life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「泳いで帰れ」(著:奥田 英朗)

2010-09-28 23:05:46 | 【書物】1点集中型
 言わずと知れた奥田氏のアテネオリンピック観戦記。つまり、北京どころかアテネの話を今さら読んでいる私、というわけですが。

 文中いたるところで炸裂する、痛快なる奥田節。「海外旅行なんて、好きじゃない」とのたまいつつ、行けば行ったで当然野球のみならず柔道も陸上も見れる競技はすべて、そしてアテネの街も食い物もしっかり楽しんでおられます。いいなぁ。
 個人的にとてもおかしかったのが、ヘリニコでの野球観戦でチャイニーズ・タイペイの応援が「空耳アワー的に聞こえ」るというくだり。

 「土地返せ! 土地返せ!」こんなふうにも聞こえた。
 おまえら、尖閣諸島は日本の領土だからな。知らず知らずのうちにこっちも目が吊り上がる。
(「泳いで帰れ」本文より)

 ……とまぁ、まさしく今の社会情勢にどんぴしゃになってしまっていて、変なツボに入りました。いや、こんにちの問題は笑い事ではないのですが、それは置いといて、各競技場の観客席での「領土問題」には笑えたし、これもお国柄の違いかぁと思うと妙に感心してしまうところもありました。

 肝心の野球に関して言えば、私自身はアテネの野球チーム内には思い入れを持ってる選手も多かったこともあって、奥田氏の見方すべてに首肯はできないのは事実です。ノリが銅メダルをそれでも「うれしい」と言ったことは、シドニー(で初めてプロがアマに割って入ったのにメダルを逃した)のことがあったからだと思っているし。
 が、奥田氏のご意見ごもっともな部分は多々あります。つーか、前述のような細かいこと以外は「そうそう! そうだよね!」って話が多いです。今さらながら自分のオリンピック観戦の様子(かなりちょこっとしか見てないけど)をメモした過去blogを見返して、上原氏に相当とほほな思いをしたのを改めて思い出したし(笑)、オーストラリア戦9回の城島のセフティバントで勝負を諦めたのも思い出したし。観客席から変な声が聞こえてきたのも思い出したし(笑)。
 しかし今さら改めて思うのは、日本野球のナショナルチームとしてこの苦い経験があったのに北京がアレだったことですよ……。

 まあ、アテネの野球のことをそれこそ今さらほじくり返しても仕方ないわけですが(笑)
 それより何より、この本ではやっぱり奥田氏のスポーツの楽しみ方を見る(読む)のが楽しかったです。テレビ等で過剰にショウアップされた商業イベントとしてのオリンピックでなく、競技としてのスポーツが世界最高のレベルで見られることを純粋に楽しむ。「スポーツにおけるファースト・プライオリティは美しさ」、これには全く同感です。どんな競技であれ、高みにある選手は必ず何か、「美しい」と見惚れさせる一瞬があると思います。
 そういう意味では将棋や碁でも、対局中に、人を惹きつける表情を見せてくれたりするし。スポーツらしいスポーツではないけど、ああいったものもある意味、スポーツだと思います。思考のスポーツ。精神力に伴う体力だって必要だと思うので。

 さて、こうなったら「野球の国」もやっぱり読まないといけないかなー?

「死刑台のエレベーター[新版]」(著:ノエル・カレフ/訳:宮崎 嶺雄)

2010-09-26 22:58:54 | 【競馬】窓越しのレース
 完全犯罪をもくろんだ主人公(一応)ジュリアン。それを達成したと思われた直後に無人のビルのエレベーターに閉じ込められてしまい、その間にある若いカップル(フレッドとテレザ)に車を盗まれ、36時間後にやっとエレベーターから脱出した時には、全く身に覚えのない殺人容疑をかけられていて……さあどうなる? という話です。

 フレッドとテレザがジュリアンの車を盗んでからの長い長い逃避行、ジュリアンの妻ジュヌヴィエーヴとその兄夫婦のやりとり等々を読み進めながら、いつになったらジュリアンが閉じ込められたエレベーターから脱出するんだ? と思っておりました。で、気づいたらもはや物語は2/3を超えていました(笑)。
 一体これはどういう風に物語の決着をつけるのかと思ったものですが、読了後にやっと、ああ、なるほど、そういうことを書きたかったのか……と気づいた次第です。レーベルが「創元推理文庫」だったので、どうしても謎解きを連想してしまってましたが、実際はそうじゃない。エレベーターそっちのけで進んでいくエピソードのひとつひとつが、最後にジュリアンを待ち受ける事態が明らかになるにつれて面白いように結びついていきます。
 完全犯罪がもうひとつの完全犯罪(と言えるのかどうかは微妙だけど、こっちはもう犯人いなくなってしまったし)を呼び、完全であったがゆえに、ジュリアンにとってとてつもなく大きな陥穽となってしまった。嘘が嘘を呼び、しまいには拠りどころであった真実すらも嘘を事実に変えるだけのものと化してしまう。この構成力はすごいかも。

 ぶっちゃけ、下手に完全犯罪なんかやってもろくなことにはならないぞ、という話かもしれないとも思いました。(笑)←違うと思う。

「本当はちがうんだ日記」(著:穂村 弘)

2010-09-26 22:31:53 | 【書物】1点集中型
 「ナツイチ」かなんかで見かけてちょっと気になった本。穂村氏のことは寡聞にして存じ上げませんでした、すみません。

 いやしかし……全体的にゆるゆるなのに、恐るべきキレ味。怪しげなその造語がいちいち笑いのツボにはまる。文章の間合いが絶妙です。実は、いちばん笑ってしまったのは「あとがき」だったりします。ほむらさんサイコー。
 全体としては笑えるんだけど、ほっとしたり、身につまされるような気がしてちょっとわが身を省みたくなってみたり。そんな体温のあるエッセイです。おすすめ。
 特に「悪魔の願い」は、なんか非常――に共感できました。そして与謝野鉄幹・晶子夫婦の人間的な大きさに頭を垂れるばかりでした。願わくば我よ、斯くあれかし。ってなんか文法おかしい気がする。誰か直して。

 穂村氏の語るエピソードのひとつひとつに笑いを誘われながらも、こうやって人はおろおろとしながらも歳を重ねていくんだなぁ、不安はあるけど、やはり誰もが何かしら、そういう思いをどこかにしまっていたり、ふとした拍子にまた引き出したりしながら、日々暮らしてるんだろうなぁとも思うのでした。 

「極道放浪記」(著:浅田 次郎)

2010-09-20 19:39:20 | 【書物】1点集中型
 「1」と「2」のシリーズ2作一気読み。タイトルの通り、「極道」の世界に片足どころか首まで浸かっていたような時代もあった浅田氏の自伝といえると思います。

 フィクションとしてのハードボイルドやらアウトローものやらは、それはそれで非日常を感じるエンタテインメントとしてそこそこ好んでいますが、それにしてもこの2冊の内容は「いったい、本当にここまでの話があるのかね?」と思わずにいられないものもあったりします。もちろん相応の脚色は施してあるのだろうし、ある程度面白おかしく読めるところまで加工はしてあるんだろうけど。でも、細かいところはともかく大筋はほんとの話に違いない。
 内容はそのまんま「極道」なので、堅気の人間には想像もできない世界の話ばかり。けどただただ危ないばかりではなく、ところどころに人情味も垣間見えて安心します。これはエッセイでも小説でも、浅田作品の変わらない部分じゃないかな。「2」の副題にもなったエピローグ「相棒(バディ)への鎮魂歌(レクイエム)」は、やっぱりちょっと哀しかったけど。

 「勇気凛々ルリの色」に比べるとちょっと重めというかダークな雰囲気が強めでもあるのですが、相変わらずの浅田節炸裂エッセイでした。結局、この文体とテンポがたまらないんですよね(笑)。舞台喜劇みたいな台詞回しとかかなり好き。
 なんというか、喩えるならば三谷幸喜の「ザ・マジックアワー」を「読んでる」みたいな感じ? 個人的には三谷作品を観てるときの感覚と、浅田エッセイを読んでるときの感覚が非常に近いです。

そして本日も無闇に長い仙台の巻

2010-09-19 23:29:56 | 【野球】ペナント日誌 2010
 昨日からの、午後は一時雨かも予報は変わらずのまま、本日も観戦です。
 実際降ったんだけど、数10分? ほんのパラパラ程度でした。濡れっぱにしとくにはちょっとアレだったんで、降ってる間は一応合羽羽織ってみましたが。まぁ一時雨でもスコールみたいのじゃなくて助かりました。

 今日は先発がラズナーvs吉見(ゆ)なので、おかしな試合になれば結果はまぁどっちでもいいや! という気分だったのですが。←おかしな試合って何だよ←基本的には馬鹿試合希望って話
 終わってみたら、昨日に引き続き延長でもないのに4時間ゲームになりました。疲れました(笑)。おかげで仙台駅戻ったら19時で、土産も調達してないのであたふたと電車に乗る羽目になり、余裕ぶっこいて取ったはずの20時半の飛行機乗るのに時間が余らなかったですよ~。

 それはともかく、話を試合に戻しますと、ラズナーは案の定初回先頭からいきなり四球、おまけにワイルドピッチも絡んでヒット1本で2点先制されました……が、その裏で聖沢の先頭打者初球ホームランが飛び出し、冒頭から吉見も吉見らしさをしっかり醸し出してくれました。期待の馬鹿試合発動なるか? という、快調な滑り出しです。

 しかし波乱はあちこちに潜んでおり、これまた早々の2回、左中間にクリーンヒットを放ったノリが、「えええ!! ノリの足で2塁は無理だろー! 気持ちは買うがー!」という感じでセカンドに滑り込み、意外にも際どくセーフ判定。
 このタイミングに、西岡をして「アウトだろ!」と審判に突っ込ませた(多分。そんなアクション。)わけですが、代償は大きかった。臀部か腿の付け根あたりにに異常を訴え、速攻交代となってしまいました。多分肉離れと思われますが、昨日足に死球を受けて結果的に骨折して抹消になった鉄平に引き続き、もしかして今季終了かもしれません(泣)。いやしかし、鉄平、折れてたのによく走りましたわ昨日。
 ところでこの場面でべっちがベンチから出てきたので、やっと直に生存が確認できました。←生存って。

 その後、吉見がたかだか3失点くらいなのに序盤であっさり代えられてしまいましたので、個人的には面白さ半減でした(笑)。なんせ同じ吉見でも(か)じゃなくて(ゆ)なんだから、5回5失点くらい我慢しなきゃダメですよ! 西村さん! と思いました。←ひどい
 不思議と、ビッグイニングがあるようには思えなかったんですよ。あのまま吉見が投げ続けても、似たようなスコアで終わってたような気がしてならない。気のせいかもしれないけど、だって防御率5点台だし(笑)

 逆にラズナーは傷がでかくなりすぎないうちにさっさと代えて欲しかったのですが、結局6失点。5回で100球ばかし投げさせてました。
 今日は特に西岡と全然間合いが合わなくて、っていうか無闇に嫌がっていたのか、2つ目の四球の時(第3打席だったか?)は西岡がかなりイラチ。ボールフォアになると同時に、若干バット投げ気味でした。まぁ、気持ちはわかりましたけど。あれはラズナーが外しすぎ。で次の清田に打たれていれば世話はない、という。(笑)

 そして本日も、守備の白眉は牧田(今日は打撃でも犠牲フライやホームランもあったんだけども)でした! 球際強かったねー。スライディングキャッチ、とてもいいのが2本、惜しいのが1本。元々守備の人なのは重々承知してますが、やっぱり素晴らしいですね。
 守備には打撃ほど波は起きないから、長く生き残るにはやっぱり守備が大事だと思いますので、さらに磨いてほしいです。

 しかし、勝ったのはいいし、高須大先生(またの名を殿下←お公家顔だから)が必殺仕事人の面目躍如とばかりに一振りでお決めになられたのは何よりなんですが、なんせ宏之が……(汗)

 内野スタンドで見送った打球がレフトスタンドに飛び込むのをアホのように大口開けて見届け、「うわぁ入っちゃったよー高須先生ーホームランなんて全く考えてなかったのにー」とか言いながら思わず立ち上がって、グラウンドの馬鹿騒ぎを眺めていたらば、その傍らに、膝をついたまま動けない宏之の姿がありました。
 その肩を西岡が叩き、最後は西岡と今江の2人に引きずり上げるように促されてベンチに引き揚げ、足早にダッグアウト裏に消える宏之の後ろ姿を思わず見送ってしまいました。

 なんか、まるでいつぞやのCS(まだPOだったっけ?)の和巳の姿を彷彿とさせる雰囲気だったですが、あとほんの数試合……立ち直れるのかなぁ……
 個人的にはマリさんにCS行ってほしいので、そういう意味では応援しているのですが、ここにきて2戦連続の逆転サヨナラ負け。抑え初年だしね。今になっていちばん怖いところを知ってしまったんだろうなぁ、きっと。
 仙台ではいまいち成績が良くないらしいと聞きましたが、そんなこと言ってる場合じゃないし。抑えはやっぱりどれだけ引きずらないかが大事なポジションだと思うので、とても難しいことだとは思いますが、なんとか次はすぱっと忘れて投げられるよう祈っております。

 まぁでも、昨日見られなかった高須の姿がフルで見られた上に、今日は前半あんまり合ってないなぁという感じの三振が続いたりしていたのが、追い上げのタイムリー(オーバーランしたけど)に加えて、最後の最後でアレですよ。打ててるときは積極的に打って出るファーストストライクを見逃した上にあっさり追い込まれたので、無理かなーと思ってたんですけど。外野フライで同点か、と思ったら入っちゃうんだもんねぇ。いや、ほんと、信じなくてごめんなさい(笑)。
 オーバーランといえば、内村は最後に執念のテキサスで7回の走塁をチャラにしましたね。しかしこんな展開はそうそうないし、試合によっては命取りのミスともなりかねないので、是非是非もう少し走塁の判断力を磨いてもらいたいところです。走れるのはわかってるんで、体の感覚に少し経験というかロジックというか、プラスアルファしてくれれば。
 ってこんなこと言うとめちゃくちゃ偉そうだ。私。ただの素人なのに。(笑)

 余談ですが、サヨナラの直前、レフト前に抜けようかという打球に飛びついて単打で止めた西岡でしたが、止めたのだけでも普通に良かったような打球だったのにアウトを取れなかったのが心底悔しい感じで、がっくり膝をついていました。
 高須先生に打たれた後の宏之、それと全く同じ姿勢だったんだよねー……。

今季最初で最後の

2010-09-18 23:41:33 | 【野球】ペナント日誌 2010
 仙台遠征です。
 諦めてたのに、ここにきてローテを少しいじってくれたので、運良く隈が観れたのがありがたかったです。見納めかもしれないからねー(笑)

 成瀬との投げ合いになりましたが、2度リードはしてもらうものの結果的に2度追いつかれ、微妙にじりじりするパターン。全体的には悪くはなかったと思いますが、今日は西岡と相性悪かったですね。(って、今季全体的に試合観てないからアレなんだけど)
 ただまぁ、最低限の勝負どころは間違えなかったと思うので、深手は負わなかったけど。そんなにまとまって打ち込まれそうな雰囲気もなかったし。ストレートがけっこう、思ったよりスピード出てました。
 残念ながらまたまた11勝目は逃しましたが、個人的には、この先何があるかわからんので(笑)隈が観れたのは本当に良かったです。はい。

 しかし、同点だし100球そこそこだったんで9回もいくかなぁと思ったんですが……代わった青山がねぇ……
 打たれるのは仕方ないんだけども、なんつっても勝負を選んだはずの角中とまともに勝負できず、お約束のように西岡に打たれたのが非常~~にガッカリでした(笑)。ここでしっかり投げられないんだもんなぁ、勝てないわけだ。とか思ったり。←今季初観戦のくせに(笑)
 でも後ろがなんだか決まってるようで決まらない感じなのがなんとなくわかる気はしました。故障とかありつつも、締めが川岸だったり小山だったり固定しにくかったみたいなので、そう考えると福盛がいてた時はそれなりに形が作りやすかったなぁと改めて思ったりもしましたね。その時々の結果はともかくとしても(笑)

 とりあえず、最後はまさかまさかの宏之大コケだったわけですが。
 先発同士はサクサクいったのに、終わってみたら長い試合でした。なかなかうまいこといかなかったクリーンナップが、最後の最後でようやっと繋がったし(笑)。隈が先発して、ノリのお立ち台観れて、結果としては良い感じにはなりました。あと高須と、(いないけど)藤井が観れてたら良かったんだけどねぇ。

 あ! あと今日は初回にとても大事なプレイがありましたね。牧田! 西岡をホームで刺しましたからね!! 素晴らしい送球、まさにレーザービームでしたよ。久々に鳥肌の立つ守備を見ました。代打出されちゃったけどさ(笑)

 というわけで、一応明日も観てから帰ります。まさかここでよしみゆ(笑)を観ることになろうとは。いろんな意味で楽しみですよ(笑)

「あるキング」(著:伊坂 幸太郎)

2010-09-17 23:59:13 | 【書物】1点集中型
 これは何ヶ月待ったんだったかな(笑)。伊坂作品初読みです。

 プロ野球選手となるべく運命づけられ、成就させたある人間の物語。端的に言えばそういう話です。が、間違ってもスポ根物語ではありません(ということを、読むまで気づかなかった。実は)。
 極端に言えば、現実のプロ野球界がどうであるかということなどは全くの埒外にある、ファンタジーです。強いて言えば、「あるキング」というタイトルが示すように、架空の(いやそもそも小説なので架空なんですが)伝記みたいなものかもしれません。全くカラーは違うけども、銀英伝のようなものだと言えばいいのだろうか?

 基本的に、主人公・王求にはあまり感情の動きは見られません。王になるべくして生まれ、王になり、王のまま生を終える。誰にも真似のできない人生を、なのに淡々と歩んでいるように見える。そこかしこに散りばめられた「マクベス」とか「ジュリアス・シーザー」とかの要素、原典を読んではいないけどそういう匂いはあるんだろうな、となんとなく感じ取れる雰囲気はありました。
 でも王求が「王」であるとともに「人間」だったのだなぁということは、南雲慎平太や倉知巳緒とのやりとりで少しわかります。そして情だけでない、人の心の暗い部分も、王求を取り巻くさまざまなものから見えてくる。そのどれもが、ファンタジックな要素に包まれながらも、生身の人間の姿として描かれているのが印象的でした。物語としては実際には「あるわけない(=ファンタジー)」んだけど、こういう人はきっといるんだろう、こういう人間関係はきっとあるんだろう、という。

 人間は、凄すぎる誰かや自分の理解の及ばない何かに出会ったときは、ただそれに感嘆する心と同時に、それをシャットアウトしたり憎悪したりする心も持っている。
 王求が幸せだったかどうかはわからないし、あえてそういう感情の起伏を抑えて描いている気がします。ただ何か、王求には「使命を果たした」という雰囲気がある。少し哀しい物語かもしれませんが、人の営みは続いていく。それは、残された光といえるかもしれません。
 「野球は続く」。
 南雲から王求へ、王求から次代に託されたものは、どう変わり、どう受け継がれていくのでしょうか。

「アシモフの雑学コレクション」(著:アイザック・アシモフ/編訳:星 新一)

2010-09-12 23:25:38 | 【書物】1点集中型
 blogがすっかり読書メモと化している今日このごろ。

 アシモフは実はまだ全く読んでいません……クラークは少し読んでるんだけど、アシモフはどっから手をつけていいかわからない(笑)。なんとなーく「われはロボット」読もうかなとか思ってますが。決定版あるしね。

 さてこの「雑学コレクション」ですが、まんまです。簡単に言えば小ネタ集。いわゆるトリビアみたいなもんです。地球や太陽系、宇宙についてなどいかにもSF作家らしいところから古代、宗教、軍隊などなどさまざまなジャンルの雑学が箇条書きのように並べられていて、しかも文体がすっかり星氏なので、なんか落ち着きます(笑)。作家という人たちは、こんなにいろんな分野のいろんなことを知っているんだなぁと改めて感嘆しました。
 本自体はもう20年以上も前のものなので、フェルマーの最終定理がまだ証明されていなかったりするんだけど、それはそれで時代がわかって却って面白いと思います。自分の知らないことだらけなので、他にもそういうネタはあるかもしれない。そう考えるとすべて鵜呑みにして覚えるわけにはいかないけど、その先の自分の興味を手繰っていくきっかけになってくれるかもしれない知識の宝庫。日めくりカレンダーをめくるような感じで、少しずつ読んでみてもいいかも。ただ、さらっと読み流しただけで覚えてないことはいっぱいあるんですけどね(笑)

「ダブル・ジョーカー」(著:柳 広司)

2010-09-10 00:21:36 | 【書物】1点集中型
 柳氏の作品は「トーキョー・プリズン」が初読みでした。で、次がこれ。ほんとはシリーズ(?)1作目の「ジョーカー・ゲーム」から読めばよかったんだけど、何を間違えたかこっちを先に予約入れちゃってました。ので、結局こっちを先に読んでしまった。
 でも、「ジョーカー・ゲーム」を知らなくても全然問題ない感じで読めました。それも、短編集なこともあってわりとさらっと。どちらかというと人物像よりもスパイの手口を読ませる、ミステリ小説っぽい雰囲気。「D機関」を率いる結城中佐だけは違いますけど、まぁ彼はある意味人間ではない感じなので(笑)。

 ただ、最後が「ブラックバード」、そしてそのエンディングがこれ、というのは著者の、戦争に対する想いの表現でもあるのかなと思いました。戦争が生み出すもの、ぶつけどころがないやるせなさは、「トーキョー・プリズン」の読後にも似ています。読み応えは「トーキョー・プリズン」の方があったけど(長編だしね)。
 でも「ジョーカー・ゲーム」では結城中佐やD機関がどのように描かれているのか、興味の湧く1冊ではありました。大人向けアニメとかにしたら面白いかもしれない。

「閃光」(著:永瀬 隼介)

2010-09-08 22:55:38 | 【書物】1点集中型
 映画化されるということで、本屋で面出しされていたので読んでみました。そしたら、図書館の蔵書は古い方の文庫だったので、表紙が違ってました。新しいのの方は偽装白バイ隊員のバストショットなのでストレートでわかりやすい。古い方は、作中に出てくる「閃光」そのものを表現している感じです。

 さて中身ですが、昭和43年のいわゆる「3億円事件」をモチーフにした小説です。ずっしり重厚。文庫自体も分厚い。600Pの1冊ものは久しぶりだー。(最近分冊多いから)
 現代に起きたある殺人事件が、紐解いていくと34年前の「3億円事件」(作中の事件は微妙に本物とは変えてあります)の実行犯と目されていながら逮捕されなかったかつての少年たちに繋がっていき、さらに殺人が連鎖し、そして警察組織の保身が絡み、それらを独自に暴こうとすることによって刑事でありながら警察に追われる主人公の老刑事・滝口と、滝口とコンビを「組まされた」片桐。「3億円事件」を追っているというフリーの記者・宮本。正体不明の、でも確実に事件に繋がっているホームレスの老人。過去と現在が緊密に絡み合って、わずかずつ解き明かされていく2つの事件の姿。

 ストーリーの話ばっかすると単なるネタバレになるのでやめときますが、人物の作り込みが程よい感じで、入り込みやすいし、入り込みすぎない。タキさん(滝口)もいいけど、宮本もいい。個人的には若干、宮本を応援したくなったぐらいですが←入り込みすぎなんじゃないの?(笑)
 で、一瞬人情が出るかと思わせておいてひっくり返す、警察組織(の暗部を体現する、たとえば三浦)の冷徹っぷりも、その腹に重く響く作品の雰囲気を作っている感じがして、読み終わってみると「いい演出だなあ」って感じです。

 緒方は宮本に何を囁いたのか、どこへ流れ着いたのか。片桐は安息を手に入れたけれども、だからこそ、死んでいった者たちや残された滝口の姿がより哀切な、胸のどこかを鈍く刺すような狂おしいものにさえ見える。最後には、「34年前」の閃光の中を疾走した少年たちの、乾いた狂気だけが残った気がしました。
 この「救われなさ」が、時々妙に恋しくなるときが、私には何故かあるのです。だから「リヴィエラを撃て」(by高村薫)が好き。