
今度のNHKの連続小説は「虎と翼」この冒頭のタイトルバックがすごい。シシヤマザキさんというアニメーション作家の作品である。歌も流れるのだが、米津玄師さんが作詞作曲で歌う「さよーならまたいつか!」もわるくない。以前のこの人の作ったパプリカは良かった。合せて踊ったものだが、こんどの歌もまたいい。
シシヤマザキさんは芸大のアニメーション科を卒業した人と言うことだ。芸大にそういう科ができていたと言うことすら知らなかった。34歳だという。この作品は主に水彩画を使いながら、動画としての新しい表現の映像だ。この新鮮さが素晴らしい。ともかく度肝を抜かれた。
アニメーションが、絵画を越えている時代と言うことを思い知った。途中に出てくる墨絵もいい。目の表現の変化がまた良い。様々な手法で描く目。眼で見るという意味が、目を見ると言うことで、表わされている。目を描いていて、いつの間にか目が見ている世界が広がって行く。
水彩の多様な表現が使われる。その処理がまたすばらしい。水彩の意味を水彩画以上に旨く表現している。もしかしたら本当の水彩を使わないのかも知れない。水彩のように見える、パソコン上の表現があるのかも知れない。デジタルで水彩画的な表現が出来るのかも知れない。
まあ水彩で紙に描いて、パソコンに取り込んだ方がやりやすそうだ。しかし、これは昔の水彩画をかく人間の考えかもしれない。方法が違うからあのようなアニメーションが生まれたと考えた方が良いのだろう。と思うが、セル画画が存在するのか。セルでは水彩は描きにくいので、やはり紙か。
斬新であり、時代の精神が表現されている。次の世界の表現が模索されている。実に軽やかに時代を超えている。芸術表現というものは、こうしてあるときに時代を超えているという事が分る。この飛躍は決定的なもので、次の時代の希望を感じさせるところが嬉しい。次の時代は結構古ぼけている。
一見デザイン的な表現だ。つまり動画は説明的要素が強くなるものらしい。起承転結の要素が必要になり、物語化する。アニメの中でマチスと横尾忠則が合併している。アールヌーボー的な物もあるかと思えば、モネの印象派的な光まである。それが、映像として総合されて動いて行く。
ある意味旧来の表現の真似で出来ているのだが、動画と言う形で利用することで創造に見える。装飾的な表現が、動画であるからこそ際立つ。ある意味当然なことなのだ。表現法に特別なことは無い。その組み合わせをアニメーション化出来たことがすごいのだろう。
ざんねんな所が一点ある。最後に現実映像に戻るところがしらけている。芸術作品には種明かしなどいらないものだ。世間を少し甘く見たのかも知れない。世間は露骨なものしか見ないと考えているかも知れない。やはりテレビのため少しよそ行きだったか。
テレビに遠慮の気持ちがあるのかも知れない。タイトルバックという制約から必要なものを考えたかも知れない。この辺の常識的なところが、この人がテレビで使われた理由なのかも知れない。説明をしなければ理解できない人を対象にしない方が良い。
これほどの才能の人であれば、観客を意識する必要など全く無い。最後に種明かしが無くても、それまでの画面で充分に伝わってくる世界観がある。肝心なことは、ここに確かな映像による世界観の、思想の、哲学の、表現があると言うことで良い。
日本のアニメはレベルが高いと言われてきたが、あくまで描写映像の範囲で、次の時代の映像美までは実現できていないとおもっていた。甘く見ていたことが恥ずかしい。シシヤマザキ氏はジブリアニメの領域では無いのだ。ジブリは最初のアニメション映画と言われた「白蛇伝」を越えては居ない。
それはアカデミー賞を受賞した宮﨑駿監督の「君たちはどう生きるか」でも映像表現としては物足りない。「君たちはどう生きるのか」で唄うのは米津玄師の「地球儀」米津氏はアニメーションに適合する世界観があるのかも知れない。そういえば、ジブリの「いつも何度でも」はよく歌った。
どうだろうか、この2作品を比べて見ると、映像としてはシシヤマザキ氏の作品がはるかに優れていることが分る。宮崎駿はまだまだ過去の古くさい映画の世界の描写を引きずっているままで、映像としては芸術的表現までは行けない。時代を切り開いていない。古い説明に満ちている。
それは映画という入場料を払う観客のレベルを反映しているのではないか。あくまで興行収入を意識している理解の範囲の映像なのだ。所が、シシヤマザキ氏の作品はNHKテレビであることが幸いしたのではないだろうか。却って自由に飛躍出来たのでは無いだろうか。
シシヤマザキ氏のプロフィールによると、何と毎年陶芸作品の個展をしているという。何でもやるし、できる人のようだ。多才で好奇心の強い人と思われる。若い絵画の作家達が、ひどく技巧的になっている気がしていたのだが、こういう人も居たのだ。
この人のやっているお絵かき教室というものがある。ズーム教室のようだ。月二回で2000円らしい。現在生徒は85名と出ている。こういう姿勢がおもしろい。新しい時代の思想家なのだろう。久しぶりで作品を見せて貰って元気が出てきた。実に嬉しい。まだまだこれから新しい世界を見せてくれる人に違いない。
このお絵かき教室の目標は、「視野を広げ、思想を深める」というのだからすごい。絵を描く以前の問題に踏み込んでいる。その通りなのだ。芸術は人間に踏み込まなければならない。あなたのお絵かきがつまらないのは、あなたがつまらないからです。と言うことになる。
この人の才能は半端ではない。次の時代の人にちがいない。間違いなく、次の芸術を生み出す人と考えて良いだろう。あえて言わせて貰えば、もっとダメでもいいじゃん。だめなままの人間が出てきた方が、さらにおもしろい。人間そんなきれい事では無い。
私だってズーム教室をしてみたいが、古くさくてだめだ。到底及ばない。私が考えるお絵かき教室だ。「すばらしい人間になる為の絵の描き方。」しかし、その教室は素晴らしくない私ではやはり開催できないだろう。あのアニメーションあっての、シシヤマザキさんである。
毎朝あのアニメーションがしばらく見ることが出来る。きっと一〇〇回ぐらい見れば、あのアニメーションが見えてくるはずだ。そうかユーチューブの映像でスロー再生にしてみるという手があった。展開が早すぎて、ついて行けないというのが、私の感覚の早さだ。若い人にはきっとあの速度が良いのだろう。