life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「ソウル・コレクター(上)(下)」(著:ジェフリー・ディーヴァー/訳:池田 真紀子)

2019-04-19 22:23:16 | 【書物】1点集中型
 途切れ途切れにのんびり読んでいるライムシリーズ、今回が8作目。強姦殺人事件の容疑者がライムの従兄だった、というところから今回はライムの家族の話がいろいろと。証拠は大切だけど、証拠が本当に本物の証拠かどうかは、実はわからない。何から何まで個人の行動が筒抜けになる可能性を否定できないこのご時世、本当にこんな事件が起きないとも思えないといううそ寒さを終始感じながら読み進めることになる。スコットランドヤードとの連携もちょっと面白いし、従兄アーサーとの単なる親愛だけの感情じゃない関係が事件解決後、どんなふうになるのかも気にしつつ。

 下巻は下巻で、情報を文字通りすべて握られることの不気味さがさらに増し、広がっていく展開が待っていた。ローランド・ベルの登場が個人的には嬉しい。しかしこの人の見事な変身ぶりすら躱した上に、ライム陣営の手足を次々ともぎとっていく「すべてを知る男」。ライムの言う通りまさに「戦争」が始まり、いよいよもってディーヴァー印のジェットコースターが加速する。
 データマイニング会社〈SSD〉が保持するアメリアの「3Eコンプライアンス」ファイルの目次が実に20ページ以上にわたって開示されたところが、この物語の山場の一つだろう。1人の人間にはこれだけの情報が紐づいていて、しかもそれが現実として収集可能であるのだということが、まさに眼前に突き付けられる。かと言って、本当にこうした情報をここまで緻密に、文字通りの意味で漏れなく把握し、揃いすぎるほどに揃えて完全犯罪に活用できる人間が現実にいるかどうかはまた別の話ではあるのだろうが。
 実際、犯人に強迫性障害の兆候があるということもあった。絶体絶命の窮地に追い込まれたアメリアが、犯人のその特性を反撃のチャンスに変える一瞬は、絶対に無事に脱出できるとわかっていても例によって手に汗を握る思いである。どこに突破口を見出すのかがぎりぎりまで見えないだけに。それが見えてしまえば、なるほどあれはその伏線だったんだな、と今さら気づくわけで(笑)。

 そして物語のもう一つの軸である、ライムと従兄アーサーの関係がまた、最後に静かなるどんでん返しである。あのまま終わったら、それはそれで気持ちはわかるし納得できないわけでもないけどちょっと残念でもあるかなと思ったので、これはこれでちょっとほっとしたな。
 そういえば今作、トムの「長年の」パートナーの名前が出てきたのでほっと反応してしまった。どんな人なのか俄然興味をかき立てられてしまったよ(笑)。結局トムは未だに謎だらけなので、今後ちょっとずつでも語られていくのを楽しみにしたいところである。