shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Everything Was Right / The Beatles

2022-09-18 | The Beatles
 「Revolver」ボックスセットのオフィシャル・リリースが正式に発表された。当初は「Sgt. Pepper's」以前の、4トラック・レコーディングされた音源はニュー・ミックスを作るのが困難なのでリリースに?マークが付いていたが、その後映画「Get Back」でピーター・ジャクソン監督のオーディオ・チームがヴォーカルと楽器とを分離する方法(“デミックス” というらしい...)を開発し、それが今回のリリースを可能にしたという。ジャイルズ・マーティンがこの “デミックス” を “ケーキを小麦粉・卵・砂糖に分離するようなもので、他と混ざっているものがひとつもない状態” と実にわかりやすく例えてくれているが、テクノロジーの進化というのはホンマに凄いなぁと感心させられた。この技術が今後「Rubber Soul」や「Help!」などにも使われるかもしれないと考えると、ビートルズ・ファンとしてはピーター・ジャクソン監督に足を向けて寝れない。
 今回の「Revolver」もこれまでと同じように様々なフォーマットで発売されるが、私が狙うのはもちろん「スーパー・デラックス・エディション」の輸入盤。薄っぺらい解説・対訳を付けただけで輸入盤よりもCDで5,000円、LPで7,000円も高い “ぼったくり”価格の国内盤なんぞに用はない。早速アマゾンやタワレコ、HMVなどで値段を比べてみたら、HMVの “まとめ買い価格” が一番お買い得そうだったので即予約。まだ1ヶ月以上先のリリースになるが、YouTubeにアップされた「Taxman」を聴いてますます期待が膨らんだ。早よ10月末にならんかな...(^.^)
Taxman (2022 Mix)

 そういうわけで最近は「Revolver」関連の音源を聴くことが多いのだが、そんな中でも車の中でよく聴いているのが今日取り上げる「Everything Was Right」というCDだ。これは「Revolver」のリリース40周年を記念して PUBLIC RADIO INTERNATIONAL が製作し、2006年5月23日に放送されたラジオ・プログラムを収録したもので、単に曲を流してインタビューを挟むというありきたりなものではなく、別ミックス、アウトテイク、ミックスダウン前のテープなどを使いながら、マーク・ルイソンやジョージ・マーティンといった関係者のインタビューと共に「Revolver」の音楽性を掘り下げていくという、実に濃い内容の番組なのだ。
 このプログラムではアルバムの全曲とリード・シングル「Paperback Writer / Rain」について様々な角度から分析が行われており、非常に興味深い情報が詰め込まれている。例えば「Paperback Writer」で繰り返し “フェ~ラ~ジャ~カ~♪” と聞こえるバック・コーラスが実はフランス民謡の「フレール・ジャック」だなんてこの番組を聴くまでは全く知らなかったのだが(←「All You Need Is Love」といい、この曲といい、ビートルズってフランス好きなんやね...)、ヴォーカルとコーラス・パートだけを取り出した音源で検証すると確かに「フレール・ジャック」そのものだ。荒ぶるギター・リフやブンブン唸るリッケン・ベースもしっかりと抽出して、そのアグレッシヴなサウンドの秘密を解き明かしている。ポップ・ソングの世界で paperback writer という言葉自体が珍しく、ネイティヴですら “Paper bag, right turn” と聞き違えたという空耳エピソードも面白かった。
 空耳と言えば、「And Your Bird Can Sing」の歌詞に関する考察でボブ・ディランとの関連について言及されているのだが、面白かったのはビートルズのアメリカ上陸の際に初めて「I Want To Hold Your Hand」を耳にしたディランが歌詞の “I can't hide...♪” の部分を “I get high...♪” だと勘違いし、64年夏のUSツアー時にビートルズが滞在しているNYのホテルにマリファナ持参で訪ねていったところ、彼らがまだ “ハイになったことがない” と知って驚いていたというエピソード。ネイティヴ同士でも空耳とか聞き違えって結構多いんやね。
 「Taxman」でオーディオ・エンジニアがポールの鬼気迫るギター・ソロを分離・抽出して聴かせてくれたり、「I’m Only Sleeping」でテープの逆回転効果をジョージ・マーティンが実際の音を使って解説したり、「Here There And Everywhere」のコーラス・ハーモニーやコード進行の妙に焦点を当てて分析したり、「Good Day Sunshine」をその元ネタであるラヴィン・スプーンフルの「Day Dream」と聴き比べてみたりと、初心者でもマニアでも楽しめるような興味深い内容が満載だ。
 シングルを含む全16曲の中で最も時間が割かれているのはやはりというか当然というか「Tomorrow Never Knows」で、テープ・ループがスベッたとかダライラマがコロンだとかビートルズ・ファンには耳タコのエピソードが延々と語られるが、リンゴのドラミングを“まるでマシーンのような正確さでシンプルかつ効果的なグルーヴを生み出している” と大絶賛しているところにめっちゃ共感。聴けば聴くほどにこの超絶ドラミングの凄さに圧倒される。又、ジェフ・エメリックがハモンドオルガン用のレズリースピーカーを使ったドップラー効果でジョンのヴォーカルを加工したプロセスをこの曲のアウトテイクを使って解説しているところがリアリティーがあってよかった。
 多くのビートルズ・ファンにとって、「Revolver」と言われて真っ先に頭に浮かぶのは他でもないこの「Tomorrow Never Knows」だと思うが(違いますか?)、「Sgt. Pepper's」の「A Day In The Life」と同様に、この「Revolver」でも最後の最後に「Tomorrow Never Knows」でジョンが全部持って行ったなぁ... という思いを強くした。幸いなことにこの番組は以下のURLで聴くことが出来るので、興味のある方はどーぞ↓
https://archive.org/details/everythingwasrightthebeatlesrevolver/02+Everything+Was+Right+Part+II.m4a