蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

長いお別れ

2018年04月30日 | 本の感想
長いお別れ(中島京子 集英社)

元中学校の校長先生だった東昇平は、アルツハイマー型認知症と診断され、アリセプトを服用するが、症状は次第に悪化する。妻の曜子は自宅介護を続けるが自身も網膜剥離を発症し入院を余儀なくされる。昇平と曜子には3人の子供(いずれも女性)がいるが、長女は夫の仕事の都合で長年アメリカに滞在し、三女はフードコーディネーターとして多忙、唯一専業主婦で近所に住む次女を頼りにするが、その次女が高齢で妊娠してしまい・・・という筋の連作集。

暗く、シリアスに、かつリアリティをもって描写するのは、かえって簡単かと思われる介護問題を(その深刻さを感じさせる点については損なうことなく)かすかなユーモアを感じさせながら描いていく著者の力量に感心した。

かすかな、というより読んでいて笑ってしまうほどだったのは「フレンズ」で、昇平が認知症であることを知らない(昇平の)同級生たちの様子や、(昇平の)三女に見合いの心得を説く(昇平の)同級生の浮世離れした言い草がなんとも滑稽だった。

本書の最終盤、アメリカで長年暮す長女の息子(高校生?)が、悪さをして校長室に呼ばれ、校長に「何か話してみて」と言われる場面もとても良い。読者の意表を突く構成のクロージングがとても見事だった。

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