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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「暗殺者の悔恨(上)(下)」(著:マーク・グリーニー/訳:伏見 威蕃)

2021-09-13 22:37:35 | 【書物】1点集中型
 待ちかねていたグレイマンシリーズ。って、次はCIAのお仕事に戻るんじゃなかったっけ? というところから。しかもジェントリーのモノローグが冒頭から延々続くという……あれ? このシリーズこんなんだった? とか思いながら、でもとりあえず事件を追っかける。

 今回のターゲットは1995年にボスニア・ヘルツェゴヴィナで起きたジェノサイドの首謀者として国連やNATOから手配されているセルビアの元将軍で、当然ながらグレイマンに憤怒を抱かせるに充分な経歴。その仕事はいかにもグレイマンらしく片づけたものの、そのこと自体が、元将軍がかかわっているという人身売買の商品として監禁されている23人の女性たちに危害を引き起こす一因となってしまうという、なんとも皮肉な事態に。そこにで当然自らの責任を感じてしまうグレイマンが、単身彼女たちの救出に挑む――というまたまた普通に考えたら不可能なミッション(しかも自分で自分に課しただけの)が、今回の本題らしい。
 このグレイマン独自ミッションの同行者は、拉致された女性たちのうちの1人の姉だという犯罪アナリストのタリッサ。武闘派でもなければ諜報のプロでもない若干心もとない相棒であるが、度胸は何とか。そのサポートを受けつつ、連れ去られた女性たちを救うべく、彼女らが乗せられている船――つまり紛うことなき敵地に乗り込むのである。

 で、今回はどうやって不可能を可能にしてくれるのか、ってところでジェントリー自身からCIAに交渉してみたりして。スーザンは相変わらず愛想ないし、ハンリーは杓子定規だし、どうしてもハンドリングされないジェントリー捕獲作戦は始まるし(笑)。でもそういうときに出てきちゃうのがザックなんだよな。今回は直接表舞台に出て来るわけじゃないけど、なのに本当にいい味出している。もはやジョーカー的存在だと思う。ザックもそうだし、ザックつながりの臨時チームの面々も、ジェントリーの正義感に共鳴する男前揃いである。
 一方で、タリッサの妹ロクサナはそれこそ敵地で1人命懸け。もともと戦闘能力のない素人女子なのに、タリッサ以上に、下手したら今回はジェントリーをしのぐヒーロー(ヒロインだけど)かもしれん。タリッサをはじめ、数多くの女性たちを脅かしていた悪役が相変わらず同情の余地のない悪役なので、こちらも良心に何の仮借を覚えることもなく(笑)ジェントリーの処置に快哉をあげることができるわけである。CIAとの抜き差しならない関係(ハンドラーとしてのスーザンを好ましく思える要素がまだ全然見つからない)はあれど、ジェントリーのミッションはいつもある意味、水戸黄門的展開なんだよね。だから読みやすいんだけど。

 ただ今回、ジェントリーは自らの手ですべての問題を解決できたわけではない。彼の働きかけによって彼以外の手で解決される兆しはあるけど、今のジェントリーにできることは「願うことだけ」。ウィンズロウ作品じゃないけども、これって、今もどこかで起きているこうした闇ビジネスに対しての作者の思いなのかもしれないなあ、と思ったりもする。

 ところで実は1作すっ飛ばして読んでしまっていたらしい。だから最初、あれ? って思ってしまったのだった。なので次は覚えているうちにそっちに戻ってみようかなと。ザックもゾーヤも出てくるみたいだし。