life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「ルミッキ2 雪のように白く」(著:サラ・シムッカ/訳:古市 真由美)

2016-02-25 20:27:19 | 【書物】1点集中型
 「血のように赤く」に続く、クールでタフな、高校生離れしたフィンランドの少女ルミッキの冒険物語シリーズ2作目。
 前作では、同級生の起こした事件に巻き込まれて闇社会に足を踏み入れ、死線を潜り抜けることになった。今回は、一人旅に出たプラハで腹違いの姉と名乗る女性、ゼレンカに出会う。ルミッキが訪れたゼレンカの家では、彼女は実の母を亡くしてから新しく家族となった人々と一緒に暮らしていた。その〈家族〉を率いる男には実はある秘密があった。その秘密を追っているジャーナリスト、イジーと知己となった一方で、自分が誰かに監視されていることに気づくルミッキ。イジーと協力し合い、謎に迫り、窮地に陥った姉ゼレンカを救うために奔走するが……

 ストーリーは前作の如く、「暗殺者と追いかけっこ」「敵のアジトに乗り込んで命からがら脱出する」というパターン。話の内容としてはわりとわかりやすい展開で、意外性はそんなにない。しかしフィンランドといいプラハといい、舞台が美しい場所ばかりなのはいいなぁと思う。それにしても追いかけっこのシーンが長いなぁ(笑)
 今回は、ルミッキという人物を血縁として、あるいは情の面で特に近しく取り巻く人々のエピソードの開陳が多い。関係が薄い両親、会ったばかりのゼレンカ、さらに失った恋人であるリエッキのこと。ルミッキが巻き込まれる事件の裏で、それぞれの人々について、ルミッキを中心とした「過去」を描き出しているようだ。なので、シリーズ全体に関わる背景の造形に比重を置いた内容になっているようには感じる。
 とはいえ、次作のためになのか、前作から話に出ている秘密の中身はひとつも明らかになっていないので、なんとなく中だるみというか、「1回休み」な感じ。3作目で全部繋がっちゃったりするのかなー。一応、最後まで読んでみることにする。

「空襲警報」(著:コニー・ウィリス/訳:大森 望)

2016-02-21 15:42:28 | 【書物】1点集中型
 いよいよ初めて手を出したウィリスのシリアス作品。とはいえ、コメディ要素がほとんどないというだけで、タッチのやわらかさというか、読みやすさはさすが。

 田舎の家族の日常の姿が、ある1通の手紙の登場によって終末ものSFに一変するのが「クリアリー家からの手紙」。そうかこうやって見せるのか、とテクニックに唸らされる。手法としては「最後のウィネベーゴ」も近い。こっちは前者より長めの作品ということと、動物にもフィーチャーしていることもあって、叙情的な描写が印象深い。
 (まだ「犬は勘定に入れません」しか読めてないけど)オックスフォード大学史学部ものの開幕編に位置づけられる表題作はこのシリーズらしい冒険に満ちていて、嫌味にならない程度の恋愛要素が混じっているのが、戦時中の空気をリアルにもする。そして、ラストシーンの主人公のモノローグからは、イギリスという国の歴史に対するウィリスの愛情がひしひしと伝わる。
 イギリスへの愛情という意味では、「マーブル・アーチの風」に描かれるロンドン地下鉄もそうだ。路線図と地理情報が頭に入っていたら、より生き生きと楽しめるだろう。街の経た年月をのせて吹きつける「風」を思い描きつつ。とか言ってみたりして。
 「ナイルに死す」は、ホラーのようなファンタジーのようなミステリーのような……何が現実なのか、結局どこへ辿り着いたのかわからなくなる。のあとがきにある「ほんとうに怖いのは、正体不明のなにかだ。」という一言にはすごく共感した。

 巻末「付録」になっているスピーチ原稿を読んでいると、ウィリスという人はとても愛情にあふれた人で、SFが本当に大好きで、歴史を大切にしているのだなということがよくわかる。こんなにいろいろ作家名や作品名を出されたら、読んでないもの早く全部読まなきゃって気になってしまう(笑)。大森氏の訳文にも多分に遊び心があって、ウィリスと相性がいいということもあるだろうけど。
 次はやっぱり(今さらながら)「ドゥームズデイ・ブック」から史学部シリーズ読破をめざそうと思う。ゆっくりと(笑)

「星新一 ショートショート1001(3)1974-1997」(著:星 新一)

2016-02-07 22:22:39 | 【書物】1点集中型
 3冊組の3冊目、全1582ページをやっと読了。前2集同様、読み始めてから読み終えるまでに1か月以上かかってしまった。なんかもう意地になって読んでたような気がする(笑)。巻末には作品リストと年譜が収録されていて、年譜は途中までは星氏自身の手になるもの。ときどき主観的なコメントが入っていて面白い。

 「重なった情景」は、作中の「目に見えるもの、かならずしも実在とは言えなくなる」ということが、最終的に夢と現実が入れ替わってしまうことによって具体的な事象として描かれている。それがリアルさを感じさせ、さらに読後感のうそ寒さになる。「あの男この病気」の壮大な鬼ごっことかくれんぼと、その勝利者への報酬は……という流れは、なんとなくロバート・シェクリイ「危険の報酬」を思い出す雰囲気。「知人たち」は星氏らしい逆転の発想のような観点がストーリーの肝。「ほとんどの人が知人」で「やさしくしてくれ、親しくしてくれる」のに、自分はその人たちのことを「なにひとつ知らない」。人間として存在していることは認められていても、社会の中での存在は誰にも認められないという孤独さ。一見悲壮ではないのによく考えると非常に心もとなく不安定だと知らしめる締めの言葉がいかにも星作品。
 後半では「青年とお城」が印象に残っている。人の生死が形を変えて果てしなくループする中に優しさが感じられる結末で、けっこう気に入っている。掉尾を飾る「つねならぬ話」の一連の作品は連作集仕立てのような感じになっていて、星新一的神話集だったり、中世故事だったり、「世にも奇妙な物語」(それが星作品のカラーそのものだが)だったり。
 そして最後に出てくる文庫未収録の作品の、ちょっと毒のあるSFな感じがいいなと思った。ある意味、初期の作品の方が雰囲気が大人向けっぽい気がする。「収穫」の結末が暗示するもの、「解放の時代」のナンセンスさとそれが表すもの、このあたりが秀逸すぎる。

 何せ1,000を超える作品群なので、読み終わって忘れてしまう作品も多い。でも、この上質で膨大な数の作品たちから気の向くままにひょいと抜き出して読むのを楽しむという行為は、とても贅沢な娯楽になり得ると思う。私は紙の本派だけど、星作品は電子書籍の方がより自由に満喫できるかもしれない。ランダムに読ませてくれる機能がついてたりとかしたら、もっといいな。って、それは電子書籍リーダー側の話だけど。