goo

フェアトレード ★美味しいコーヒーと持続可能な地域づくりをつなげる★

『エクアドルを知るための60章』より

豊かな自然に恵まれるエクアドルでは、各地に独特の文化が育まれ、ものづくりの技術が磨かれてきた。都市近郊の市場には民族性豊かな織物、焼き物、帽子やセーター、革製品、銀製品、楽器などの工芸品が集まってくる。ただ経済構造は外部依存型のまま変わらず、石油、バナナ、エビ、コーヒーなどの一次産品を輸出して外貨を獲得し、同時に外資導入による無理な開発政策を続けながら対外債務を増大させてきた。経済発展の裏では、急激な森林破壊や土壌浸出も引き起こされ、すでに9割以上の森林が失われたという。先進諸国によるODA(政府開発援助)は債務累積や環境破壊につながる傾向が大きい。生産と流通を支配する多国籍企業も安い労働力と天然資源や市場を求め、格差の拡大を助長する。近年では新自由主義が猛威をふるい、不公平な関係は堪えがたいほどになっている。

こうした動向に対し、1999年の「シアトルの反乱」に発する反グローバリズムの運動が勢いを増してきた。エクアドルでも2000年、石油企業テキサコを相手に、熱帯雨林を破壊し住民の健康を阻害したとして、約3万人の住民が訴訟を起こしている。1992年までの20年間に有毒な排水や原油を廃棄し続け、熱帯雨林や農作物や家畜に打撃を与え、ガンの発病者を増加させたからだ。

同時に、現行の経済システムに反対するだけでなく、南と北の間、生産者と消費者の間、および都市と農村の間に新しい関係を構築しようとする動きが、世界各地で生まれている。その一つが「フェアトレード」の運動である。マイケル・バラット・ブラウンは、フェアトレードを「貿易の相手国同志が第一世界と第三世界の間のより平等な立場の財の交換を、意識的に模索しあう貿易システム」だと定義する。実際、貿易のあり方を再考し「発展」の概念を問い直しながら、フェアトレードに期待が寄せられている。

その一環となるコーヒーの対日貿易を例に、フェアトレードの現状を紹介しよう。まずコーヒー農家を取り巻く状況を述べたい。生産農家の生活や労働に影響を与えるのは先物取引の対象となるコーヒー豆市場の動向である。1989年に、コーヒーの国際割当制度が廃止されると、生産過剰による価格暴落の影響が生産者の生活を直撃するようになった。また天候に左右され、作付けなどのコストを負担しなければならない生産者は、教育費や医療費の支出もままならず、食料生産用の農地も不足する過酷な状況におかれた。一般に、広大な土地を必要とするコーヒー栽培では土地所有の集中化が進む傾向があり、先住民族などの間に大量の零細・土地なし農民を生み出してしまう。こうした農民が低賃金労働者として大農園の労働を支える構造が生まれ、同時に、中小規模の農家の破綻や零細農民の貧窮化と都市への流出を招いてきた。

まさに南北格差を象徴するようなコーヒー生産と貿易の構造が世界を支配するなか、オルタナティブとしての森林農業による無農薬コーヒーの取り組みが始まっている。曹早で述べたコタカチ郡インタグ地方における実践がそれである。ここではフェアトレードの視点から同地方の試みを紹介する。

1998年にアプエラで設立されたインタグ川コーヒー生産者組合(AACRI)は、生産者を支援しつつ、森林を伐採せずに作物を栽培する「森林農法」の普及に努め、有機栽培を進めてきた。これを支援すべく、1999年にウィンドファーム(北九州)がAACRIと取り引きを結び、生豆の輸入を開始した。同社は市場の約3倍もの高値に買入価格を固定したばかりか、50%の前払い、長期の売買関係、それに全量の買い取りという条件を約束し、さらに生産者組合の組織強化や開発問題に関する助言と資金援助も実施してきた。これはまさしく、生産者との直接的な取り引きに基づき、両者の話合いで価格などの諸条件を決めるフェアトレードの実践にほかならない。品質向上や生産拡大を背景として、日本への輸出は増大し、AACRIの会員も350名に達している。

コーヒーを通じて消費者が生産地の情報に直接ふれることは、開発とは何か、私たちの暮らしはどうあるべきかを問い返し、できるだけ公正な取り引きを行い、環境負荷の少ない作物を選ぶという先進国側の意識改革につながる。また消費者の感想が伝えられることで、生産者も森林栽培の意義を再確認し、地域の自然と文化を保全しようという意欲を喚起される。両者の間では、「売れるからといって、コーヒーだけを単一栽培はしない」ことを常に確認する。それは、換金作物と現金のみに頼って自給自足の経済を壊さないようにとの配慮からだ。実際、AACRIの収益の5%がDECOIN(現地NGO)による森林保護活動に役立てられ、環境保全に対する住民の意識を育んできた。住民は学習会を開いて、環境保護と表裏一体のコーヒー管理や、病害虫の防止、有機肥料づくりなどを熱心に学んでいる。森林農法によるコーヒー栽培は、山間地の急斜面における土壌浸食を防ぎ、森の生物多様性を高める効果がある。今後は、フェアトレードを普及すると同時に、代替医療サービスや生産者教育プログラムを充実させるなど、共同体のニーズに合った社会資本の再配分を住民主体で決定することが課題といえよう。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 高福祉高負担... 要望の「因数... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。