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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「兄弟の血(上)(下)」(著:アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ/訳:ヘレンハルメ 美穂、鵜田 良江)

2019-01-26 22:45:54 | 【書物】1点集中型
 副題「熊と踊れII」、「熊と踊れ」の続編。レオが出所するところから始まる。今度は、前作で少し見えていたブロンクス刑事の家庭にも踏み込み、2つの家族、2つの兄弟の物語になっているようだ。
 出所と同時に、自分や弟たちを刑務所に送ったヨン・ブロンクスへの、レオの壮大な復讐が動き出す。相も変わらず、どこまでも冷徹で計算し尽くされた計画だ。そしてレオを執念で追い続けるヨンですら、そのひたすらな復讐への情念に魅入られてしまったかのように、レオの思惑に嵌まっている。序盤では、ヨンがそこからどうレオに対して挽回していくかも見ものだと思わされるところ。

 レオの頑なさには根底の部分では共感しにくいんだけど、誰が何と言おうと誰を巻き込もうと我が道を突き進む姿と、弟たちへの愚直なまでの愛情からは目が離せない物語ではある。その愛情の発現には理解できない部分も当然、あるにせよ。少年のころから変わらぬ姿が語られればなおさら。
 そしてやはりその原点は父への感情であることも、あらためて感じさせられる。父がレオに犯罪から手を引かせようと思えば思うほど、レオの犯罪は冷たく冴えていく。単に憎悪というだけでは片づけられない、父と子を離すことのないつながり。レオだけではない、フェリックスもヴィンセントも、兄とともに駆け抜けた彼らではもうなく、父にも兄にも今までと違う感情や恐れがはっきりと浮き出てきている。

 2つの兄弟の因業の如き結びつきは、読むほどに理不尽さも覚えれば、痛々しさも感じる。互いに失うべからざるものを失い、もう二度と取り戻すことはできない。2つの「家族」には、モラルとは全く別の何かが確かに存在していて、それがときに悪と呼ばれるものになる。
 それを家族の一員としてではなく個人として解釈したとき、家族として導き出す結論とは別のものになることもある。家族とは何なのか、何が悪なのか。愛情とは何なのか。それを自分以外の誰かと分かち合えることがないならば、果てのない孤独が待っているだけだ。レオとヨンのように。