古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

ヒトラーとケインズ(1)

2011-02-08 | 経済と世相
『ヒトラーとケインズ』(武田知弘著、10年6月刊祥伝社新書)という面白いタイトルの本を読みました。

「不況期には、政府が財政出動して有効需要を創出し、失業を減らす」というケインズ理論は、今でも経済学説の重要な一角を占めている。

ヒトラーは、このケインズ理論の優等生であったと著者は述べるのです。

ヒトラーが政権を取った1933年というのは、ドイツは600万人以上が失業する(失業率34%)という、経済破綻状態に陥っていた。ヒトラーは政権を取って3ヵ月後、1933年5月「アウトバーン計画」を発表した。ドイツ全土を網羅する前兆1万7千㌔の高速道路「アウトバーン」を、これから6年間で建設するというものである。

アウトバーンをはじめ、住宅建設、都市再開発などの積極的な公共投資を行い、ドイツの失業率は一気に低下した。政権についてわずか2~3年でドイツ社会を復興させた。

ヒトラーというと、軍備を拡張することで失業を減らしたと思われることが多いが、それは正確ではない。ナチス政権の前半期に、国民のために支出(軍事費以外の支出)した費用は、ナチス政権以前より著しく大きい。またGNPに占める軍事費の割合も、1942年まではイギリスよりも低かった。

ヒトラーとケインズの政策思想で共通している部分の最たるものは、経済の中でもっとも悪いものは「失業」であると捉えていたことである。

金融危機、不況、インフレ、デフレが生じたとしても、失業者が出ず、食うのに困る人が出ないならば、ほとんど問題にならない。つまり、金融危機、不況自体が問題ではなく、失業が問題なのである。

その点を、現在の経済学者、経済政策者は履き違えている感がしてならない。

日本の現状をみてもそうだ。景気浮上のためと称して、巨額の財政支出を行っても、それはほとんど大企業の収益に吸収されてしまう。大企業が経営破たんしそうになると巨額の税金を使って救済する。

もし、失業者を減らすことを最優先に経済政策を行えば、もっと少ない税金で、社会を安定させることができるはずである。

ケインズの失業対策理論には「乗数効果」がある。政府が投資して雇用を増やせば、雇用された労働者は、そこで得た収入を使う。労働者がお金を使えば、それがまた誰かの収入になり、その収入が使われ誰かの収入になる。かくて、需要が乗数的に喚起され景気が上向くという理論である。この場合、お金を得た人の使う率(消費係数)が高いほど効果が高くなる。消費係数が高いのは所得の低い人だから、低所得者に多くお金がわたるようにするほど、乗数効果が高くなる。ナチスは高所得者に増税し、企業の増税をして公共事業の財源とした。

民主党の政策とヒトラーの政策(どちらも子供手当てを実施)の最大の違いは「民主党は大企業や金持ちに増税をしていない」ということである。



ヒトラーの経済政策と、ケインズ理論の共通項として、「公共事業」の次にあげられるのは、「金本位制」からの離脱である。

ヒトラー政権直前のドイツ経済は、金の流出が続き、金融危機に陥っていた。それを見たヒトラーは、金本位制を捨て管理通貨制に移行したのである。・・つづく