかりか、読み間違うことが生じてしまうので、特に注意が必要です。
5 既存の価値基準に左右されないように
うつ病が発症する要因として、さまざまな出来事との遭遇があります。「失恋した」、「大切な人が亡くなった」、「リストラされた」等ということがあれば、うつ病に罹っても不思議でないと、誰もが思うことでしょう。
しかし、「努力が認められて昇格した」、「難しい仕事ができあがった」というような、他者からみて大きな喜びを伴う出来事が、時にうつ病発症の要因になることがあります。昇格により給与が上がるのは嬉しいことですが、責任も増え、部下を管理することが必要になります。また、大きな目標が達成できたことは大きな安堵につながりますが、その後、目標を失った虚無感やむなしさを感じた経験のある人も多くいると思います。昇格うつ病、荷卸しうつ病は、精神科の臨床でしばしば見られる病気なのです。
このように既存の価値基準や自らの価値観に縛られすぎると、他者のこころを正しく読み取ることができなくなります。できるだけ自らのこころを真っ白にして、他者を理解していくように心掛けていくことが必要です。
1 人間のこころを読むのは簡単なことではない、ということを知る
人間のこころを読むというのは、そう単純ではありません。「笑ったから喜んでいる」、「泣いているから悲しいのだ」と単純に決めつけられるものでもありません。たとえば、うつ病の人が、面接の中で「もう大丈夫です」と答えたからといって、安心できるものではありません。更なる苦悩を抱き、自死の覚悟をしたから、「もう大丈夫です」と答えたかもしれないのです。
話すことや聴くこと、表情や仕草、行動の観察、そして周囲の人からの情報など、さまざまな観察や情報の整理を経て、こころが読めていくという作業ができていくのです。
こころを上手に読むために、私は、その作業が単純なものではなく、丹念に分析していく過程が必要であることを心得ておくことが大切だと思います。こころを上手に読むコツをすぐに知りたいと思って本書を手に取っていただいた方には、希望に沿わないかもしれませんが、作業を丹念に続けていくという覚悟が、第一に要求されます。
2 こころを読むことは科学的でもあり、非科学的でもある
こころを読むためには、論理的な思考も必要ですが、一方では情緒的な関わりも大切だということです。こころを読む資料を得るためには、話を聴くことがもっとも重要ですが、情緒的な関わりがないと聴くべき内容を引き出すことができません。
そうして聴き取った内容や行動の観察を基に、こころを読んでいくことになりますが、この際にはそれらの資料を分析していく論理性が要求されます。また、正しくこころを読み取っているか否かの検証の際にも、エビデンス(実証)を求めながら検証していくという論理性が求められます。
こころを上手に読み取っていくには、科学的な部分と非科学的な部分がバランスよく遂行されていくことが必要です。
3 こころの病気を正しく理解することが、こころを読むことの助けになる
本書は精神科医が、どのようにこころを読むのかという主題で、筆を進めてきました。精神科医はこころを読むことで、患者さんをよく理解し、そして診断、治療していこうとします。さらに、こころの病気に罹ることで、こころにどのような変化が生じるのかについて、多くの症例との出会いを通して、知るようになりました。
統合失調症、うつ病、アスペルガーー障害、境界性パーソナリティ障害……等の多くの病気の特徴や症状を知っているので、精神科医は病者がこのように感じているのだろうと理解しやすいのです。したがって、読者の方は、こころの病気の細かい部分まで知る必要はありませんが、本書に挿入したような病気の事例を理解していると、こころを読むことの助けになると思います。また、専門家に相談したり、アドバイスを受けたりすることもプラスになることを知っていれば、問題の解決に役立つでしょう。
4 先入観をもたないようにする
こころの病気の知識を有していることは必要ですが、一方で先入観をもって他者を評価しないように心がけることも大切です。この疾患であるから、このように思っているに違いないと断定するのは誤りです。精神科医は、丹念に話を聴きとり、様子や表情を観察し、周囲の人の情報も加えて、病名を診断し、それに基づいて治療を進めていきます。しかし、ある病気と誰かが診断しているから、このように考えているに違いないと断定することはありません。
つまり、○○病だからこのようなこころの特徴をもっていると考えるのではなく、このような症状や状態の特徴があるから○○病だと考えるのです。逆は真ではなく、そのように考えてしまうと、誤った先入観として働いてしまうということになります。
一般の人でよく出会うのは、○○病と診断されたから、あの人のこころはこうであるに違いないと決めつけてしまうことです。こころの病気では、たとえ同じ病名でも多様性があり、個々の事例に即して理解を進めていかなければならないことが通常です。
先入観によって判断してしまうと、こころを深く読めないばかりか、読み間違うことが生じてしまうので、特に注意が必要です。
5 既存の価値基準に左右されないように
うつ病が発症する要因として、さまざまな出来事との遭遇があります。「失恋した」、「大切な人が亡くなった」、「リストラされた」等ということがあれば、うつ病に罹っても不思議でないと、誰もが思うことでしょう。
しかし、「努力が認められて昇格した」、「難しい仕事ができあがった」というような、他者からみて大きな喜びを伴う出来事が、時にうつ病発症の要因になることがあります。昇格により給与が上がるのは嬉しいことですが、責任も増え、部下を管理することが必要になります。また、大きな目標が達成できたことは大きな安堵につながりますが、その後、目標を失った虚無感やむなしさを感じた経験のある人も多くいると思います。昇格うつ病、荷卸しうつ病は、精神科の臨床でしばしば見られる病気なのです。
このように既存の価値基準や自らの価値観に縛られすぎると、他者のこころを正しく読み取ることができなくなります。できるだけ自らのこころを真っ白にして、他者を理解していくように心掛けていくことが必要です。
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