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偏愛と放浪の記録

「スパイのためのハンドブック」(著:ウォルフガング・ロッツ/訳:朝河 伸英)

2014-08-20 21:25:53 | 【日常】些事雑感
 タイトルが面白かったので。世の中にありそうで実はあんまりお目にかからない「How to スパイ」な本である。著者が在籍したのが、CIAやKGBと並び称されるほどのイスラエル情報機関モサドだというのも、ありそうであんまりないような気がする。元CIA局員の回想録みたいなのは見かけるけど。
 著者はユダヤ人を母に持つドイツ生まれ。ナチが力を持ち始めたころパレスチナに移住、イスラエル建国後にイスラエル軍に志願して、その後モサドにスカウトされてエジプトにて職務を遂行していたらしい。エースといえる凄腕部員だったそうで、「シャンペン・スパイ」とも呼ばれ、この本でもその由来に少し触れられている。また、その名もまさしく「シャンペン・スパイ」という回顧録も出版されている。

 ……でこの本だが、How toものらしくまずは10の設問によるスパイ能力テストに始まり、その設問の意味をひとつひとつ解説してくれる。そして実際のスカウトのされ方、尾行のトレーニング、経歴偽装のコツ、異性との関わり合いなどなどのレクチャーが続く。スパイ同士が会見するときの手口はよくスパイ小説でもお目にかかるシーンそのものである。
 また、通常の(?)スパイ活動だけでなく、著者自身の経験もあって「拘置所、刑務所、懲治監」といった場所でどのようにして生き延びるか、といったような話もある。さらには引退後の生活についてまで……というのは要するに、もらうものは引退してからよりも活動している今こそ胸を張って要求し、もらっておかないと後悔する、という話だったりもするのだが(笑)。

 特殊な職業であることだけは間違いないわけだが、全体的に語り口も軽妙であり、緊迫するミッションの話などはほぼないので、「お仕事紹介」として気軽に読めてしまう。1982年の本なので多少、現代のスパイのあり方と違ってきているところもあるだろうが(というか「スパイ」という言葉自体が死語に近くなってきている雰囲気もあるが)、「向き不向き」みたいな普遍的な話が中心なのでさほど違和感なく、ちょっとしたトリビア感を覚えつつ楽しめる本でもある。


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