古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

人工知能(AI)と経済の未来

2017-03-28 | 読書
『人工知能(AI)と経済の未来  2030年雇用大崩壊』(井上智洋著、2016年7月文春新書)を読みました。本屋の立ち読みで前書きの次の記述が目にとまりました。
『汎用人工頭脳が普及した世界に是非とも導入すべきと私が考えているのは、ベーシック・インカムです。』
これを読んで、「読んでみよう」と、購入をしました。
 筆者は、慶応義塾大学環境情報学部卒業、早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学とのこと。つまりAIの専門家として出発したが、経済に関心をもち、経済学を学んだということだ。
 Aiの発達は未来において経済成長や雇用にどのような影響を与えるかを考えることが本書の主題であると筆者は述べる。
まずは雇用への影響。
 『近頃、人工知能が仕事を奪うという問題が盛んに取沙汰されます。実際、セルフドライビングカーや人工知能を搭載したドローンによる配送により、タクシー運転手やトラック運転手が失業するおそれがあります。汎用人工知能が実現普及すると、あらゆる人間の労働が汎用人工知能を搭載したロボットなどの機械に代替され、経済構造が劇的に変化する。
 今後AIの技術進歩が加速化し、それにも拘らず政府がマクロ経済政策を怠ると、需要不足による失業が増大し長期化する可能性があります。
 マクロ経済政策には、橋や道路の建築といった公共事業などに対する政府支出を増やす「財政政策」と中央銀行が世の中に出回るお金の量を増やす「金融政策」があります。いずれも需要を増大させ、景気を良くする効果があると考えられています。
 ただし、公共事業へ支出する財政政策は需要不足を解決する手段として妥当ではないと私は思う。橋や道路は必要に応じて建設すべきであり、不必要なら建設すべきでないからです。それに、建設業が潤っても、他のすべての産業が潤いマクロ経済全体の需要不足が解消するとは限らないからです。一般的には、金融政策の方が経済全体を潤す効果を持ちます。
 金融政策には、「金融緩和政策」と「金融引き締め政策」があります。「金融緩和政策」とは、中央銀行が民間銀行から国債を買い入れ、その見返りに発行した貨幣を民間銀行に供給する政策です。そして、その民間銀行が企業へ貸し出しを行うことで、市中にお金が出回る。「融引き締め政策」はその逆です。』
 ところで、この考え方で、アベノミクスでは、日銀は異例の金融緩和を実施しましたが意図したようにお金は市中にでまわりませんでした。民間銀行に供給されたお金が、企業に貸し出されずに日銀の当座預金勘定にブタズミされるばかりだったからです。企業は儲かると思わなければいくら金利が低下しても資金を借りて投資しません。つまり日銀から民間銀行へお金が流れるルートはあっても、その後の企業及び国民にお金を回す道が閉ざされていたのです。
 そこで、本書の筆者の提案するシステムハがベーシックインカムです。
『「ベーシックインカム」(Basic Incom、BI)はすべての人に、その人の収入水準に拠らず無条件に、最低限の生活費を一律に給付する制度で、世帯ではなく、個人を単位として給付します。
 BIを社会保障制度の一種としてみた場合、それは「普遍主義的社会保障」として位置づけられ、生活保護が「選別主義的社会保障」であるのと対照的です。
 生活保護の種々の問題点は、それが「選別主義的」であることから生じます。それに対し、BIは「普遍主義的」であるがゆえに、生活保護の問題点を克服することが出来る。BIの空腑にあたって、労働しているかどうか病気であるかどうかは問われません。金持ちであるか貧乏であるかも関係ありません。全国民があまねく受給するものだから取りこぼしがなく、誰も屈辱を味わうことがない。また、労働しても受給額はへらされないから労働意欲を損ねない。』
 『人は母子家庭や失業、老齢といったさまざまな理由で貧困に陥る。現在、こうした理由の明確な貧困に対処するために、児童扶養手当や失業手当、年金などが制度化されている。しかし、政府が認めた理由以外でこうした救済を受けることはできません。全ての人が受給対象になればそういった制度は不要になります。BIを導入することで既存のもろもろの社会保障制度を廃止することが出来れば、社会保障に関する行政制度は極度に簡素化され、事務手続きや行政コストは大幅に削減されます。
 新たな政策の導入には「財源は?」が問われるが、国民生活を向上させることが明らかなら増税すればいい。増税額は、前述の行政コストの削減を考えると、それほど大きなものにならない』と筆者は言う。
 マイナンバー制度が16年の1月から実施されたが、マイナンバーと銀行口座が紐付されるようになれば、コストのかからないBI制度導入の環境が整うでしょう。
Aiがもたらす失業の危機にBIで対処せよという筆者の提言、一考に値すると思いました。