shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

グッドナイト・トゥナイト & ゲッティング・クローサー / ポール・マッカートニー

2013-06-05 | Paul McCartney
 70年代ポールのシングル盤特集、今日はもっと評価されて然るべき2曲「グッドナイト・トゥナイト」と「ゲッティング・クローサー」です。

①Goodnight Tonight
 1970年代後半のアメリカはディスコ・ブームに浮かれており、この「グッドナイト・トゥナイト」が出た時は “ポールがついにディスコに手を染めた!” と大騒ぎになったものだったし、私も初めて聴いた時は “ポールが何で?” と思わざるを得なかった。しかし何度も聴くうちに有象無象のディスコ・ミュージックとは激しく一線を画す “曲のコアの部分” がハッキリと見えてきたのだ。
 つまり確かにディスコのリズムを巧く使ってはいるが、それはあくまでも表面的なものに過ぎず、根っこにあるのはまごうことなきマッカートニー・ミュージックだということ。ちょうどこのシングル盤に続くアルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」でパンク/ニュー・ウエイヴの、続く「マッカートニーII」でテクノのエッセンスを巧く取り入れたように、この曲でも時代の音に敏感なポールがディスコのリズムを借用してこの曲にメリハリをつけた、と考えるのが妥当だろう。
 ポールが凄いのはディスコであれ、パンク/ニュー・ウエイヴであれ、テクノであれ、その音楽をただ真似るのではなく、そのエッセンスをしっかりと吸収・消化し、自分のフィルターを通して再構築してポールにしか創れない音楽へと昇華させてしまうところだろう。ちょうど前年にストーンズがディスコ・ミュージックをストーンズ流に解釈して作り上げた「ミス・ユー」にも同じことが言えると思うのだが、やっぱり超一流と呼ばれる人達は違いますな(^.^)
 話を「グッドナイト・トゥナイト」に戻そう。この曲のサビメロは非常に単調なので、ポールはダンサブルなリズムや大胆な器楽アレンジによって曲に変化を付けている。特に要所要所で炸裂するフラメンコ・ギターは絶妙なスパイスとして効いているし、弾むように躍動するポールのベース・ラインもこの曲の名曲名演度アップに拍車をかけている。それ以外にもアレンジ面で様々なアイデアが詰め込まれており、聴き込めば聴き込むほど新しい発見がある楽しい作品に仕上がっているのだ。
 「グッドナイト・トゥナイト」は通常の7インチ盤だけでなく12インチ・シングルも発売され、そちらの方には7インチ・ヴァージョンよりも3分長いロング・ヴァージョンが収められていたのだが、コレがけっこうクセ者で7インチ・ヴァージョンにはなかった “Don't get too cold for love, don't pass it by, don't grow too old for love, it's a feeling that may never die~♪” という “幻の歌詞” が聴けるのだから要チェック。さすがはポール、ただ単に演奏部分を無意味に引き延ばしただけの冗長なロング・ヴァージョンとはワケが違うのだ。私はこの12インチ・ヴァージョンばかり聴いていたので、4分少々の通常ヴァージョンでは何かもの足りなく感じてしまう。
 この曲はビデオ・クリップも面白い。ウイングスのメンバーが1930年代風のコスチュームに身を包んでこのダンサブルな曲を演奏しているビデオなのだが、デニー・レインとローレンス・ジューバーのギター・ソロの掛け合いのシーンや間奏でメンバーが楽しそうにパーカッションを乱打しまくるシーンなど見所満載なのだが、私はデニー・レインのクルッと巻いた前髪が気になって気になってポールよりもそちらに目が行ってしまう。困ったものだ(笑)
Paul McCartney & Wings Goodnight Tonight (extended version) 1979


②Getting Closer
 ローレンス・ジューバーとスティーヴ・ホリーの加入によって再びライヴ可能なバンドとなったウイングスを率い、シングル「グッドナイト・トゥナイト」でディスコ・ビートを導入するなど創作意欲全開で80年代を目指したポールが自信を持って作り上げたアルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ」からの第1弾シングルがこの「ゲッティング・クローサー」だ。
 私は「ヴィーナス・アンド・マース」からリアルタイムでポールを聴き始めた “遅れてきたビートルズ・ファン” で、それ以降の「スピード・オブ・サウンド」も「ロンドン・タウン」も盤が擦り切れるほど聴いた愛聴盤だったが、 “ロックなポール” が何よりも好きな私にとって、この「ゲッティング・クローサー」が初めてラジオから流れてきた時の衝撃は筆舌に尽くし難いモノがあり、干天の慈雨というか、ネコにカツオ節というか、まさにキタ━━━(゜∀゜)━━━!!! という感じだった。
 イントロなしでいきなりジャーン!で始まるインパクト抜群のオープニングは「ハード・デイズ・ナイト」以来ビートルズの専売特許となった感があるし、ポールの気合い十分のヴォーカルとカッチリまとまったタイトなバンド・サウンドが一体となって疾走する様は痛快無比のカッコ良さ(≧▽≦)  特に終盤の盛り上がりようは圧巻で、 “ロックなポール” の絶好調ぶりを満天下に知らしめる名演だ。
 ということで、音楽を前へ前へと押し進めていくようなドライヴ感溢れるポールお得意のキャッチーなロックンロールに私は完全KOされたのだが、全米チャートではあろうことか最高20位と信じられないくらいの惨敗で、当時まだ高校生だった私はまったくワケが分からず、 “何でこんなエエ曲が20位止まりやねん???” と納得がいかなかった。確かにこの曲は何の仕掛けも無いストレートなロックンロールで、「ヴィーナス・アンド・マース」や「スピード・オブ・サウンド」のようにアメリカン・マーケットを狙ったサウンドではなかったものの、これだけノリの良いロックンロールならトップ3入りは確実と思っていただけにガッカリしたが、きっと当のポール本人も思いは同じだったろう。今にして思えば、私の音楽人生で初めて全米チャートに不信感を抱いたのがこのシングル不発事件(?)だった。
 それと、この曲のプロモ・ビデオ監督は上記の「グッドナイト・トゥナイト」や「カミング・アップ」といった名作を撮ったキース・マクミランなので悪かろうはずはないのだが、この PV に関してはやや凡庸で、インパクトに欠けるというか、イマイチ創意工夫が足りないように思う。演奏シーンのカメラ・ワークは単調で芸がないし、トラックを運転するシーンも何なん、コレ?という感じ。そのせいかどうかは知らないが、曲が圧倒的に素晴らしいにもかかわらずポールのソロ・キャリアを総括した「アンソロジー」DVDに収録されていない。まぁ「ロケストラ・セッション」のコンプリート映像などと併せて「バック・トゥ・ジ・エッグ」単独の作品としてDVDリリースしてくれれば問題ないのだが... あっ、それともアーカイヴ・コレクションのスーパー・ウルトラ・デラックス・エディション(笑)にでも入れるつもりかな?
Paul McCartney - Getting Closer (1979)
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