面出しされてるのを見て、実際にあった事件がモデルになっているというのが気になったので。カバーデザインも好き。
母に激しい暴力をふるう父。父に暴力の使い方を叩き込まれて育った長男レオ。ふたりの弟たち。軍の武器庫から大量の銃を盗み、現金輸送車を襲い、銀行を襲い、果ては爆弾を陽動に同時に3つの銀行を襲う強盗となった三兄弟と1人の友人。兄は淡々と人生のすべてを強盗に染めながら、ひたすら弟たちに愛情を注ぐ。訓練はあくまでも冷徹で、翻って強盗の現場は緊迫感と疾走感で息つく暇もない。レオはどこまでも冷静、完全無欠のようにも見える。
レオの仕掛けた罠のような偽の手がかりに振り回されるも、ほんの一瞬見せた素の姿から犯人像を導き出す刑事も、三兄弟に負けず劣らずの重い家庭環境の中にある。犯罪と兄弟という2つの公約数がそこにあり、三兄弟だけでなく刑事の「この先」も否が応にも注目させられる。
その一方でレオは弟たちにも明かさず、憎むべき父親と対面する。縁を切りたいのに、どこかでそうならないことも理解しているかのよう。そしてそんな自分の認識自体に苛立っているような。
兄弟で強盗となった現在と、過去のレオと父の物語を交互に見ていくと、いかにもエディプスコンプレックスといったような流れではある。この父と子の相剋が一連の強盗事件を経てどういう方向に向かうのか、それが今後にどう影響するのか、そして、強盗としてついに次の一線を越えてしまったのかと思わせるところで上巻が終わる。
下巻では、強盗そのものより家族の描写の比重が高くなったように思う。家族が形作られてきた「昔」が掘り下げられる傍らで、「いま」では少しずつすれ違い、突如崩れ落ちる兄弟の形が綿密に描き出される。その凍り付くような緊張感は、一連の強盗の様子に負けず劣らずである。父親は息子の姿を目の当たりにし、自分が経てきたものを知る。
著者の一人、トゥンベリが実際の事件の犯人たちの家族だというのも衝撃だった。作中全体に、寒風吹きすさぶ北欧の冬の、重い雲が垂れ込めたような空気感が漂っている。兄弟間の確固たる信頼と愛情すらも、純粋さの中にある逃れようもない重さを感じさせるよう。一つの破綻から雪崩を打って破局が訪れ、変わらぬ想いだけが残った。終わってみれば紛うかたなき家族の物語。
この破局からこそ父の、兄の、弟の、一人ひとりの人間としての、そして家族そのものの再生があるのではないか。全てが終わった後に否応なく向き合うことになるすべてのものによって。
それにしても、報道出身者が書く社会派小説はやっぱり骨の太さを感じさせるなあと思った。解説を読んでみたら、ルースルンドの他の作品もまんまと気になったので、いずれ読んでみようと思う。
しかし、「特捜部Q」なんかもそうだけど、北欧ミステリはけっこう救われないイメージがあるなあ。この物語もまさにそれ。実話ベースだから余計そうなのかもしれないな。
母に激しい暴力をふるう父。父に暴力の使い方を叩き込まれて育った長男レオ。ふたりの弟たち。軍の武器庫から大量の銃を盗み、現金輸送車を襲い、銀行を襲い、果ては爆弾を陽動に同時に3つの銀行を襲う強盗となった三兄弟と1人の友人。兄は淡々と人生のすべてを強盗に染めながら、ひたすら弟たちに愛情を注ぐ。訓練はあくまでも冷徹で、翻って強盗の現場は緊迫感と疾走感で息つく暇もない。レオはどこまでも冷静、完全無欠のようにも見える。
レオの仕掛けた罠のような偽の手がかりに振り回されるも、ほんの一瞬見せた素の姿から犯人像を導き出す刑事も、三兄弟に負けず劣らずの重い家庭環境の中にある。犯罪と兄弟という2つの公約数がそこにあり、三兄弟だけでなく刑事の「この先」も否が応にも注目させられる。
その一方でレオは弟たちにも明かさず、憎むべき父親と対面する。縁を切りたいのに、どこかでそうならないことも理解しているかのよう。そしてそんな自分の認識自体に苛立っているような。
兄弟で強盗となった現在と、過去のレオと父の物語を交互に見ていくと、いかにもエディプスコンプレックスといったような流れではある。この父と子の相剋が一連の強盗事件を経てどういう方向に向かうのか、それが今後にどう影響するのか、そして、強盗としてついに次の一線を越えてしまったのかと思わせるところで上巻が終わる。
下巻では、強盗そのものより家族の描写の比重が高くなったように思う。家族が形作られてきた「昔」が掘り下げられる傍らで、「いま」では少しずつすれ違い、突如崩れ落ちる兄弟の形が綿密に描き出される。その凍り付くような緊張感は、一連の強盗の様子に負けず劣らずである。父親は息子の姿を目の当たりにし、自分が経てきたものを知る。
著者の一人、トゥンベリが実際の事件の犯人たちの家族だというのも衝撃だった。作中全体に、寒風吹きすさぶ北欧の冬の、重い雲が垂れ込めたような空気感が漂っている。兄弟間の確固たる信頼と愛情すらも、純粋さの中にある逃れようもない重さを感じさせるよう。一つの破綻から雪崩を打って破局が訪れ、変わらぬ想いだけが残った。終わってみれば紛うかたなき家族の物語。
この破局からこそ父の、兄の、弟の、一人ひとりの人間としての、そして家族そのものの再生があるのではないか。全てが終わった後に否応なく向き合うことになるすべてのものによって。
それにしても、報道出身者が書く社会派小説はやっぱり骨の太さを感じさせるなあと思った。解説を読んでみたら、ルースルンドの他の作品もまんまと気になったので、いずれ読んでみようと思う。
しかし、「特捜部Q」なんかもそうだけど、北欧ミステリはけっこう救われないイメージがあるなあ。この物語もまさにそれ。実話ベースだから余計そうなのかもしれないな。