古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

ウサギとカメ

2011-02-04 | 読書
 少し古い本ですが、『生命を捉えなおす』(清水博著、中公新書、1990年)を読んでいます。面白い挿話がありましたので、紹介します。

 『ウサギとカメの競争の話は有名ですが、その骨格筋を比較すると次のようなことが分かります。すなわち、ウサギの筋肉はカメの筋肉よりも早く縮むことができるけれど、エネルギー変換の効率の点ではカメの筋肉のほうがウサギのものよりずっと良いのです。言い換えれば、ウサギの方は早く走ることができるけれども、エネルギー変換の効率が悪いので疲れやすく、またカメはゆっくりしか走れないけれど、エネルギー変換の効率がすばらしくよい筋肉を持っているので、疲れることも少なく、いつまでも走りつづけることができるということになるかもしれません。



筋繊維は、筋原繊維と呼ばれる収縮することができるタンパク繊維の束のほかに、この間を埋める膜や筋小胞体やミトコンドリアなどから成り立っています。筋繊維を光学顕微鏡で見ると、0.002~0.003ミリの長さの横紋が規則正しく繰り返した構造をもっていることが観測されるので、別名、横紋筋とも呼ばれています。この横紋の繰り返しの一単位をサルコメア(筋節)と呼んでおり、これが筋収縮の構造的・機能的な基本単位になっていると考えられています。サルコメアは交互に規則的に並行に並んだ太い繊維と細い繊維の二種類の繊維から出来ています。

 筋肉が収縮している最中におきるサルコメアの構造の変化を調べると、2種の筋肉の繊維の長さは一定のまま、両者の重なりの大きさだけが変ることが分かります。つまり、筋収縮は、繊維がバネやゴムのように収縮することによって起きるのではなく両繊維が相互に滑り込むことによっておきているのです。

 エンジンとしての骨格筋には、われわれの知っているエンジンにない大きな特徴がいくつか知られています。第一は、非常に高い効率で化学的エネルギーを力学的エネルギーに変換していることです。正確な値はまだ定まっていませんが、その効率は50%をこえているものと思われています。90%ほどであろう、という人さえいます。第二は、筋肉はガソリン・エンジンや蒸気機関とは異なった新しい熱力学的原理によって動いているということです。

 熱機関では化学的エネルギーがいったん気体の熱エネルギーに変り、さらにその熱エネルギーをピストンの力学的エネルギーに変えています。

 筋肉はこれと異なって、化学的エネルギーを、一度熱エネルギーという低級なエネルギーに変えないで、直接にさらに高級な力学的エネルギーに変えていると考えられています。つまり、筋肉はわれわれの熱機関と異なる未知の熱力学的原理によって動くエンジンであるということができます。その理由は、筋肉が収縮するときに出る熱量が通常の熱機関に比べて非常に少ないこと、また、筋肉全体を一定の温度の液体に浸して、温度を一定に保っても収縮をするというということです。筋肉はエネルギー源を燃焼させないので、有害な気体を外へ出すこともなく、また騒音を出すこともなく、その上、化学的エネルギーを高い効率で力学的エネルギーに変換していますから、未来のエンジンとして、望ましい性質を備えていると考えられます。』