life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「タウ・ゼロ」(著:ポール・アンダースン/訳:浅倉 久志)

2016-07-21 23:27:30 | 【書物】1点集中型
 宮田珠己氏が推すつぶやきに乗せられて読んでみる。1970年発表のハードSFだそうな。巻末に30ページ以上にわたる科学解説までついている。身構えぬわけにはいくまい、という感じなのだが、実際は宇宙船という閉鎖空間の中で、外界(つまり宇宙)に影響される船内の人々を描いていて、かなり俗っぽい話でもあったりする。というのも、もともとこの宇宙船「レオノーラ・クリスティーネ号」に乗り込んだ人々は、もし居住可能であればそこに入植するためにおとめ座ベータ星第三惑星に向かう人々だからである。当然、子孫を作るということが視野に入っているわけなので、ちょっとヒッピー的なフリーセックスの空気もあったりする。

 それはそうと、実際この船を取り巻く環境は過酷である。なんせ亜光速の状態で減速ができなくなってしまったのだ。航行速度は上がる一方で、約200万光年の距離を数週間で渡り、2、3億光年の距離を横断するにも2カ月ほどしか要しない。出発した太陽系の太陽は、すでに消失して久しい。地球もない。
 そうして航行を続けるうち、ついに船は1,000億年の時空を超えていく。そこに見出されたのはもはや膨張を終え、収縮に向かい始めた宇宙である。それはつまり宇宙の終わりを示すものだ。が、護衛官レイモントに鼓舞された科学者たちは、宇宙は振動を繰り返していること、収縮した宇宙は再生に転じる可能性を持っていることに活路を見出す。

 ……という話が終盤1/4くらいに凝縮されているので、SF的な目玉は実はクライマックス部分だけでも堪能できる気はする。ものすごい急転直下なので若干呆気にとられたというのが本音だが、宇宙にはこんな展開が待っているのかもしれないと思わせてくれるには充分だと思う。おそらく、そこにたどり着くまでに描かれている科学者たちの挫折感や苦悩の姿のおかげで。実際、50人しかいない世界ではプライバシーも何もほとんどなくなってしまい、良く言えば濃い関係に、悪く言えば澱んだ関係にもなっていくだろう。しかもそれがいつまで続くかわからないというのは、ある種の極限状態であろうと思う。
 どちらかというと、大半の描写はそういう部分も含めて船内での人間関係に割かれている感じなのだが、その環境が北欧系の文化を中心にしているのがちょっとおもしろい。作者自身が北欧系アメリカ人だったからなのだろうと思うが、船内で夏至祭が開かれたりするのも神秘的。同時に、なんとなく宇宙に似合うような気もしてしまうから不思議だ。
 あと、巻末の科学解説でこの作品の肝になる「恒星間ラムジェット」をきちんと紹介してくれているのがとてもありがたい。そうかそれでロケットってそういう造りになっているんだなー、と勉強させてもらった。

「世界の日本人ジョーク集」(著:早坂 隆)

2016-07-18 23:14:34 | 【日常】些事雑感
 某大学の教養科目の先生がこの本を授業の題材に使っていて、いくつか見せてもらった「ジョーク」の例がおもしろかったので、実物を読んでみた。
 2006年の本なのでネタ的にはちょっと古さもあるのだが(小泉政権とか)、日本だけではなく各国が外国からどう見られているかが垣間見える。日本人=金持ちの構図が
10年前でも幅を利かせてる感じがちょっと悲しいんだけども、それだけ印象強かったということではあると思う。

 しかし「電球ジョーク」はなんでこんないろいろパターンがあるのか、そのことがおもしろいやら驚くやらである。もろもろのジョークの背景にある情勢を併せて解説してくれるので、笑いどころがわかりやすい。原文がわからないと全然意味が通じないものもあるので。それにしても「L」と{R」の違いとかこんなに極端なのにありがちに見える例を出されると、やっぱり私なんぞには英語は無理だ! と思わされてしまう(笑)。
 個人的にちょっとツボに入ったのが「食文化」の「イギリスは豊かな国だと聞いていたのに、イギリス料理などを食べている」というやつで。アメリカも似たようなものの気もしないでもないが(笑)。

 日本人を示すジョークは、外から見た場合のステレオタイプな姿なので、納得できるものもあれば苦笑してしまうもの、痛いところを突かれるものも(笑)あるんだけれども、おそらくそれは逆も言えることなのだろう。その意味では、その国を見たりその国の人の言葉を聞いたりして直接知ることはやはり大事だなぁとあらためて思う次第。わかるとなお、こういうジョークがおもしろくなりもするだろうし。
 著者の「ジョーク集」はいろいろあるようなので、ほかのものも読んでみたい。何年かおきに同じテーマでまたジョークを集めてみてもらったら、変化する部分もあっておもしろそうだなと思うし、わかりやすく社会の動きを知る素材になりそう。

「細木数子 魔女の履歴書」(著:溝口 敦)

2016-07-13 21:38:35 | 【日常】些事雑感
 本屋で面出ししてあるのをたまたま見かけた。細木数子という人や占いには特に興味はなかったけど、そういえばこの人いつの間にかいなくなってたのは何故? と、その点にちょっと興味を持ったので借りてみた。
 著者は裏社会、特に山口組周辺のドキュメントなどを数多く手掛けているジャーナリストだそうだ。そういう人が何故細木数子ネタなのかというと、それ自体は「週刊現代」編集部の連載企画に著者が乗ったというものである。当初は特に批判目的で始めたわけではなかったそうだが、連載開始前から既に暴力団の関与を匂わせる動きがあったらしい。かつ、連載開始後は細木が講談社に対して損害賠償訴訟を起こしたという経緯があったそうだ。

 本文に詳細に記されているが、細木自身が生来、裏社会との繋がりを持って生きてきている。戦前はまだ妻妾同居が珍しくなかったという話からして実感がなく、隔世の感も大きい。ポン引きから水商売、その自店絡みの売春などなど、延々とその手の商売を続けつつ、ほんの少しかじっただけの占星術にどんどん尾ひれをつけて、「六占星術」なるものを看板に据えた……という感じのようだ。ざっくり言うと。
 金の臭いのする人を嗅ぎつけて、とにかく利用しまくる。ヤクザの女におさまり、果ては自ら「女ヤクザ」のごとき振る舞い。そして「神水から墓石まで」という絵に描いたような霊感商法。TV出演から墓石ビジネスを含めた占い関係の収入まで年収ざっと24億円というから恐れ入る。そんな細木は著者曰く「時代の持つ貧しさと低俗性の象徴」であるが、これはまさに言い得て妙だろう。しかもそんな細木と裏社会の諸々の繋がりを承知していながら、祀り上げていたTV局もまた低俗の極みである。

 しかし世間は細木の番組を面白がって(信じているかどうかは全く別の問題として)観賞してもいたわけで、TV局も低俗なら、その仕掛けにしたり顔で乗ってみせる側もまた十分に低俗だ。細木数子という存在があまりにも大きすぎて目を眩ませられるが、そうした低俗さは誰の中にも存在する。細木のように表出するかどうかは別として。だから自制も自省も必要なのだ。
 ……って、そんな人生訓みたいな話をしている本ではないが。ただ「あとがき」にあったように、細木数子に「あまりに敵が多すぎ」、多くの関係者が著者へ取材協力を惜しまなかったことを考えると、やはり細木数子のような「魔女」の所業に対して、何かを感じておくべきだとは思うのだ。

「ダスト(上)(下)」(著:ヒュー・ハウイー/訳:雨海 弘美)

2016-07-09 00:10:50 | 【書物】1点集中型
 サイロ3部作ようやっと完結。前作「シフト」を読んでからかなり経ってしまった。ここまでくると、第1部である「ウール」の細部は覚えてなくてもほぼ問題ないが、前作でのサイロ建設者側の紆余曲折がほとんどうろ覚え状態になってしまっており(笑)我ながら心配になりながら読み始めた。ナノマシンの存在とか本当にすっかり忘れてたし……。

 市長となったジュリエットは、朽ちたサイロ17と自らのサイロ18を周囲の反対や疑義を押し切って繋ぎ、ソロことジミーや子どもたちと再会を果たす。さらに、「外」の空気や土壌のサンプルを採取し調査する計画を実行に移す。外の世界に出て戻ってきたという、誰にもない経験をしてきたからこそジュリエットは外の世界の事実を人々に知ってもらおうとしている。ルーカスはそんなジュリエットを危惧しながらも彼女をできる限り支えようとしながら、サイロ1との交信を続ける。
 サイロ1ではドナルドとシャーロットの兄妹にも危機が迫る。それは同時にサイロ18の存続の危機となり、サイロ18の「閉鎖」が開始される。ジュリエットはなんとか人々をサイロ17に移そうと奔走する中で、愛する人を喪っってしまう――というのが上巻。言ってみれば、上巻は「起」だけかもしれない。
 下巻では、サイロが造られた本当の理由を理解したドナルドが捕らえられ、妹のシャーロットが文字通りたった1人でサーマンの目を逃れながら、他のサイロとの交信を試みる。故郷を失ったジュリエットがサイロ1に対する憎しみを抱え、生き延びるためにサイロ1を倒そうとしたとき、2人はやっと互いに互いに起きていることの真実を知る。ジュリエットは生き残った人々に真摯に真実を説き、人々は自らの意思で進む未来を選択する。片や、瀕死の兄を救い出したシャーロットは、サーマンの描く歴史のシナリオを断ち切るべく、身も心も引き裂かれながら地上へ向かう。

 失ったものは数多いが、結末は人類にとってのハッピーエンドと言ってもいいだろう。ディストピア小説とも言われたようだけども、終わりがこうなのであんまりそういう感じはしない。閉塞感(当たり前だけど)とサイロ1の兄妹の緊迫感、サイロ17の一触即発な空気感など、雰囲気はこのシリーズらしくて良かった。ちょっと揚げ足取りみたいなことを言ってしまうと、エリースと教団の話とかは少し唐突というかなくても成立する感はあったけど。というか全体的にラストに持っていくまで急ぎすぎたのかな? 「こういうラストシーンにしたいんだ!」というのはすごく伝わってきた(笑)。
 でもま、独創的な設定がやはりとても大きくて、細かいことを抜きにしても雰囲気は充分に楽しめたけど。それだけにこの、最後の解説がちょっと……この作品にこのテイストを持ってこられると辛い。正直、今回のこの解説だと作品がちょっとかわいそうになってしまうので、いらないです(笑)。