life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

出先にて、夕景

2010-08-31 21:44:26 | 【日常】些事雑感
 本当はもうちょい薄い色だったんですけど。逆光なもんで。

 未だに日中30度かよ! 夜も20度超えかよ! とぐったりする日々の中で、束の間の放心。
 自然よ、宇宙よ、ありがとう。←「宇宙創成」読書中につき、若干大袈裟

 でも日は着々と短くなってるんですよね。さびしー。

「三匹のおっさん」(著:有川 浩)

2010-08-26 23:31:22 | 【書物】1点集中型
 有川氏作品で先に目についたのは「阪急電車」なんだけれども、初読みはこちら。なんでかっつーと、主人公「三匹のおっさん」たちの名前ですよ。キヨ・シゲ・ノリ、ってそれどこから取ってきたの! てな具合の見事すぎるネーミングですよ。同好の士なら当然おわかりでしょうが、内容紹介でそのネーミングを見た日にゃあ思わず吹き出しそうになりましたもん。(笑)

 で、そんな引っかかりも何かの縁かと、吹き出しついでにちょっと拝見。なるほど有川氏ってこういうタッチなんですね。本職(というのもおかしいが)は恋愛小説らしいですが、この作品はタイトルからも大方察せられるように、3人のおっさん(還暦)大活躍の、感覚的にはいわゆるTV時代劇です(と思いながら読んでたら、果たしてあとがきにもそのようなことが書かれてあったぐらいにして)。
 言葉は悪いですが、ちょっとした暇つぶしにいいかも~的な娯楽として、深く考えずにそこそこ楽しめました。三匹のキャラもそれぞれ面白いし、なんつっても「エレクトリカル・パレード」にはウケたし(笑)。詐欺やら動物虐待やなんやら、真面目に語るとどこまでも重くなれるような問題をさらっと、でも物語としてちゃんと解決しているのも安心はできます。

 ただ、祐希と早苗はあまりに青春すぎてかなりこっぱずかしいんだけど(笑)そこはまぁ、余録ってことにしときましょう。おそらくこのあたりが有川氏の本業(?)の恋愛小説ノリなんだろうなと思いました。罪のない感じで微笑ましいことは微笑ましいですけど、なんせ死ぬほど甘――い!! し~。
 ぶっちゃけ、普段はほとんど読まないタイプの本だったですが、これも縁ですかねー。キヨさんもシゲさんもノリさんも、あんな感じやそんな感じやこんな感じ(どんなだよ)では全然なかったですが、たまにこういうエンタテインメントで、眉間に皺の寄りそうな読書に小休止を入れてみるのも良いと思います。ま、眉間に皺の寄る本も、当然自分が好きで読んでるんだけど。

「インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日」(著:中村 安希)

2010-08-23 23:29:53 | 【書物】1点集中型
 表紙の、じっとこちらを見るインパラの透かすような眼差しと、帯の著者の冴えた表情につられて手に取りました。で、図書館から回ってくるの半年ぐらい待った気がする本です(笑)。って実は意外と所蔵数が多かったので実際は半年も経ってないかもだけど。

 中国からヒマラヤ、東南アジア、インド、パキスタン、中央アジア、中東、アフリカ、最後にヨーロッパ。47ヶ国を2年間、バックパッカーとして歩いた著者が淡々と綴る文章は、突き放したようでいながら常に自分の目で見たもの、肌で感じたものを腹の奥に咀嚼しながら、消化したものの本質を自らに問いかけながら歩き続けてきたことを教えてくれます。

 貧しさとは。
 豊かさとは。
 国が発展するとは。
 助け合うとは。
 ひとに優しくするとは。

 楽しかったことばかりではもちろんなく、想像も及ばない苦難があった旅でした。実際、著者はまるでそこにある見えない敵とでも戦うように旅をしていました。時に周到に、時に感情を滾らせながら。ミッキーマウスの覆面なんて何に使うんだろうと出発の時には思ったものでしたが、それが実際に使われる場面に至って、一種壮絶なその旅の本質を見せられた気がしました。

 ことさらに声高でもなく、ウェットなドラマを装うでもない潔い文体が、だからこそ「現実がどのようなものか」「世界に対する自分の認識がいかに浅いものであるか」を、読む側に突きつけてくるように思えます。実際に体験した人の言葉ほど強いものは、やはりないのだと改めて感じました。
 身ひとつにならなければわからないことがあるということ、それを「私は少なからず体感してきたのだ」と毅然と背を伸ばしているようにも思える。そんな清々しい「物語」でもあると思います。その研ぎ澄まされた刃のような語り口は、読後に爽快感すら与えてくれました。良いものを読ませていただいてありがとうございました、と言いたいです。

「鍵」(著:谷崎 潤一郎)

2010-08-21 23:51:18 | 【書物】1点集中型
 個人的には久々に読む谷崎作品です。とは言っても読んだのは「細雪」とか「痴人の愛」くらいだし、「細雪」に至っては全然話を覚えていないという……

 端的に言えば、女が男を食い尽くす、いかにもな谷崎作品です。夫婦は互いに相手に激しく疑心を抱きつつ、夫はその疑心や嫉妬さえ愛欲の「刺戟剤」として利用し、感情を高ぶらせようとし、妻は「夫を喜ばせる」ためにこそその夫の願望を叶えてやろうとするのだと言う。互いに嫌悪しつつも、自分が相手に向ける想いには間違いなく愛情も含まれているのだと自覚している。40代・50代という年齢設定がさらにねっとりした淫靡さを感じさせます。
 そして夫を亡くした妻・郁子は果たしてこの先木村氏をも……と、エンディングはちょっとブラック。それが女という生き物の魔性をさらに引き立てていて、ちょっとしたホラーかも。嫉妬によってより駆り立てられる夫の姿や、その嫉妬を煽ろうとして他の男とギリギリの逢瀬を繰り返す妻の姿が決して特異なものではないのだと、読み終えたときにふと気づかされたような気がするのです。

 しかし、谷崎作品に棟方氏の板画がこんなにマッチするとは思ってもみなかったです。いやむしろ、棟方氏がきっちり作品世界を表現したというべきなんでしょうね。ともすればおどろおどろしい深みにはまりすぎる雰囲気に、仏画のようなあのタッチがいい具合に抑制を効かせ、しかし残すべきエロスのエッセンスはちゃんと残っているというか。しかも最後の1枚は(棟方氏風に言うなら1柵?)、阿修羅の姿をした女性だし。

「夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録」(著:V.E.フランクル/訳:霜山 徳爾)

2010-08-19 20:52:19 | 【書物】1点集中型
 タイトルそのまんま。あのアウシュヴィッツに収容されたユダヤ人心理学者になる著書です。
 邦題「夜と霧」は「非ドイツ国民で占領軍に対する犯罪容疑者は、夜間秘密裡に捕縛して強制収容所におくり、その安否や居所を家族親戚にも知らせないとするもので、後にはさらにこれが家族の集団責任という原則に拡大され、政治犯容疑者は家族ぐるみ一夜にして消え失せた」(本文「解説」より)という「夜と霧」命令からきているとのこと。

 ページをめくると、のっけから「解説」。何故冒頭に解説? と思いつつ読んでいくと、そこには収容所のおぞましい実態がいっそ淡々と、延々と延べられています(解説の内容は、「第二次大戦後イギリス占領軍の戦犯裁判法廷の法律顧問であったラッセル卿の記述」によるもの)。
 現代にもいろんな事件やフィクションでの表現などもあるわけなので、そういう意味では自分の意識がすれているから、最初はまだいいんだけど、あまりにも延々と続いていくので、しまいには本当ににこんなことをした人間がいたのか、どういう精神状態ならこういうことができるのか、月並みですがそんな思いにとらわれて吐き気がしそうな気分にもなったものでした。

 で、そろそろ本格的に喉もとに何かがせり上がるような気がしかけたころ、いよいよフランクル氏のなした本文が始まりました。ただし氏の意図としては、

「そしてこの叙述は、あの身の毛のよだつ戦慄――それはすでに多くの人によって描かれている――を述べるのを目的とせず、むしろ囚人の多くの細やかな苦悩を、換言すれば、強制収容所において、日々の生活が平均的な囚人の心にどんなに反映したか、という問題を取扱うのである。」
(「一 プロローグ」より)

 ……というもので、それまでに比べれば平常心で読み勧められる内容ではあります。なんか、暗い穴の奥へ奥へ向かって、そろそろ引き返したくなってきた時にいきなり明るいところに放り出されたような感じ。
 ただ、前段にあの「解説」があったからこそ、氏の置かれていた状況がより理解できたと思うし、それを理解することによって、その環境で生きていくために氏や他の人々が自らの心をどう守ったか、あるいは志半ばに力尽きていったのかがよりはっきり伝わってくる気がします。解放されたあとも人々の心に深く残された爪あとも心理学的見地から書かれてあり、その忌まわしい記憶が人々にその後ももたらすものを考えると、やはり「重さ」を感じるのも事実です。

 ただ人はどうにかして乗り越えることもできるし、人間は「その境界は入りまじっているのであり、一方が天使で他方は悪魔であると説明するようなことはできない」存在なのだと、まさに乗り越えてきた氏が述べたからこそ、そんな当たり前と思われる言葉にも重みが感じられるようになるのだと思います。

 そして最後が「写真と図版」。これも簡単なキャプションとともに淡々と並んでいるだけです。だからこそ雄弁な現実。ちょっと正視に耐えない写真もあります。それがもう「ここまでこの本を読めば、見りゃわかるでしょ」と言わんばかりで、彼ら彼女らが失ったものと乗り越えたものの大きさを改めて思うのでした。
 理屈抜きで、二度とこんなことがあってはならないと思う。二度と起こさないためには、誰もがそれを認識する、本当はそれだけで充分なはずなんでしょうけど。

 読み終えて、「収容所(ラーゲリ)からの手紙」(著:辺見じゅん)を思い出して、また読み返したくなりました。これはアウシュヴィッツではなくシベリア抑留の話ではありますが、想像を絶する過酷な環境を生き抜いた人々の姿を描いた名著です。少なくとも私にとっては。

「延長戦に入りました」(著:奥田 英朗)

2010-08-16 23:37:16 | 【書物】1点集中型
 以前Numberで、WBCだったか五輪だったか……確か岩瀬がものすごく割を食ってひとりで何敗分かを背負っていたときで、奥田氏が確か竜ファンなので感情移入度が高かった、そんなエッセイ(でいいのか? あれはノンフィクションなのか?)を読んだことがありまして、「なんだか妙に面白いぞ。奥田英朗。」とか失礼にも思ったのが、氏の作品との出会いでありました。

 そのあと実は「最悪」だけ読んだんですけど、「邪魔」とか「サウスバウンド」とか気になりつつまだ読んでません。ただ今回このエッセイを読んでみて、「サウスバウンド」ってこういうノリかなーとか想像しました。(とはいえ映画も見てないんだけど。映画の宣伝を見た限りでは、なんかかっ飛んでそうだったので。あ、でも「空中ブランコ」は映画をTVで見たような気もする。)

 で、この「延長戦に入りました」は作家になられる前に雑誌に連載していたものだそうで、ひとことで言えば「スポーツに関するエッセイ」だと思います。深く競技を掘り下げるタイプのスポーツノンフィクション的なものではなくて、ふつうの人と日常とスポーツの関わりという視点かな。なんというか、スポーツを茶化しまくり、おちょくりまくっております。高校野球(しかも地区予選)の馬鹿試合から、時には選手の名前(外国人選手の姓だったり、五十音順の話だったり)やら果ては国名すらネタにしておられます。

 なので、競技のことが全然わからなくても充分に楽しめます。私自身、ハンドボールやボブスレーやプロレスなどほとんどわからない競技の話がいっぱい出てきましたけど、それでも笑いをこらえるのに必死だったし。もちろん、競技を知ってるとさらに面白く感じるんじゃないかと思います。
 ただ、シャレがわからないと面白くないかもしれない(笑)。地下鉄で読んでて吹き出しそうになって困ったほど、ツボにはまるツッコミが満載で、けどなんというか、文章の端々にスポーツへのどうしようもない愛着が感じられるのです。どれもこれも氏がたくさんのスポーツをちゃんと見たりやったりしているからこそのものなんじゃないかなと思いました。

 個人的には、浅田次郎氏のエッセイも思い出すノリとテンポです。そういう並べ方ってご両者に失礼なのかもしれませんが(汗)短絡的に結びついちゃったのですよ、そもそもエッセイ自体あまりたくさん読んでないもので……でも浅田氏のエッセイも好きなんです。
 そんなわけで、やっぱり「泳いで帰れ」も「野球の国」も読んでおくべきかなーと思った読後でした。

「ユダヤ警官同盟」(著:マイケル・シェイボン/訳:黒原 敏行)

2010-08-08 01:02:55 | 【書物】1点集中型
 確かこれも「チャイルド44」みたいに、帯に「このミス」○位とかあったような、なかったような……
 「訳者あとがき」を読むと「本書は、改変歴史SF+ハードボイルド・ミステリー+純文学という、境界を侵犯しジャンルを横断する文学――いわゆるスリップ・ストリーム文学」となっていまして、「解説は作品を読み終わってから」派(単に頭から読んでるだけ)の私は「先にこっち読んどいた方が話が掴みやすかったな」とか当たり前のことを思った次第であります。謎解きの手順は読んでいけばわかったけど、物語の中のユダヤ人の感覚や背景を理解するのに時間がかかってしまったので(笑)。

 語り口は個人的にはけっこう好きなタイプです。時には駄洒落にすら聞こえそうなメタファーがぽんぽん飛び出してくるテンポと、主人公ランツマンの(一見)ダメ中年っぷりがいいバランスで、読んでると意外と心地良い。
 ただ、ユダヤ人と一口に言ってもいろいろあるし、ユダヤ人じゃなくてもいろいろあるし、国も文化(宗教と密接に関わる文化)も違えばやっぱり理解するのにはそれなりの知識が大前提として必要になってくるよなぁとは思いました。そもそもこの物語自体が、別にユダヤ文化に親しみの薄い人までを意識して書かれているわけではないのだろうし。
 そんなわけで、やっぱり外国文学、特に宗教観が大きく関わるようなものに関しては先に解説なり読んでおいた方がいいだろうという教訓は残りました。多少なりとも、予備知識としてね。

 買ってひと月くらいしか経ってない革かばんの中にペットボトルの中身を撒いてしまい(笑)、顔色を失った今日でした。お揃いの名刺入れも濡れた。中身はわりと無事だったけど。色が非常に気に入っているのでちゃんと乾いてくれるよう祈る。ううう。