life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「去年はいい年になるだろう」(著:山本 弘)

2011-09-23 21:12:12 | 【書物】1点集中型
 どっかの新聞広告で目にして、ちょっと興味を惹かれて借りてみた。
 物語は、24世紀からタイムトラベルしてきたアンドロイドたちが「9.11」直前の2001年に降り立ち、同時多発テロを阻止して「歴史を改変した」ことを宣言する――というところから始まる。ちょこちょこと量子論など聞きかじるに及び、タイムトラベルやパラレルワールドものが意外に非現実的ではない気が(個人的に)してくる昨今、そういう世界をストレートに描いている物語なので、設定や流れには妙に納得しながら読んだ。

 なにしろ、「君」に向けて物語を綴っていく主人公「僕」は、作者自身である(という設定)だけでなく、周りに登場する人物がほぼことごとく実在の人物だったりする。未来、つまり2002年以降の「僕(=作者)」が未来で書いた(書くことになっている……というか、2011年現在では当然すでに発表済みの作品ばかりなわけだが)作品群についての話題だったり、「と学会」や「SNE」の話だったり、同業者さんたちの話であったり。
 私自身は山本氏の作品はこれが初読なので、わかるようでわからない箇所もあるんだけど、実際そんなに業界を深く知らなくても読めるようにはなっている。多分。
 山本氏も当然、内輪ネタを書くためにこの作品を書いたわけではないはずで、作中で動いているのが実在の人物や団体であり、「未来に起こった」出来事として、誰もが知っているネタがいくつも出てくるからこそ、歴史が改変されていく過程のリアリティを生んでいるような気がする。

 それと、タイムトラベルしているのが人間ではなくアンドロイドだという点。アンドロイドと人間の「感情」の決定的な違い、究極のところでは互いに理解できないところは必ずある、という点がうまく利いていると思う。だからこそ、アンドロイドたちはこれからも歴史改変をやめることはないのであろうし。全く悪気はないままに。
 もしかすると、タイムトラベルの長所短所をごくごく当たり前に描いた物語なのかもしれない。そして、現代のヒトをあらゆる点で上回る能力を持った慈悲深き存在が、人間たちのために良かれと思って行う慈愛に満ちた行為は、実は幸せだけをもたらすものではないということ。であれば、人間はやはり自らの意思で自ら選択した道を進むしかないのではないかと、SFの世界を借りてそう言っている物語であるようにも見える。

 ノリはライトノベルっぽいなと思ったけど、作中で作者が自身を「ハードSF寄り」と言っていた意味はなんとなくわかった。反重力の話とか、最後の戦闘シーンとか。でも、エピローグの2人のノリはやっぱりライトノベルかも。(笑)

「量子コンピュータとは何か」(著:ジョージ・ジョンソン/訳:水谷 淳)

2011-09-18 23:24:48 | 【書物】1点集中型
 私がこういったサイエンス系の本をちょこちょこ読む気が起きるようになったのは、本当にサイモン・シンのおかげ。ありがたい話です。

 というわけで、「暗号解読」にもちょろっと出てきた量子コンピュータ。現代最強の暗号であるRSA暗号を破るものがあるならそれは量子コンピュータであろう、というところから「で結局、量子ってなんなのよ? なんで物質に1と0の『重ね合わせ』なんていう状態が存在するの?」というわけでたどり着いた本。しかし、粒子が何故重ね合わせ状態を持つことができるのかという根本的な疑問は、結局のところ文中で述べられている通り、

 どんな物体もここかそこかのどちらか一方に存在し、時計回りか反時計回りかのどちらか一方こうに自転している。原子の世界では二つが共存しうるということを理解するには、人間の視野の狭さを自覚する必要がある。宇宙はわれわれがどんな法則を信じているかなどを気にしてはいないのだ。必ず二つの状態のどちらか一方にあるはずだという人間の直感は、極小の世界を知らない生き物の持つ偏見にすぎない。
(第3章「鏡遊び」より)

 ……つまり「そういうものなのである」と理解するしかないのだな、ということがわかった……ような気がする、多分(笑)。

 そういう量子論や量子力学を前提として、その重ね合わせを利用して、今までできなかった(というか、天文学的に時間が必要になるとされている)計算をやろうというのが量子コンピュータで、その実現には、道具となる原子や光子を適当な時間、適当な状態で保存し続けるということが非常に困難であるという壁がある。しかし、確かに困難ではあるけれどもおそらく不可能ごとではないという「手がかり」が掴めている段階に、現代はあるのだろうと思われる。

 でも最終的には量子コンピュータの実現よりも、「だから『量子テレポーテーション』も理論的には可能である」というところとか、「並行して行われる計算はそれぞれ、別々の宇宙で実行されている」という、量子力学の「多世界解釈」とか、そういう話に興味を誘われたりした。まさにSFの世界だなぁと。
 そして、実はパラレルワールドって架空の世界ではなく、本当に今、自分が生きているこの宇宙と「重ね合わせ」の状態で存在しているということが、理論上はありえるんじゃないかと、そんな空想もしてみたくなるのが、私にとっての「量子」の世界だったりする。

「永遠の0」(著:百田 尚樹)

2011-09-11 23:15:20 | 【書物】1点集中型
 これも順番を相当待った(笑)確か。
 太平洋戦争の最前線で、生死をかけて戦った人々の物語。解説が児玉清氏で、さらに実は氏が零戦ファンだったという話もあったりするのがまたなんとも……。
 司法試験浪人の健太郎と、フリーライターの姉・慶子が、数年前まで存在を知らなかった「実の祖父」宮部久蔵の姿を追って、宮部とともに海軍に在籍した人々を訪ね、調査するという行為を軸に展開する物語。

 最初の取材で受けた「宮部は命を惜しむ卑怯者」という像が、次々に取材を進めていく間にだんだん変化していく。妻のために、娘に会うために、生きて戻りたいという思いを、あの時代の日本軍にあって臆することなく口にするということの重大さが、読み進めていくにしたがってより強い印象を持つようになってくる。そして宮部の一級の飛行・空戦技術が、何より生きるために必要であったことも、自分だけではなく自分の周りに生きる人々をも誰一人として失うまいとする強い意思を持っていたことも。さらに、その思いを肌身で感じ取った人々が、宮部が己に対してそう思ってくれるように、宮部を死なせまいと決意することも。
 取材形式の手法であったり、取材対象者の語りをメインにある人物を浮かび上がらせていくという展開と、そうして明らかになっていく人物の雰囲気には、「壬生義士伝」を彷彿とさせるものがあった。

 物語が大詰めに入ってくると、宮部と彼を語る人物たちとの関係性が明らかになっていくことで、さらにドラマチックな展開になる。ここまで徹底的に繋がると、ストーリーとして「できすぎ」感もないことはない。が、それでいて最後はただ清々しく、心洗われる思いにさせてくれる。「ちょっとできすぎだよ~」って笑いながら涙させるぐらいの力が、宮部の生き様にはあるのだ。だからこれで充分なのである。

 唯一惜しいと思ったのは、新聞記者・高山のキャラクターの底が浅かったこと。「特攻=テロ」という極論も含め、展開上必要な人物だったのはわかる気がするので、敢えてそうしたのかなと思うけど……ただ、特攻についてはものすごく偏った知識しか持たず、素人のような考え方だったことは、慶子をして「優秀なジャーナリスト」と言わしめる位置づけのキャラクターとしては若干、説得力に欠けたと思う。
 言ってしまえば高山は、戦争を、特攻を知らない世代が抱きがちな誤解を体現した存在だったのかもしれないけども。でも、彼の前提が「ジャーナリスト」だっただけに、そこはちょっと違和感があった。

 でも、この点を差っ引いても、感銘を受けることのできた物語であったことは確か。彼らは「国」のために命を燃やしたのではなく、「人」のためにこそ命を捧げたのだろう、と思う。心が荒んでるなぁと思うときに、読み返したくなるような気がする。

「星を継ぐもの」(著:ジェイムズ・P・ホーガン/訳:池 央耿)

2011-09-05 23:19:58 | 【書物】1点集中型
 月で発見された遺体は、「5万年以上前の"人間"」のものだった――端的に言えばSF+ミステリの構造。

 5万年以上前に、現代のヒトとほぼ同様の生物が、月面で活動していたという大いなる謎。これに対し科学のさまざまな側面からアプローチが繰り返されて、ついにすべてがひとつの答えに収束するさまは圧巻。単に月や木星やガニメデなどの「宇宙」だけを向いているものではなく、生物の進化といった部分も絡んでくる。
 解説にもあるように、「科学や技術について語るときの様子は、(略)嬉々としているのが感じられる。そして、ストーリーを語るよりも、アイディアを語ることが、中心になっている。」……まさにこれが、なるほどハードSFである。謎解きの手段のひとつひとつに、科学研究の手法というものをまざまざと見せつけられるような思いがし、名作と呼ばれる理由もわかるような気がした。

 それでいて、打ち捨てられるコリエルのリスト・ユニットで終わるエピローグは叙情的でもある。でもって、これが「ガニメデの優しい巨人」へ続くための布石になっていくんですかね。
 というのも、この作品で解かれた謎が、実は解かれただけで終わらない3部作になっているのだそうな(初めて知りました。すみません)。じゃ、やっぱり続きは読まなきゃいけないんじゃないだろうか(笑)。間を空けてはいけないと思うのだが、先に予約してる本が回ってきてるんだよ……。でも、なるべく早く次を読んでみよう。このお話の内容を忘れないうちに。

世界陸上。全米OP。とかとか

2011-09-04 23:58:56 | 【スポーツ】素人感覚
 世界陸上は始まって、終わってしまった……。
 ものすごく端的に言うと、ボルトのフライング@100mファイナルに始まり、ジャマイカWR更新@4継に終わったんだけど、終わってみると早かったなーと。

 しかし、男子4継のファイナル以上に見ててすごすぎて笑ってしまったのが男子マイルリレー。アメリカのアンカー(メリット)の走りがものすごい。3位につけた4コーナーで、内からは抜けないと見るや、ホームストレートでガッと(そんな擬音が出そうな印象)アウトに出て前2人をだ――っと抜き去ってしまった。あれは忘れられない(笑)

 でも室伏のすばらしい投擲を見られたり、白人だって大躍進! な男子スプリント(ルメートル@フランス)があったり、日本でも男女スプリント陣(高平・斎藤&福島)がようやっとSF進出を果たしたりと、喜ばしかったりちょっとだけほっとしたりという結果もあった。

 が、本日最終日の男子4継は、ううむ……やっぱりどんどん道が厳しくなっていくなぁと思わされた。女子はまだまだファイナルが見えるレベルじゃないけど、男子はね。過去のナショナルチームの実績があって、それを背負って走らなければいけないし、でも世界のレベルはどんどん上がっていて、肝心の走力でいうと世界のレベルアップのペースについていけてないというのが正直なところだと思う。
 今回一応、シーズンベストは出てるんだけど……でも一歩足りない感じは、レースを見ていても、すごくした。って周りが速いから当たり前なんだけども(笑)
 ただ、フランス(2着)のタイムには手が届かないわけではないとも思うので、それがまたジレンマだったりする。というか、そのくらいのタイムが出せないとこの先が難しいということでもあるけど……。結局、レース後の高平のコメントがすべてを物語っているんじゃないかと。彼のコメントはとにかく客観的で、短距離陣のリーダーとして、常に俯瞰したものの見方をしてるなーと思う。高平自身が結果を残すことも当然必要だけど、若い選手たちも本当の意味で高平の意識レベルに早く追いつかないと、と思う。

 ロンドンまで1年、長いようで短いと思うのだが、今回思うような成績を残せなかった選手がどうやって次のステップへ進んでいくか、ハラハラしながら応援したいと思います。

 で、その裏で(時差がね。時間帯真逆ですからね)全米OPが始まっている。ナイトセッションの経過を辛うじて追えるくらいの見方しかできてないのだが、やっぱり気になるのはロジャーがちゃんとSFまで上がれるかということで……
 いや、ウィンブルドンがね。あのQF、ストリーミングで見てたんだけど、まさかツォンガに2 sets upからひっくり返されるとは夢にも思わなかったから。タイブレイクを制して、上がるかな? と思ったペースが、見てる側の思うようには上がらなかった。
 というか、ツォンガがあの試合、ゾーンに入ってたんじゃないかと今も思うのである(笑)。だってツォンガといえば、winnerも多いがそれ以上にミスもしますよってタイプだと思ってたから~(数年前、全豪OPでジョコとのファイナルまで勝ち上がったときの印象がものすごく強い)。でもあのウィンブルドンの試合は、全然ミスしないじゃん! どうしちゃったの! って、見てて何度も思ったのだ……。サービスも良かったし。フェデラーがそんなに悪いとは思わなかったんだけど、それ以上にあのときのツォンガには全然つけ入る隙が見当たらなかった。

 でもそんなあのときのツォンガも、目下向かうところ本気で全く敵なしのジョコには通用しなかったらしかったし、そんなジョコはファイナルでは予想外にあっさり(個人的にはもうちょっと競ると思っていた)ナダルを破ってしまうし。
 しかし、そんなジョコに今季初めて土をつけたのがフェデラーで、そんな試合になったローランギャロスのSFこそ見たかったのに、それが見れなかったという悲しさ。時間帯が悪かったんだよね、確か……。ファイナルは見られたんだけど、ファイナルは予想通りナダルの独擅場だったし。

 というわけで、フェデラーがこのまま順調に行くと、またまたQFでツォンガ、SFでジョコという流れになりそうなドローなので、相当ドキドキである。シャラポワだって負けてるし。それと、ロディックにもぜひQFまで上がってきてほしい!
 そんな感じで今週も、ライブスコアとStatsだけになりそうだけど追っかけていこうと思います。