life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「心理学的にありえない(上)(下)」(著:アダム・ファウアー/訳:矢口 誠)

2018-12-30 21:53:37 | 【書物】1点集中型
 前作「数学的にありえない」が気に入って今作も読んでみた。

 ……のだが、しばらくはなんか設定というかストーリーの土台を延々と語ってるような感じ。なので、どういうタイプの話なのかはなんとなくわかるんだけど、なかなか展開しないなぁという印象。前作は初っ端から崖っぷちだったから(笑)スピード感あった分、その反動で受けるイメージか。あと、群像劇状態かつ複数の時系列で進むから、全体の繋がりが完全に明かされない状態が続くからかな。その意味では、上巻は長大なプロローグといった様相かもしれない。
 でも下巻、ラズロが反撃を可能にする鍵となるものを見出して以降、俄然テンポが上がった。前作の雰囲気を思い出したし、名残も出てきたし。終盤はほとんどサイキック・ウォーの様相。まあ、全体としては心理学というよりは超能力な話なので、前作よりは学問的要素は強くないかも。それ自体は問題じゃないんだけど、そのぶん「心理学的に」は若干、違和感は残るかな。

 そしてちょっと(だいぶ?)気の利いたどんでん返しもありつつ。そういえば議員の名前、出てなかったんだなあ。すっかり思い込まされてしまったよ(笑)。終わってみれば、わかりにくい部分が長かったのはこのせいか! という感じだった。おかげで、久々に何もしない休日だったこともり、下巻は一気読みしてしまった。
 結局は3部作になるそうで、今回はあからさまに続編ありを示す結末になっている。ということは2作がリンクする第3部になったりするのかな。そうなら楽しみも増すのだが。ケインの活躍はまた見てみたいし、スティーヴィーも面白いし。

「解錠師」(著:スティーヴ・ハミルトン/訳:越前 敏弥)

2018-12-09 23:30:28 | 【書物】1点集中型
 ずっと気になってはいたものの読んでいなかった本の一つ。「ミルフォードの声なし」あるいは「解錠師」マイクル。幼いころにその身に起きた何か重大な事件によって、彼は声を失っている。その謎に近づいていくために、物語は解錠師となって犯罪に関わるようになった彼と、声を失ってから解錠師となるまでの彼、2つの軸で進んでいく。
 というわけで、一見クライムサスペンスと思いきや、読んでみたら本質は青春物語って感じでしたね。ヤングアダルト世代に読ませたい一般書向けとしての受賞があるそうだけど、それもうなずける。作者はもともとハードボイルド系作家なんだそうだが、解錠師としてのマイクルの姿には確かにハードボイルド的要素もある。彼の仕事を取り巻く大人たちの姿は実際、容赦ない。一方で、リート伯父の不器用だけど温かみのある存在感と、鮮烈な印象の少女アメリアとの恋が、マイクルの素の心を描き出していて、単純にハードボイルド一辺倒にはならない。それが、ハードボイルドと言いながらも比較的読みやすい感じがする一因なのかな。終わり方もハードボイルドよりは青春小説な雰囲気だったし、後味は悪くない。個人的には「卵をめぐる祖父の戦争」みたいな読後感かもしれない。

 ハッピーエンドよりそうでないものの方が余韻があって好きなことが多いんだけど、青春だと思えばこれはこれでいいかな。イギリス小説だったらこうはいかなかったかも知れないけど(笑)←それはそれで好きだけど。