古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

反・自由貿易論(2)

2013-07-20 | 読書
この本を読んで、改めて思ったことは、TPPは関税が問題ではなく、非関税障壁が問題だということです。
第3章では“「通貨とルール」の支配が最大の武器“と、論じています。
 政治学者デヴィッド・キャメロン(米)は、1978年に発表した論文で、「戦後の先進国では、国内市場の対外開放度の高い国ほど、経済に占める政府支出の比率が高い」という事実を示しました。つまり、貿易自由化が進むほどに、政府は大きくなっている。
 一般に主流派の経済学者は、自由貿易と共に「小さな政府」を望ましいものと考えて・・・自由貿易のためには、政府は国際市場にも国内市場にもできるだけ介入しない方がよいというのです。ところが、実際には、貿易自由化は政府を大きくするものでした。
 多くの日本人が戦後の成功体験から「日本は、自由貿易により繁栄した」と信じていますが、その成功は、単に市場開放を進めたからではなく、冷戦下の覇権国家アメリカの存在と・・・政治的な条件によって支えられていたのです。
 しかし、世界の政治や経済の構造変化と共に、こうした政治的な条件が変わっていく・・貿易体制が本質的に変化し始めるのは1970年代から80年代にかけてのことです。経済力が相対的に低下し、関税引き下げだけでは優位を保てなくなったアメリカが、経済戦略の主眼を、市場内部にある企業の競争力を強化するアプローチから、市場のルール自体を自国企業に有利に変更するアプローチへと移行し始めるのです。
 「非関税障壁」というのは、簡単に言えば、外国製品や外国企業が市場に参入するにあたって、現地の製品や企業との競争において不利になると思えられるものすべてが含まれます。国内の規制や制度、取引慣行、文化、はては言語までも、「競争の妨げ」だと見なされれば、「撤廃すべき非関税障壁」・・・たとえば、日本政府が公共事業の入札を行う場合、「公示が日本語だけで行われるのは、アメリカの建設会社にとって非関税障壁」と言われれば、「英語でも表示しなければならない」というルールが定められる。
 戦後のGATTによる貿易交渉が関税引き下げに成功してしまったということが、貿易交渉の大きな変化をもたらしたのです。
 1970年代初頭、・・・変動為替相場に移行。企業の国際競争力を決定する要因として、為替相場がきわめて重要になる。たとえば貿易交渉において、アメリカが対日関税を10%引き下げても、円高・ドル安が10%進んでしまったら、関税撤廃の効果は全く無意味になってしまう。
 グローバル化した世界では、相手国の関税を引き下げてもらうより、相手国で企業が有利にビジネスを行えることの方が大切です。貿易交渉においても、関税の引き下げより相手国の国内制度や経済ルールを自国企業に有利に設定することが求められるようになりました。
 今日の世界では、グローバル経済戦略の主要な武器は、関税ではなく、「通貨」そして「ルール」なのです。
 世界がグローバル化したことによって、国家の政治の影響力は後退するどころか、より重要になったのです。そして世界経済は、市場と言うルールで行われる企業間の経済競争ではなく、市場のルールの設定をめぐる国家間の政治競争の場になった。
 結局のところ、「市場」とは、財・サビスの交換における「ルールの体系」のことです。そのルールの体系を設計し、担保するのは政治であり、国家です。

 WTO協定を成立させたウルグアイ・ラウンドの際、アメリカの議会は、「ウルグアイ・ラウンド協定法」という法律を成立させました。これは、WTO協定を国内で具体化するための国内実施立法です。
 ところが、ウルグアイ・ラウンド協定法は、WTO協定とアメリカの国内法の効力関係について、次のように規定しているのです。
「ウルグアイ・ラウンド諸法のいずれの規定も、またはその規定のいずれかの人もしくは状況への適用も、それがいずれかの米国法に反する場合には、いかなる効果ももたない」
 日本の場合はどうでしょうか。憲法98条第2項で「日本国が締結した条約および確立された国際法規はこれを誠実に順守することを必要とする」
つまり、アメリカが入っている貿易協定に日本も参加した場合、日本は国内法よりも優先して貿易協定を守る義務を負うのに対し、アメリカは国内法を優先して貿易協定の規定に違反することができるということになるのです。
このようにアメリカは、自国に有利になるようにハイパー・グローバリゼーシヨンを推進しました。しかし、だからと言って、アメリカの一般国民がその恩恵を受けたというわけではない。
平成20年版経済財政白書を見てみると、先進国における労働分配率は2000年代に入ると下がっています。特に輸出主導で成長した日本とドイツにおいて、労働分配率の低下は顕著です。
 結論は「TPPが敵とするのは関税ではない。敵は非関税障壁の撤廃!」、非関税障壁の撤廃は、米国製品や米国企業がTPP加入国の市場に参入するにあたって、現地の製品や企業との競争において不利になるルールをすべて撤廃することです。
 しかし、それが撤廃されて米国企業が利益を上げたとしても、米国国民が恩恵を受けるわけではなく、まして日本の国民が恩恵を受けることはあり得ない。
 市場のルールと、通貨を制する国家(国家の企業)が富を制する時代です。