life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「すばらしい新世界」(著:オルダス・ハクスリー/訳:黒原 敏行)

2013-08-28 23:32:39 | 【書物】1点集中型
 オーウェル「一九八四年」と並び称されるディストピア小説、と言われて興味が湧かないわけがない、ということで借りる。←やっぱり買わないのか(笑)←本屋で見た光○社の新訳文庫のお値段が……

 それはそれとして、見事に絶対的に階級化された社会構造でありつつ、もともとその階級にしか適応しない人間を「作る」ことによって、逆説的に全ての人間が結果として幸福をもたらされるようなシステムができ上がっている世界。消費の動機となる欲望さえも「条件づけ」によってコントロールされ、副作用のない麻薬によって好きなときに充分な幸福感を得ることもできる。不幸だと感じる隙は、どこにもない世界。
 社会を「平穏に」動かすためだけの役割を淡々と、何の疑問も抱くことなく、まさに歯車が規則正しく回るようにこなす生活。その世界で「正常」な人間であればあるだけ、考える意思ももたないように見える。果たして、それならその存在は本当に「人間」である必要があるのか。

 「万人の幸福が社会の車輪を持続的に回していく。真理や美にそんな力はない」「幸福にも代価がある」――モンドの言葉はそれだけを切り取れば嘘ではない。モンド自身は、自分の幸福を捨てて社会の幸福に奉仕する道を選んだ。人間への害悪や悩みの種となるものをすべて根絶した社会を維持することに対して奉仕する道を。
 幸福とは結局何なのか。不幸を知らないことは本当に幸福なのか? しかし、誰も傷つかずにすむなら、本当はそれに越したことはないのではないか?
 モンドと、おそらく読者の立場を代弁してもいるのであろうジョンとの会話の噛み合わなさを見るにつけ、モンドの理論に破綻がないことにぞっとして、そしてジョンがモンドを論破する手立てを見つけられなかったことに対して、さらに薄ら寒さを感じるのである。

 具体的なイメージとして近いのは伊藤計劃「ハーモニー」の世界。「著者による新版への前書き」の「効率性と安定性が追求される中で専制的福祉国家へと発達するユートピア」なんて、まさに。伊藤氏もやはりこの作品を読んでいたのかなぁ。そして伊藤氏なりの「専制的福祉国家」が、かの作品の舞台として描かれた……なんて、いろいろ想像は膨らむ。(笑)

「ルール」(著:古処 誠二)

2013-08-24 23:26:12 | 【書物】1点集中型
 冒頭の数ページを読んで「読んだことあるような気が……いや絶対読んでる」と思ったのだが、記憶にあるのに記録にない(笑)ので初読ってことで、とりあえず最後まで読む。

 太平洋戦争末期のルソン島での日本軍。悪化し続ける情勢と行軍環境のなかで、兵も将もじわじわと追い詰められていく。ゲリラに襲われ、マラリアに冒される。食糧は尽き、島の自然から手に入れられるものも本当に微々たるものでしかない。でも、食わなければ生きていけない。
 極限を、臨界点を越えたときの人間には何をすることが「できる」のか。「できる」ことと「してもよい」ことの境界を引くのがルールだ。踏み止まる者と踏み越える者、そして踏み越える理由。踏み越えた者の醜さから目を背けても、そこには力尽き息絶えた者の無惨さと、踏み止まって生き続ける者に対する非情なまでの苛酷さしかない。さらに物語の最後には、恐ろしくも哀しい落とし穴がある。
 自分が八木沢なら、鳴神なら、姫山を否定できるか否か。いまの時代に生きる者にとっては想像を絶する、あまりにも重い命題である。しかしだからこそ、正面から受け止めなければならない命題でもあるはずである。

久々に近場の展覧会に行きましたよ。

2013-08-15 19:21:24 | 【日常】些事雑感
 シャガール展。点数はまあまああって良かったんだけど、そのわりに展示スペースが窮屈な感じでちょっとしんどかった。大きい作品は、しっかり全景を堪能できるようにもうちょっと大きいスペースがほしいなぁと。

 でもやっぱり色使いが本当に、誰にも真似できない素敵さ。ステンドグラスの実物が見てみたくてたまらなくなってしまった。サーカス関連の下絵(アルルカンとか女曲馬師とか)あたりからいろいろと見えてくる布や紙でのコラージュ表現も。あと、「ハダサー医療センター附属シナゴーグのステンドグラスのための最終下絵」(長いな)にあった、彩色したダビデの星にも個人的にはすごい惹かれた。
 油絵やステンドグラス以外にも、銅版画や彫刻、陶芸、衣装デザインと幅広く取り組んでいるのも実は今回、はじめて知った。陶芸あたりは造形のユニークさもおもしろい。それから、どれをとっても温かみが伝わってくる恋人たちのモチーフ。シャガールという芸術家の、今まで知らなかったたくさんの側面を見ることができたのはすごく、私自身はよかったと思っている。

 毎年、年1回くらいしか実は来ることがないのだが(いまいち、気になる展覧会が巡ってこないから)秋に「森と湖の国 フィンランド・デザイン」があることが判明した! たぶん去年だかにサントリー美術館でやってて、行きたかったけど行けなかったものと同じ。これは嬉しい。ので、それには絶対に行く予定。

「銀河ヒッチハイク・ガイド」(著:ダグラス・アダムス/訳:安原 和見)

2013-08-12 23:21:53 | 【書物】1点集中型
 なんでだか全くもって忘れてしまってたけど、読みたいリストに入っていて、そろそろ文庫で読めるSFにいくか~と思って借りてみた。まずなんで表紙がクジラなのかと思ったら……読んでみて、ああそういうことなのか(笑)と。ネタバレになるので詳しくは控えるが。

 大真面目なSFで限りなくアホらしくてナンセンスなドタバタ劇が繰り広げられる。とにかく全体において、数々のハプニングも登場人物の会話もいちいちまるでお笑いである。「タイタンの妖女」をなんとなく思い出しちゃう感じで、あれをもっと笑いの方向のシフトさせるとこうなる、みたいな。でもこの会話の雰囲気、実はすごく好きである。マーヴィンのどうしようもないキャラ設定とか、かなりいい味(笑)。
 細かい部分には数値の間違いなどもあるそうだが、設定というか物語世界そのものはしっかりしている印象。だからこそストーリーや会話のくだらなさが引き立つというか、たとえて言うなら「サラリーマンNEO」みたいな雰囲気かもしれない。いやしかし、このぶっ飛びぶりで番組やっちゃうBBCって。さすがは「ドクター・フー」を生んだ国だ(笑)。まあ「ドクター・フー」はぶっ飛んではいるけど意外に重い部分もあるので、お笑い要素はそんなに強くないが(でもエイリアンの造作が絶妙にチープだったりもするけど。それがまた癖になるというか)。

 何も考えずに笑いたいときに読めるという点では、タマキングの本といい勝負。このくだらなさにハマってしまって、レストランでじゃあ何が起きるんだよ今度は! とツッコミ入れつつすっかり続編も読む気になっている。でも図書館には次作までしか入ってないんだよなー(泣)←買えよ。

「等伯(上)(下)」(著:安部 龍太郎)

2013-08-08 23:02:24 | 【書物】1点集中型
 日経でちらちら目にしていたものの断続的だったのでよくわからず、このたびやっとまとめて読んでみる。

 武家から染物屋の養子に出され、絵仏師として働く長谷川信春(等伯)が、実家・奥村家の兄から持ちかけられた話がきっかけで、政争と戦の渦中へ否応なく巻き込まれていく。京で絵師になりたいという想いを抱きながら、歯を食いしばって怒涛のような苦難の道を進んでいく。
 暗めの印象が先に立つ等伯だけど、この物語の等伯は全然違う。政治に翻弄される信春が流転の中で絵師として得るもの。人物の内面を描き出そうとするに至るまで、そして描き出した先に背負うもの。「私が届かなかったところまで」――日堯上人の言葉が読む側にもずしりと重い。
 信長の描かれ方は信春にとっては完璧な敵役である意味一面的だけど、最後に近衛前久が救っている。この人のキャラクターがまた良くて、出てくる場面が楽しみになったほどである(笑)。

 上巻では、狩野永徳はずっと信春の憧憬の念(あるいは嫉妬)だけでぼんやりと名前しか出てこなかった。それが前久の思わせぶりな言葉でうまく下巻に連れて行かれて(笑)、永徳とどう対峙することになるのか期待しつつ下巻を読み始めてみると……
 なんといっても、永徳の悪役っぷりが堂に入っている。加えて、そんな師と父の間で揺れる長谷川久蔵の姿も、相当に出来た息子として描かれている。だからなおさら、永徳と対等に渡り合おうと等伯が歯を食いしばって描き、空回りしながらも世の中に挑み続ける姿に感情移入してしまったり。

 でも永徳もただの悪役では当然なくて、狩野を背負う者としての苦悩がある。久蔵はそれを理解しているけれども、最終的には父を選んだ形になる。永徳も等伯を羨んだに違いないであろうと思うと、等伯の実兄・武之丞や夕姫のように、最後にはやはり憎みきれない人間らしさも心に残る。ただ、時代が時代とは言え武之丞にも夕姫にもちょっと負けすぎじゃないかと思うけど。又四郎(笑)
 そんな争いの中で、利休や春屋宗園、前田玄以、そして妻である静子と清子など、さまざまな人々が求道する等伯を陰日向に励まし支える姿もそれぞれに心を打つ。
 「自分の生涯は死んだ者たちによって支えられている」。言葉にすることは簡単だけど、等伯はそれを描き出す絵師。「死んだ者を背負ったまま」無の境地を見出したがゆえの「松林図」であると思えば、この絵が人を惹きつけてやまない理由の一端を垣間見た思いにもなる。

 人と人との対立の構図がかなりはっきりしている描かれ方なので、あまり難しく考えずに状況を理解しながら読み進められた。この物語に出てくるほかの人物を安部氏が描いたらどうなるのかというのも気になったので、いずれ「信長燃ゆ」あたり読んでみようかなぁ。

「子供たちは森に消えた」(著:ロバート・カレン/訳:広瀬 順弘)

2013-08-07 19:19:05 | 【書物】1点集中型
 チカチーロってどっかで聞いたことがある名前だなぁと思ったら……そうだ、「チャイルド44」のモチーフにもなってた事件だった。
 8年間で50人にも及ぶ殺人を犯したひとりの男。小説で読むとどこかでフィクションだという頭が働くけど、あらためてノンフィクションの形で事実としての事件を見ると……いや、それでもまだ本当のこととは信じがたい、そのくらい現実離れしているとしか言いようのない事件。

 長きにわたる事件の捜査の様子から犯人逮捕、さらには裁判まで。このような事件はあるはずのない社会でなければならないスターリン体制下では、事件をおおっぴらにして捜査を行うこともままならない。それが犯人を利することになり、犠牲者を増やし、果ては冤罪までも生んでしまったのである。
 チカチーロを擁護するつもりはないが、当時の体制が捜査を難しくしていた要因でもある点は、文中から容易に理解することができる。もっと早くに犯行を止めさせることができたはずなのにと思うと、チカチーロを哀れに感じる部分もある。精神に病を抱えたチカチーロが罪を重ねることになったことは、被害者やその遺族にとってはもちろんのこと、チカチーロ自身にとっても不幸だったと思うから。事件の異常さとともに、社会環境のあり方を考えさせられる強烈な印象の残る本だった。

市内に戻って晩ごはん。

2013-08-03 23:34:36 | 【旅】ぼちぼち放浪
 ふらふらしながらたどり着いた「南欧創作料理 Coctura」というお店。カウンターだけでこぢんまりしていて、ジャズが流れてたりする。
 毎度毎度、こういうお店なのにお酒飲まなくてすいませんという感じなんだけど(笑)。でもお料理はおいしかった! 写真は前菜盛り合わせ。牡蛎のスモークが濃厚だったなあ。ササミのカルパッチョも。

 本日のお魚が鱧ということで、冷製メニューの洋風チリソース? だったかな? でいただいた。ソースのベースはガスパチョ。鱧は湯引きで、ほんのり梅風味。まさに鱧! あとは黄色いフルーツトマトみたいなトマトど、茄子の煮浸しにブイヨンのジュレを絡めて。ガスパチョと梅が合うのが大発見。おいしい……

 結局肉料理は頼まなかったけど、出されていたものを見ていたら、付け合わせにも地物の野菜をふんだんに使っていておいしそうだった。実際、お客さんも「おいしい!」を連発していたし(笑)
 その代わりにトマト系のパスタと、気になったのでヴィシソワーズのパスタを。トマト系はオリーブとケッパーに唐辛子のきいたピリ辛ソースが、やわらかい鰯の切り身が良く絡んでた。ヴィシソワーズの方は意外に濃厚。でも好きな味だったので、がつがつ食べてしまった(笑)
 また来る機会があったら、今度はお肉も是非! いただきたい。

唐招提寺から歩いて、

2013-08-03 22:57:14 | 【旅】ぼちぼち放浪
 薬師寺に行った。
 小さいサイズで写真撮るの忘れた(笑)。でも、朱と緑がこれまた青空ととてもいいコントラストになって鮮やかだった!

 しかし唐招提寺といい薬師寺といい、奈良を代表する名所なのに、人がえらい少ない(笑)。予想外であった。

 で、そのあとはちょっと足を伸ばして、桜井の長谷寺へ。鎌倉(以外にもたくさんあるらしい)の長谷寺の親分なんだそうな。
 だからけっこう大きなお寺だし、駅周辺は一応温泉街みたいな感じなのだが、これまたえらく静かで(笑)。でも、道すがら見つけたお店「長谷路」が、建物が文化財指定になっておりとても味があったので入ってみることに。

 冷たい素麺をいただいた。土地柄、たぶん三輪素麺であろうかと。麺のコシが素晴らしい……そして、めんつゆが旨かった! 無駄に甘くないのがいい。売ってないものかしらと思った(笑)。売ってなかったけど。
 柿の葉寿司が2つついてたのも嬉しかった♪