私がまだ学生だった70~80年代は今と違って YouTube や DVD のような便利なモノは無く、テレビで “動くポール” の映像が見れるだけでもう大喜びで、「ベスト・ヒットUSA」や「MTV」といった洋楽番組を録画してはテープが擦り切れるくらい何度も何度も繰り返し見たものだった。それらのビデオテープはまだ大切に取ってあるが、日常的に楽しむとなると不便極まりないし、今更 DVD化している時間も根気もない。そこで重宝するのがポールのソロ・キャリアにおけるビデオ・クリップを集めたこの「ザ・マッカートニー・イヤーズ」という3枚組DVDだ。
ディスク1には1970年~1983年の、ディスク2には1983年~2005年のビデオ・クリップが収められており、又ディスク3には「ロック・ショウ」(旧画質で7曲)、「MTVアンプラグド」(4曲)、「グラストンベリー」(11曲)、「ライヴ・エイド」(1曲)、「スーパーボウル」(4曲)からのライヴ映像が収録されている。ディスク1と2のビデオ・クリップ集に関しては「ゲッティング・クローサー」や「スピン・イット・オン」が入ってないといった些細な不満はあるが、これだけのヒット曲をDVDで手軽に見れるというのは大きな魅力だし、通常再生以外にも時系列に沿って並べ替えた “年代順再生” や “ポールの副音声解説入り再生”(←これめっちゃ面白いです...)といったモードが選べるのも嬉しい。
ということで今回は、ポールのソロ活動を集大成したこのDVDのディスク1の中から、以前の70年代ポール特集で取り上げてない曲をセレクトしてみました。
①C Moon
この曲が入ったシングル盤を買ったのはA面の痛快無比なロックンロール「ハイ・ハイ・ハイ」が目当てで、「Cムーン」に関しては “何かほのぼのとしたノーテンキな曲やなぁ...” ぐらいの印象しかなかったのだが、何度も繰り返し聞くうちにそのレゲエチックなビートの心地良さにハマっていき、気がつけば愛聴曲の仲間入りをしていたという典型的なスルメ・チューンだ。ビデオを見て面白かったのは各メンバーの担当楽器で、ポールがピアノでデニー・レインがベースに回りリンダがタンバリンというところまでは妥当だが、何とギタリストのヘンリー・マッカロックがドラムを叩き(←変則レゲエ・ビートって結構難しいはずやのによーやるわ...)、ドラマーのデニー・サイウェルはザイロフォン(←いわゆるひとつの木琴ですね)とフリュ-ゲルホーンを演奏しているのだからビックリ(゜o゜) シンプルなメロディーの反復を主体にしながら曲が進むにつれて楽器の数が増えていくというアレンジも秀逸で、特にエコーの効いたフリュ-ゲルホーンが後半部で絶妙な味わいを醸し出している。
Paul McCartney - C Moon
②Silly Love Songs
この曲が流行っていた1976年というのは私がちょうど洋楽ロックを聴き始めた頃なのだが、初めて聴いた時はそのユニークなイントロに耳が吸い付き、 “この音は一体どーやって出してるんやろ?” と気になって気になって仕方がなかった。そんな “つかみはOK!”的イントロに続いてポールの歌心溢れるベースが躍動し、キャッチーなメロディーに乗せて “馬鹿げたラヴ・ソングのどこが悪いんだ?” というシンプルそのものの歌詞をポールが繰り返し歌うという、まさにマッカートニー・ミュージックの王道を行く名曲名演なのだ。アレンジも完璧そのもので、ウイングス・サウンドになくてはならないリンダの “夫唱婦随” コーラスはこの曲でも素晴らしい効果を上げているし、要所要所でここぞとばかりに飛来するブラス・セクションのサウンドも絶妙なアクセントになっている。とにかく “アイ・ラヴ・ユー♪” というシンプルそのものの歌詞がこれほど魅力的な響きを持って歌われた例を私は他に知らない。「ウイングス・オーヴァー・ザ・ワールド」のダイジェスト版みたいなビデオ・クリップも当時のウイングスの勢いをよく表しているし、この “馬鹿げたラヴ・ソング” こそ70年代のポールが作り上げた最高のポップ・ソングだと思う。
Paul McCartney - Silly Love Songs
③Mull Of Kintyre
この「マル・オブ・キンタイア」はちょうどパンク・ロックの嵐が吹き荒れていた1977年にイギリスでリリースされて9週連続1位を記録したスコティッシュ・ワルツ曲で、ビートルズの「シー・ラヴズ・ユー」が持っていたシングル売り上げ最多記録を破ったことでも知られる大ヒット・ナンバーだ。その後、1984年にバンド・エイドの「ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマスに」、更に1997年にはエルトン・ジョンによるダイアナ妃追悼曲「キャンドル・イン・ザ・ウインド」に抜かれはしたものの、どちらもチャリティーや追悼といった特殊な目的でリリースされた曲であることを考えれば、やはりこの曲こそがイギリスで最も愛されたヒット曲と言っても過言ではないだろう。ちょうど昭和歌謡のメロディーが日本人の心に沁みるのと同様に、コテコテのスコットランド民謡的旋律、ベタな “ご当地ソング” そのものの歌詞、そしてバグ・パイプを大きくフィーチャーしたサウンドがイギリス人の心の琴線を激しく震わせたことは間違いなく、イギリス中で “第2の国歌” と呼ばれるほど幅広い年齢層から支持され、逆にアメリカでは全くヒットしなかったのも大いに頷ける話だ。私が感銘を受けたのはシンプルながら深~い郷愁を感じさせるその歌詞で、特に “Smiles in the sunshine and tears in the rain still take me back to where my memories remain~♪” のラインなんかもう最高だ。曲良し、歌詞良し、サウンド良し... こういうのを絵に描いたような名曲と言うのだろう。尚、この曲のビデオ・クリップは実際にキンタイア岬で撮影されたヴァージョンⅠとエルスツリー・スタジオで撮影されたヴァージョンⅡの2種類が存在する。
Paul McCartney "Mull Of Kintyre" (Version I & II) 1977
④Coming Up
ポールという人はその時代の流行の音に敏感で、これまでもレゲエやディスコ、ニュー・ウエイヴと様々な音楽のエッセンスを巧く取り入れて唯一無比のマッカートニー・ミュージックへと昇華させてきたことは以前「グッドナイト・トゥナイト」の時にも書いたと思うが、1980年にリリースされたこの「カミング・アップ」も当時大流行していたテクノ・ポップ風のサウンドで、前作「バック・トゥ・ジ・エッグ」とは似ても似つかない軽めの音作りに驚かされたものだった。しかし私はこの曲が大好き(^o^)丿... ポールのソロ曲の中では確実にトップ10に入れたいぐらいの超愛聴曲なのだ。評論家連中は “ポールがテクノに擦り寄った!” とか言って大騒ぎしていたが、注目すべきは曲そのものの素晴らしさで、そこにあるのはシンセを多用してテクノ・ポップのスパイスを効かせながらもキャッチーなメロディー全開で聴く者を魅了するマッカートニー・ミュージック。あのジョン・レノンがこの曲を聴いて “ポールの奴、ホンマに良い曲を書きやがる!” と悔しがったのは有名な話だ。この曲はビデオ・クリップも文句なしに素晴らしく、ポールが一人何役も演じる面白さが味わえてファンとしては何度見ても飽きない。ビデオの出来はポール史上断トツの№1ではないか。70年代のビデオ・クリップというのは普通に演奏シーンを撮って一丁上がり的な作品がほとんどだが、多重録画を駆使するというユニークな発想で細部に至るまで見所満載に仕上がったこの「カミング・アップ」は来たるべき80年代のMTV全盛時代を先取りした名作ビデオと言えるだろう。
Paul McCartney - Coming Up
⑤Rockestra Theme
「ロケストラのテーマ」はこのDVDの正式な収録曲ではなく、ただメイン・メニューのバックにこの映像が流れているだけなのだが、個人的に大好きな曲なので気にせず紹介。ウイングスのメンバーに加え、ゼップのボンゾとジョーンジー、ザ・フーのピート・タウンゼンドとケニー・ジョーンズ、フロイドのデイヴ・ギルモアといった錚々たるメンツが一堂に会して生み出すド迫力サウンドが、単調なメロディーの繰り返しに過ぎないこの曲を聴き応え十分なものにしている。特にヒグマのような図体で圧倒的な存在感を誇るボンゾのプレイは必見だし、オールスターを指揮する “コンダクター・ポール” の雄姿もめちゃくちゃカッコイイ(^.^) 尚、この曲のコンプリート・ビデオ・クリップはポール&リンダのアンソロジー的ドキュメンタリー作品「ウイングスパン」DVDにボートラとして収録されている。
Paul McCartney - Rockestra Theme
ディスク1には1970年~1983年の、ディスク2には1983年~2005年のビデオ・クリップが収められており、又ディスク3には「ロック・ショウ」(旧画質で7曲)、「MTVアンプラグド」(4曲)、「グラストンベリー」(11曲)、「ライヴ・エイド」(1曲)、「スーパーボウル」(4曲)からのライヴ映像が収録されている。ディスク1と2のビデオ・クリップ集に関しては「ゲッティング・クローサー」や「スピン・イット・オン」が入ってないといった些細な不満はあるが、これだけのヒット曲をDVDで手軽に見れるというのは大きな魅力だし、通常再生以外にも時系列に沿って並べ替えた “年代順再生” や “ポールの副音声解説入り再生”(←これめっちゃ面白いです...)といったモードが選べるのも嬉しい。
ということで今回は、ポールのソロ活動を集大成したこのDVDのディスク1の中から、以前の70年代ポール特集で取り上げてない曲をセレクトしてみました。
①C Moon
この曲が入ったシングル盤を買ったのはA面の痛快無比なロックンロール「ハイ・ハイ・ハイ」が目当てで、「Cムーン」に関しては “何かほのぼのとしたノーテンキな曲やなぁ...” ぐらいの印象しかなかったのだが、何度も繰り返し聞くうちにそのレゲエチックなビートの心地良さにハマっていき、気がつけば愛聴曲の仲間入りをしていたという典型的なスルメ・チューンだ。ビデオを見て面白かったのは各メンバーの担当楽器で、ポールがピアノでデニー・レインがベースに回りリンダがタンバリンというところまでは妥当だが、何とギタリストのヘンリー・マッカロックがドラムを叩き(←変則レゲエ・ビートって結構難しいはずやのによーやるわ...)、ドラマーのデニー・サイウェルはザイロフォン(←いわゆるひとつの木琴ですね)とフリュ-ゲルホーンを演奏しているのだからビックリ(゜o゜) シンプルなメロディーの反復を主体にしながら曲が進むにつれて楽器の数が増えていくというアレンジも秀逸で、特にエコーの効いたフリュ-ゲルホーンが後半部で絶妙な味わいを醸し出している。
Paul McCartney - C Moon
②Silly Love Songs
この曲が流行っていた1976年というのは私がちょうど洋楽ロックを聴き始めた頃なのだが、初めて聴いた時はそのユニークなイントロに耳が吸い付き、 “この音は一体どーやって出してるんやろ?” と気になって気になって仕方がなかった。そんな “つかみはOK!”的イントロに続いてポールの歌心溢れるベースが躍動し、キャッチーなメロディーに乗せて “馬鹿げたラヴ・ソングのどこが悪いんだ?” というシンプルそのものの歌詞をポールが繰り返し歌うという、まさにマッカートニー・ミュージックの王道を行く名曲名演なのだ。アレンジも完璧そのもので、ウイングス・サウンドになくてはならないリンダの “夫唱婦随” コーラスはこの曲でも素晴らしい効果を上げているし、要所要所でここぞとばかりに飛来するブラス・セクションのサウンドも絶妙なアクセントになっている。とにかく “アイ・ラヴ・ユー♪” というシンプルそのものの歌詞がこれほど魅力的な響きを持って歌われた例を私は他に知らない。「ウイングス・オーヴァー・ザ・ワールド」のダイジェスト版みたいなビデオ・クリップも当時のウイングスの勢いをよく表しているし、この “馬鹿げたラヴ・ソング” こそ70年代のポールが作り上げた最高のポップ・ソングだと思う。
Paul McCartney - Silly Love Songs
③Mull Of Kintyre
この「マル・オブ・キンタイア」はちょうどパンク・ロックの嵐が吹き荒れていた1977年にイギリスでリリースされて9週連続1位を記録したスコティッシュ・ワルツ曲で、ビートルズの「シー・ラヴズ・ユー」が持っていたシングル売り上げ最多記録を破ったことでも知られる大ヒット・ナンバーだ。その後、1984年にバンド・エイドの「ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマスに」、更に1997年にはエルトン・ジョンによるダイアナ妃追悼曲「キャンドル・イン・ザ・ウインド」に抜かれはしたものの、どちらもチャリティーや追悼といった特殊な目的でリリースされた曲であることを考えれば、やはりこの曲こそがイギリスで最も愛されたヒット曲と言っても過言ではないだろう。ちょうど昭和歌謡のメロディーが日本人の心に沁みるのと同様に、コテコテのスコットランド民謡的旋律、ベタな “ご当地ソング” そのものの歌詞、そしてバグ・パイプを大きくフィーチャーしたサウンドがイギリス人の心の琴線を激しく震わせたことは間違いなく、イギリス中で “第2の国歌” と呼ばれるほど幅広い年齢層から支持され、逆にアメリカでは全くヒットしなかったのも大いに頷ける話だ。私が感銘を受けたのはシンプルながら深~い郷愁を感じさせるその歌詞で、特に “Smiles in the sunshine and tears in the rain still take me back to where my memories remain~♪” のラインなんかもう最高だ。曲良し、歌詞良し、サウンド良し... こういうのを絵に描いたような名曲と言うのだろう。尚、この曲のビデオ・クリップは実際にキンタイア岬で撮影されたヴァージョンⅠとエルスツリー・スタジオで撮影されたヴァージョンⅡの2種類が存在する。
Paul McCartney "Mull Of Kintyre" (Version I & II) 1977
④Coming Up
ポールという人はその時代の流行の音に敏感で、これまでもレゲエやディスコ、ニュー・ウエイヴと様々な音楽のエッセンスを巧く取り入れて唯一無比のマッカートニー・ミュージックへと昇華させてきたことは以前「グッドナイト・トゥナイト」の時にも書いたと思うが、1980年にリリースされたこの「カミング・アップ」も当時大流行していたテクノ・ポップ風のサウンドで、前作「バック・トゥ・ジ・エッグ」とは似ても似つかない軽めの音作りに驚かされたものだった。しかし私はこの曲が大好き(^o^)丿... ポールのソロ曲の中では確実にトップ10に入れたいぐらいの超愛聴曲なのだ。評論家連中は “ポールがテクノに擦り寄った!” とか言って大騒ぎしていたが、注目すべきは曲そのものの素晴らしさで、そこにあるのはシンセを多用してテクノ・ポップのスパイスを効かせながらもキャッチーなメロディー全開で聴く者を魅了するマッカートニー・ミュージック。あのジョン・レノンがこの曲を聴いて “ポールの奴、ホンマに良い曲を書きやがる!” と悔しがったのは有名な話だ。この曲はビデオ・クリップも文句なしに素晴らしく、ポールが一人何役も演じる面白さが味わえてファンとしては何度見ても飽きない。ビデオの出来はポール史上断トツの№1ではないか。70年代のビデオ・クリップというのは普通に演奏シーンを撮って一丁上がり的な作品がほとんどだが、多重録画を駆使するというユニークな発想で細部に至るまで見所満載に仕上がったこの「カミング・アップ」は来たるべき80年代のMTV全盛時代を先取りした名作ビデオと言えるだろう。
Paul McCartney - Coming Up
⑤Rockestra Theme
「ロケストラのテーマ」はこのDVDの正式な収録曲ではなく、ただメイン・メニューのバックにこの映像が流れているだけなのだが、個人的に大好きな曲なので気にせず紹介。ウイングスのメンバーに加え、ゼップのボンゾとジョーンジー、ザ・フーのピート・タウンゼンドとケニー・ジョーンズ、フロイドのデイヴ・ギルモアといった錚々たるメンツが一堂に会して生み出すド迫力サウンドが、単調なメロディーの繰り返しに過ぎないこの曲を聴き応え十分なものにしている。特にヒグマのような図体で圧倒的な存在感を誇るボンゾのプレイは必見だし、オールスターを指揮する “コンダクター・ポール” の雄姿もめちゃくちゃカッコイイ(^.^) 尚、この曲のコンプリート・ビデオ・クリップはポール&リンダのアンソロジー的ドキュメンタリー作品「ウイングスパン」DVDにボートラとして収録されている。
Paul McCartney - Rockestra Theme