life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「2061年宇宙の旅」(著:アーサー・C・クラーク/訳:山高 昭)

2011-12-30 22:11:27 | 【書物】1点集中型
 ベタだけど「2001年~」で巨匠クラークにハマり、何冊かの著書を読んではいるものの、肝心のodysseyシリーズ第2作「2010年~」を読んでからだいぶ経ってしまった。おかげで、前作で何があったかすっかり忘れてしまっていたのだけれども(笑)
 読み進めつつ、ああそういえば木星が……と思い出しつつ、今度はハレー彗星。忙しいウッディ。そして、前作でチェン号に起きた事件の種明かしの要素もある。おぼろげながらではあるが、エウロパの実態も見せてもらえる。

 しかし、ウッディまでもがスター・チャイルドになってしまうという点にはちょっと驚いた。しかもボーマンのときとは違う形で。ちゃんと肉体を持っているウッディと、ボーマンやハルと同様(あるいは同等)の存在になったウッディと。このへんはそのまんま受け取れば良いのか、次回作で謎解きがあるのか?
 あと、結局ローズは何者だったのかとか、背後関係とか、含みがまだまだあって、そういう意味では今作は次への繋ぎ的な意味合いも大きくなってるのかなとも思える。結果的に。とりあえず、目覚めたモノリスが今度は何を起こすのかを見届けるためには、物語を「3001年~」まで追っかけるしかないので、読みますよ。当然。

 ところで、現実世界は既に2010年も過ぎてしまった。果たして2061年が来るそのとき、odysseyシリーズで描かれた宇宙に、人類はどこまで近づくことができているのだろうかと、やっぱり思う。

「蛇衆」(著:矢野 隆)

2011-12-23 10:52:23 | 【日常】些事雑感
 久々の時代物。文庫化の広告(だったと思う)を見てちょっと読んでみた。アクションつき時代劇という感じ。夢枕作品並みにほぼ1段落1文なので、読み進むのがすごく早い(笑)。

 読後感としては、最後の嘉近の種明かしには「ああ、なるほど」と思ったけど、総じて個人的には可もなく不可もなく。ストーリー展開はともかくとして、全体的に描写が相当あっさりしているので、物足りなさは残った。人物もそれなりに魅力的なのだが、思わず感情移入するようなところまではいかないというか。変な言い方かもしれないけど、内容は暗いけど作品の雰囲気はライトノベルっぽいなーという感じはした。
 とは言っても、私自身はこれまで時代物といったら司馬遼太郎や山岡壮八とかの、いかにもどっしりした作品しか読んでいないので、そういうところから来る違和感なのかもしれない。でも、そういう大御所作品を思い浮かべてみると、深みは違うよなぁと思ってしまうのは事実。そこはやっぱり人物の描き方から来るのかなぁと思う。

 ただ、キャラクター自体はそれぞれ個性を持っているし、蛇衆がここに至る前の話があったらそういうのもいろいろ出てきそうな気はするし、戦闘シーンも派手に作れそうだからアニメに向いてそう。←だからライトノベルなの? というツッコミもありそうだが。(笑)

「行かずに死ねるか! 世界9万5000km自転車ひとり旅」(著:石田 ゆうすけ)

2011-12-15 22:26:11 | 【書物】1点集中型
 石田氏の本が気になったのは「台湾自転車気儘旅」からで、でも実はこれは持ってない。写真見てるだけでも楽しいので、いつか買おうと思ってるんだけど。あとは「洗面器でヤギごはん」とか「いちばん危険なトイレといちばんの星空」か。これももちろんまだ読んでないんだけど(笑)タイトルがわけわかんなくて気になっていた。

 さて話はこの本に戻るが、サラリーマン辞めて旅に出た、というところまでは宮田珠己氏と同じ。しかし石田氏の場合は脱力系ではなく、けっこう、いや相当熱い。下手すると一瞬引くくらいに。個人的な好みだけで言うと、文体はちょっと韜晦気味というか支離滅裂のようなタマキングの方が安心して読んでいられるのだが、石田氏の熱さは読んでいて気を抜けない。でも、その熱さでこの自転車ひとり旅を押し切ってしまえることには、素直に羨望を禁じえない。
 もちろん、熱さだけじゃなくてマンネリを感じたりとかもあるんだけど。ただ最後は、「実際そこに行って己の目で見ない限り、それは自分にとって永遠の“未知”なのだ。」――この一言に尽きる。

 そこかしこで何度も行き交う出会うチャリダーたち、物静かに一夜の宿を提供してくれる土地の人々。夏のオーロラ。カヌーの旅。そんな心温まる話が盛りだくさんかと思えば、砂漠の強盗という冗談抜きの生命の危機。そしてセイジさん……。
 石田氏の旅をほんの少しだけ追体験させてもらった今、すべてのチャリダーたちに敬意とエールを贈りたい。そして、すべての旅人たちが無事に、待つ人々のもとへ戻れることを願ってやまない。

「破線のマリス」(著:野沢 尚)

2011-12-06 23:56:11 | 【書物】1点集中型
 97年の江戸川乱歩賞受賞作。相当今さら知ったのだけれども(笑)「川の深さは」と争ったのがこれだったのか。「川の深さは」も今でもちらちら読み返したりするけど、どっちもエンタテインメントとしてとても楽しめた。

 舞台はテレビ番組制作の世界から始まる。まず、こんなふうに報道の映像は作られていくんだなぁ、と単純に思ったのがひとつ。これをそのまま日々、自分が見ている報道の映像に当てはめて考えると、そりゃあ製作現場は戦場になるだろうと。

 そして物語の主人公は、凄腕の番組編集者である瑤子。彼女へ情報(映像)提供をした郵政省キャリアが、実は実在しない人物だった――というネタ振り自体は正直、良くあるパターンだと感じたんだけれども、「それがどうした」と嘲笑わんばかりにここから話がどんどん深みにはまっていく。瑤子が、自分の映像に自信を持って仕事しているからこそ落ち込んだ陥穽。
 麻生に接近して、隠し撮りして……の過程はサイコサスペンスの趣き。鬼気迫るというか、狂気を孕んだ異様な雰囲気と臨場感。目を血走らせた瑤子の昏い顔が見えるような、迫力ある筆致に引き込まれた。

 最終的には誰が麻生を陥れたのかはわからないままで、その先は瑤子の仕事を最も近くで見つめてきた赤坂の手に残された。瑤子にとってはそれが良かったのかもしれない――いつか、淳也の撮った自分の映像を見たときのように、客観的事実だけを目にするということが。
 とはいえ、それも赤坂の主観的事実に化する可能性ももちろんある。ただ、瑤子の仕事を引き継ぐ者として、瑤子と同じ失敗を繰り返さないことも、映像製作者としての赤坂の使命になるのかもしれない。

 映像に主観的真実を宿すこと。その本当の意味を自らの身をもって知ったことになる瑤子には、レンズの向こうからひたすらに自分を見つめる淳也の存在を、その愛を感じられるということが、最後の救いになったのだろう。
 瑤子が最後に視聴者に語りかけた、「信じないでください」という言葉。それはまさに、海のものとも山のものともつかぬ情報の海に溺れかかっている今この時代に生きている者に向けられた言葉だと思う。

「宇宙消失」(著:グレッグ・イーガン/訳:山岸 真)

2011-12-04 23:03:21 | 【書物】1点集中型
 久しぶりにイーガンの長編。自分自身、ちょっと理解してきたような気がするようで、実は全然そうでもない量子力学がベースのひとつになっている物語。

 量子力学から生まれる話については、並行世界の存在がキーになってくると思っていたけど、この作品の場合は(解説にもあったけど)今、自分がいる世界とは別に、並行世界が存在するという考え方ではなく、さまざまな可能性世界から1つを選び取った=波動関数を収縮させた結果が今、自分がいる世界である、という逆転の発想が最終的なキーになる。
 つまり、単一の結果の世界を生きるということは、「可能性世界の自分たちを虐殺すること」なのである。言いえて妙。
 しかし、「拡散」で宇宙の多様性を回復させること――劉曰く「ありとあらゆること」があり「なにも失われなくなる」世界を生きることと、「収縮」によって固有状態の世界を生きることと、結局どちらが人間の世界なのか? という話に、最後はなってくる。そして無限に拡散し続ける人々の世界が、ついにパンクした――という印象を受けた。

 指数関数的に「拡散」していく世界、その拡散の出発点になる「選択」のタイミングって、実際はどういう点なんだろう。たとえばこうして、いくつかの言葉を頭に浮かべて選び取った時点で、頭に浮かんだ言葉の数だけ世界は拡散していくのか? 浮かんだ言葉の数-1だけ、存在は失われていくのか。
 失われた存在は、失われた世界で枝葉を伸ばして生き続けるのか。ニックが選び取った世界のほかに、拡散し続ける人々が今も生き続けているのか。それは結局、わからない。わからないけどニックは、平凡な日常がある「ここ」を生きている。そして、拡散を知らない何億もの人々も。結局、人がこの世をどう生きているかを、やっぱりイーガンは描いているということなんだろうか。

 しかし、やっぱり量子力学の話は頭がこんがらかる(笑)。いくつか量子学の本も読んではみているが、我ながら無謀な挑戦ではあった。でも解説を読むともう少しわかってくる感じはあるので、本当ならその「ちょっとわかったかも?」的な時点で再読するともっといいんだと思う。

 あとディテールの話をすると、モッドの価格が紹介してあるのがちょっと面白かった。おかげで、ぶっ飛んでるはずの小説世界が妙に生活に近くなる感じで(錯覚なんだけど)。笑いを誘うというわけでは全くないけど、ユーモラスというかウィットを感じさせるというか、そんな雰囲気を出してくれる。