life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「ゼンデギ」(著:グレッグ・イーガン/訳:山岸 真)

2019-09-30 23:46:32 | 【書物】1点集中型
 相当久々なイーガン。長編なので例によって超ハードSFのつもりで気合入れて挑んだ……のだが、意外や意外、舞台は現代のイランの大きな動乱とその15年後。
 というわけで、テクノロジー的にはちょっと進んだVRくらいのところの話になっている。妻を失い、病を得た自らの余命を知った父親が、自分の死後の幼い一人息子を案じて、クローンならぬヴァーチャルな自分を残そうとする。そういう技術の話はやっぱりSFだけど、それよりも父と子のドラマのほうが前面に出ていると強く感じる物語。
 なので、今まで読んだいくつかのイーガン作品に比べると、これSFなのか? と思っちゃうくらいだった(笑)。ただ、人間をデータ化するというSF的手法をキーにして、人間の何たるかを考えさせられるのも事実である。そういう点はSFならではのアプローチだと思うし、最後の1行でもやっぱりSFだなあと思わされたのだった。こういうところが憎いイーガンである。

「バーニング・ワイヤー(上)(下)」(著:ジェフリー・ディーヴァー/訳:池田 真紀子)

2019-09-11 19:47:04 | 【書物】1点集中型
 読むときは何だかいつも久しぶりなリンカーン・ライムシリーズの、気づけば9作目。なんか今までより字が小さく見えるのは気のせいか。きっと気のせいだろうけど。
 それはそうと、今回の犯人は現代社会に欠かすことのできない「電気」を駆使する。犯人の攻撃は、人体に想像もし得ないほど無残な被害を与える。その描写を読むと、何をどう調べたらこんなリアルに感じさせるような話になるのか、と思わされてぞっとする。人間に生命の危機をもたらす電流の強さが15mAで、ドライヤーの消費電力が10Aで、それが電気椅子と同じとは……という事実も然りである。
 そういう話がいろいろとわかってくる分、特に最も現場に出ていくサックスやプラスキーにさらに感情移入させられる感じだ。しかしそんなプラスキーにまさかの事件が起きるだの、あの「カメレオン」フレッドがまさか時代の波に呑まれそうな危機が起こるだの、あちこちのいろんな要素が絡み合う。その中でも、〈障碍者支援協議会〉の名を騙ってライムに近づき、広告塔にしようとした尊厳死幇助団体の人間に対してトムが見せた激昂がまた異色で、かつトムの新たな魅力が語られました! って感じで良かったです。落ち込んでるトムもちょっといいぞ。

 本筋の裏ではあのウォッチメイカーを追う展開もある。こっちはこっちで心残りが続くので、早くどこかで決着がつかないかとやきもきするんだけども、もう少しこの状態を楽しむのもいいかなとも思ったり。ウォッチメイカーって、「メンタリスト」のレッド・ジョンみたいな存在かもしれないなあ、と一瞬なんとなく思った。
 しかし上巻で犯人が一旦特定されたので、これも何かディーヴァー一流の引っかけか? と思ったんだけど意外にそこは普通だった。けど、わかっている犯人の影をまったく捕まえられないのが、それこそウォッチメイカーの追跡と重なるイメージでもあったりして、それもやっぱりディーヴァー……なんて言ってるとそこからがさらに二転三転で、それこそ本物のディーヴァーだったわけだが(笑)。

 捜査の進行に絡みながらプラスキーにもデルレイにも警察官としての危機が迫って、事件ももちろん切羽詰まってるんだけれども、この2人がもしライムシリーズからいなくなってしまったらどうしよう! という意味でも相当にじりじりはらはらさせられる。そんでもってディーヴァーお得意のミスリード。と、ウォッチメイカー。さらにはライムの決心。トムへの逆さ門限とか、微笑ましすぎて(笑)。そのトムといえば、今回は上巻も下巻もいつも以上の見せ場があって嬉しかったな。上品でスマートでツンデレな美貌の人、が今度はさらにいつも以上に仕事を果たすかっこよさ! もともとこのシリーズではいちばん好きなキャラクターだったけど、さらに好きになってしまったよ(笑)。
 それと今作の警察側じゃない助っ人枠のチャーリーが例によってとてもいい味出してました。なんかこういう人がいると安心するなあ(笑)。今後も出てきてほしいくらい。

 本編とは関係ないけど、解説にこの先のネタバレがあったのがちょっと残念。個人的にはネタバレはそんなに気にしないほうではあるんだけど、ウォッチメイカーのその後についてはちょっともったいなかったかなー。とはいえ、この先もライムシリーズは読み続けると思うけど。