shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

A Quick One / The Who

2011-06-11 | Rolling Stones / The Who
 ザ・フーのデビュー・アルバム「マイ・ジェネレイション」はアメリカではDecca 、イギリスでは Decca 傘下の Brunswick レーベルから発売されたが、レコーディング等すべてが管理される状況に嫌気がさした彼らはプロデューサー、シェル・タルミーとの契約を破棄し、クリームのマネージャーであるロバート・スティグウッド(クラプトン関係のリイシュー盤でよく見かける赤べこ・マークのRSO は Robert Stigwood Organization の略ですね)が興したインディ・レーベル Reaction へと移籍した。
 この Reaction というレーベルは1966~67年のわずか2年弱という短命だったこともあってLPはわずか3枚しかリリースしていないのだが、その3枚というのがクリームの1st「フレッシュ・クリーム」、2nd「ディスラエリ・ギアーズ」そしてこのザ・フーの 2nd アルバム「ア・クイック・ワン」というのだから恐れ入る。ウエスト・コースト・ジャズ・ファンにとっての “タンパ” や “イントロ” と同様に、ブリティッシュ・ロックのオリジ盤マニアにとってはまさに垂涎モノの “幻のレーベル” なのであり、私なんかあの濃いブルーのセンター・レーベルを見ただけでコーフンしてしまう。
 マニア垂涎の希少レーベルだけあってこのアルバムのアナログ・オリジ盤落札競争は熾烈を極め、私は何度も競り負けた挙句、状態の良さそうな VG コンディションの盤を£23.50でゲット。 with just some light superficial surface marks (ちょっと表面的な擦れがあるだけ)という説明通りのキレイな盤で実際のプレイ・グレードはほぼNM 、「マイ・ジェネレイション」の時と同様に安く買えて大ラッキーである(^o^)丿 ザ・フーの初期盤3枚は EX や NM の盤を買おうとするとどうしても購入価格が1桁高くなってしまうので、VG 表記で状態の良さそうな盤が狙い目だ。
 1966年にリリースされたこの「ア・クイック・ワン」は有名なヒット曲が入っていないせいか世間一般の認知度は低く、バンドが新しい方向性を模索していた時期の過渡期的な作品ということもあってファンの間でもついつい見過ごされがちなアルバムなのだが、私はA①「ラン・ラン・ラン」がめちゃくちゃ好きなので、この1曲のためだけにでも買う価値があると信じている。この曲は疾走感溢れるストレートなロックンロールで、「マイ・ジェネ」に通じるようなアタック音の強さは天下一品! ジャカジャカジャ~ンとかき鳴らす感じのピートのギターは超カッコイイし、ビートリィなコーラス・ハーモニーも絶妙な味わいを醸し出しており、何でこの曲をシングル・カットしなかったのか不思議なくらいの名曲名演だ。特にロジャーの辛口ヴォーカルはどこかジョン・レノンを彷彿とさせるところがあって、ビートルズ・ファンなら一発で気に入るのではないか。「ラバー・ソウル」あたりに入っててもおかしくないようなスーパー・ウルトラ・キラー・チューンである。
 B③「ソー・サッド・アバウト・アス」はホリーズあたりが歌えばぴったりハマりそうなメロディアスなナンバーだが、「キッズ・アー・オールライト」の流れを汲むキャッチーなこの曲をキースのパワフルなドラミングで凡百のビート・ポップスとは激しく一線を画す作品に仕上げているところがザ・フーらしい。 “曲は甘く、演奏は辛く” という理想的なパターンだ。
 9分を超えるタイトル曲のB④「ア・クイック・ワン、ホワイル・ヒーズ・アウェイ」は、「ハー・マンズ・ゴーン」「クライング・タウン」「ウィー・ハヴ・ア・レメディ」「アイヴァー・ザ・エンジン・ドライバー」「スーン・ビー・ホーム」「ユー・アー・フォーギヴン」という6つの異なったパートから成る組曲風の作品で、ピートの言葉を借りると “ミニ・オペラ” ということになるのだが、これが後にロック・オペラ「トミー」へと発展していったことを考えればバンドにとっては非常に重要な1曲と言える。確かにビートルズも「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」でこの手法を用いているし、70年代のプログレではもう当たり前田のクラッカーだ。そういう意味では時代を先取りしていたとも言えるが、ピートがインタビューで語ったところによると、アルバムを作っていた時に最後の10分だけ空きが出来てしまい、プロデューサーに “他の曲と関連性のある10分間の大作を書いてぇな” と言われ “ロックは昔から2分50秒に決まっとるやん。そんなん無理や!”とピートが答えると “ほんなら2分50秒の曲を集めて10分の曲を作ったらエエがな” という経緯でこの曲が出来たという。こういう偶然が必然になってしまうところがスーパー・グループたる所以だろう。ただ、このスタジオ・ヴァージョンはやや大人し目なので、ストーンズを喰った「ロックンロール・サーカス」やジミヘンの機制を制した「モンタレー・ポップ・フェス」でのスリリングなライヴ演奏が超オススメだ。尚、タイトルの意味は “旦那の留守を狙った短い情事” ということらしく、そのせいか Decca は曲を一部差し替えて US盤のアルバム・タイトルを「ハッピー・ジャック」に変えて発売したという。
 このアルバムではザ・フーのメンバー全員がコンポーザーとしてオリジナル曲を提供しているのだが、コレは 1st アルバムの印税の大半をシェル・タルミーに搾取され、更にステージで楽器を壊しまくって超金欠状態だった彼らが “一人2曲ずつ曲を書いたら印税を前払いする” という音楽出版社との契約に飛びついたため(←ロジャーは1曲しか書いてへんけど...)と言われている。確かにお金が無くて大変だったというのは本当らしく、このレコーディングも予算不足でチェロが使えずB④のラスト・セクション「ユー・アー・フォーギヴン」のアタマの部分で本物のチェロの代わりに “チェロチェロチェロチェロ..♪”と口でコーラスしたという笑うに笑えないようなエピソードもある。
 ということでピート以外のメンバーが書いた曲ではキースのA③「アイ・ニード・ユー」がエエ感じ。日本の GS みたいなマイナー・メロディーといい、絶妙な味を出しているハープシコードのアレンジといい、キース・ムーンの隠れた才能を見る思いがする。後のライヴで定番になったジョンのA②「ボリス・ザ・スパイダー」(←邦題の「ボリスのくも野郎」にはワロタ...)も不気味な雰囲気が出ていて中々面白い1曲。A⑤「ヒート・ウエイヴ」はアルバム中唯一のカヴァー曲だが、このトラックだけ時計の針を逆戻りさせたような感じがして全体の流れの中で何となく浮いているように思える。この曲はリンロン・ヴァージョンが一番好きだ。
 「イエロー・サブマリン」のアニメを手掛けたイラストレーター、アラン・オルドリッジによるポップ・アートなジャケットがユニークなこのアルバム、ロック史に残る大名盤とは言えないかもしれないが、ザ・フーのファンが目を細めて聴き入る愛すべき1枚だと思う。

Run Run Run - The Who


The Who So Sad About Us


The Who - I Need You


A Quick One, The Who @ Monterey Pop

この記事についてブログを書く
« My Generation / The Who (P... | トップ | The Who Sell Out »