蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

万事快調

2024年06月11日 | 本の感想
万事快調(波木銅 文藝春秋)

茨城県北部の工業高校に通う朴秀実は、ラッパーに憧れて地元のサイファーに参加する。父は暴力をふるい、弟は不登校だ。
同じ高校の矢口美流紅は、実習中に小指の切断につながる怪我をして陸上部を辞める。シングルマザーは精神にダメージを受けて寝たきりに近い。
やはり同級生の岩隈真子は図書室の常連だ。
そんな3人は校舎の屋上に放置された元園芸部のビニールハウスで、秀実が手に入れたタネから大麻を栽培しようとする・・・という話。

秀実が読んでいるのは「侍女の物語」で、弟から推薦図書を尋ねられると古今東西のSFの名作をすらすらと並べる。
矢口は評論家並に映画に通じていて、将来は監督になりたいと思っている。
3人が通っているのは田舎の底辺校という設定なのに、超一流進学校の生徒並にハイブラウなのが(リアリティはないけど)妙にかっこいい。

人を殺したかもしれない、という場面に遭遇しても罪悪感や後悔はゼロで、大麻の栽培がバレたらどうしよう?なんてこともあまり気にしない。
それはハイブラウで、同級生たちより遥かに先んじて様々な形で世間を味わった彼女たちが、眼前の現実に絶望しきっていて、これ以上悪くなりようがない、と悟っているから、のように思えた。

地名とか企業名とか作品名などの殆どが実在で、高校生が喜々として大麻を栽培する(ちょっとノウハウめいた記述もある)なんて、大手出版社が出していいのか?とちょっと心配になったが、文学賞も受賞しているそうで、いやさばけたもんなんだね、昨今は。

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