shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

「With The Beatles」デッカ・プレス vs パイ・プレス

2023-09-10 | The Beatles

 この前B-SELSに行った時にマトリクスによる音の違いの話で盛り上がったのだが、そこで話題に上がったのがちょうどその前日に「日記」に書かれて即売り切れたという「With The Beatles」のデッカ・プレスだった。よくよく考えてみれば、「With The Beatles」に関しては “究極のラウドカット” を探し求めてマト1盤を何枚も買うくせに、それ以降のマトはマト4とマト7をそれぞれ1枚ずつ申し訳程度に持っているだけで、レアなパイ・プレスはおろか、割と有名なデッカ・プレスですら持っていないという体たらくだった。
 Sさんにそのことを言うと “いやいや、その方が Shiotchさんらしくていいんじゃないですか?” と笑っておられたが、筋金入りの “ビートルズきちがい” を自認する私としては他社プレスの話になった時に “えーっ、まさかデッカ・プレスも聴いたことないんでっか?” と言われたらぐうの音も出ない。そういえば何年か前にB-SELSで「My Sweet Lord」のプレスによる音の違いを教えてもらい、パイ・プレスの音が気に入って買ったことを思い出した。それに「With The Beatles」の他社プレス盤はラウドカットではないけれど、-7Nだって少しヴォリュームを上げれば捨てたモンじゃない。
 こーなってくると何だか無性にデッカやパイでプレスされた「With The Beatles」の音が気になってくる。EMIプレス盤と比べて “It Won't Be Long” の爆裂具合いはどうなのか... 「Roll Over Beethoven」のイントロはキレッキレなのか... これは是非とも現物を手に入れて実際に自分の耳でその違いを確かめなければならない... と心に決めた私は久々にハイ・テンションで B-SELS を後にした。
 家に帰って早速 eBayをチェックするとラッキーなことに盤質Exのデッカ・プレス盤が£25というお買い得価格で出ているではないか! 自分の中では £1≒155~160円 というイメージだったのだが、その時見たら171円でビックリ(←今は184円でぺんぺん草も生えない...)。こんな酷い円安を放置して知らぬ存ぜぬの日本政府なんぞ消えてなくなれ!と叫びたい気持ちになったが、結局誰も来ずに無風で落札できて(←人気無いのかな?)、送料込みで7,200円で買えたのは不幸中の幸いだった。オークションってホンマに運ですな...
 勢いづいた私は “こーなったらパイ・プレスもいったれ!” と同じeBayで検索してみたところ、あるにはあったのだが、何と£250(約45,000円)と£300(約55,000円)という無慈悲な値付けに開いた口が塞がらないし、Discogsに至ってはパイ・プレスの出品すら見当たらないのだからお話にならない。これは万事休すかな... と諦めかけた時に、CD and LPというヨーロッパの通販サイトのことを思い出した。レイアウトが見にくいのと現物写真が載ってないという致命的な欠陥のために滅多に見ることはないのだが、背に腹は代えられない。
 う~ん、それにしても見にくいなぁ... 最近老眼が進んで細かい文字を見るのが億劫なので、ページ毎の商品表示数を最大の500に設定して “Pye” で検索をかけてみたところ、300枚近く出品されていた「With The Beatles」の中で1件だけヒット。盤質はNMで値段を見ると €100となっている。私はパイ・プレス盤の相場というのがどれくらいなのかよくわからないのだが、少なくとも eBay の1/3の値段である。これってひょっとしてラッキーちゃうの?とコーフンしながらも念には念を入れてセラーにメールでマザー/スタンパーを確認すると(←海外からレコードを買い始めてからすっかり人を信用できなくなってしまった...)1時間もしないうちに返信が来て、A面が “P 2 11/A” でB面が “P 3 12/A” とのこと。これは本物だ!と小躍りした私は即買いを決めた。
 それから10日ほどしてまずデッカ・プレス盤が届いた。私がジャズのアナログ・レコードを買い始めた時、50年代のレコードでよく見られるセンター・レーベルの Deep Groove(深溝)を初期プレスを示す指標の一つと見なしていたこともあって DG のある盤に対する思い入れは非常に強く、「With The Beatles」デッカ・プレスのセンター・レーベルに刻まれた DG を見ただけで良い音がしそうな気がした。
 早速EMIプレス(-7N)と聴き比べてみたところ、デッカ盤の方が優等生的というか、音がキレイで細かい音もしっかりと聞こえる感じがする。何度も切り直すことによってバランスを最適化していった -7Nの音を更に突き詰めたようなサウンドで、一般ピープルにとっては非常に聴きやすい音作りだと思う。ただ、ラウドカットに慣れきった私の耳(←ハッキリ言って異端ですわ...)にはデッカもEMIも大同小異でイマイチ物足りない。ロックンロールにはやはり “度肝を抜くような重低音が轟きわたり、中音域がバーン!と張り出してきて、キレッキレの高音域が躍動する” -1Nのエグい音作りが最高だ。
 それから2日して今度はパイ・プレス盤が到着。EMIだけでは生産が追いつかず、DECCA社に委託してプレスされ、更にそれでも間に合わずにPYE社にまで委託するハメになったという曰く付きのレコードだ。EMIやデッカの盤がフラット・エッジなのに対し、このパイ・プレス盤はナイフ・エッジと呼ばれる形状をしており、スタンパー・コードはどれもA。しかしマザーに関してはちょっとややこしくて、色々調べてみたところ、数字は 3 12と 2 11の2通りなのだがそれと組み合わせるアルファベットが私の P 以外にも PB や QA など何種類かのパターンがあるようでいまいちよくわからない。。
 肝心の音の方だが、ハッキリ言ってめっちゃ私好みの音だ。とにかくシャープで音の輪郭がクッキリハッキリしていて押し出し感が強く、その一方で倍音もキレイに伸びているという、まさに言うことナシの高音質。ラウドカットの長所をちゃんと残しながらも「Till There Was You」のようなバラッドを美しく聴かせるところは只者ではない。もちろんAラスの「Please Mister Postman」も歪み無く聴けて大満足だ。
 3枚を改めて聴き比べてみてその音の印象はまさに三者三様で面白かったが、1枚選ぶとすれば迷うことなくパイ・プレスだ。自分にとっての「With The Beatles」は UKのスタンパー1G、オーストラリア、デンマークの -1Nラウドカット盤がトップ3なのだが、今回聴いたパイ・プレスはそれらに迫る堂々の4番手だし、残りの2枚もラウドカット御三家に次ぐ第2グループの中ではかなり上位に来ると思った。それにしてもこの「With The Beatles」というレコードを私は一体何枚買えば気が済むのだろうか???