これもまぁ……ジャケ買いです。←ジャケ買いばっかり
なんかSFづいてますが(と言っても、まともに読んでいるSFは「2001年宇宙の旅」くらいだったりして)文庫版が目を惹いて、借りてみたら新書でした。(図書館にはまだ文庫がなかった)
感覚と切り離された知覚、つまり「痛い」ことを「知っている」だけで「痛み」を「感じない」戦闘し続けるゾンビのような兵士たちの姿であったり、「環境追従迷彩」という名のカモフラージュであったり、近代のゲームやSFアニメの世界を彷彿とさせる(「環境追従迷彩」は特に、光学迷彩@攻殻機動隊をつい想像しちゃいますね~)ディテールが満載で、親しみやすいというかわかりやすい部分はあります。その中で、ちょっと異様な「人工筋肉」を用いた各種の機器なんてものもあったり。そういう世界観は、個人的にはけっこう好きです。なんか新鮮な感じがします。
後進諸国で増加する内戦や虐殺の引き金を引く「器官」とは何か。
その答えは、具体的に「何をどうすればどうなる」という形ではなく、抽象的な「手法」として(たぶん)述べられています。(作中の)学者であり「犯人」とも言えるジョン・ポールの理論を借りてではあるけれど。イメージとしてはサブリミナルに近いような感じかな?
ただ結局のところ、問題はタネ明かしや犯人探しではなく、なぜその「器官」を用いてこの虐殺を起こす必要があったかという、その動機です。
「わたしは考えたんだ。彼らの憎しみがこちらに向けられる前に、彼ら同士で憎みあってもらおうと。彼らが我々を殺そうと考える前に、彼らの内輪で殺しあってもらおうと。そうすることで、彼らと我々の世界は切り離される。殺し憎みあう世界と、平和な世界に」
自分たちの手の届くところにある「平和」は、何によってもたらされているのか。それを知ることになったとき、主人公クラヴィスに起きた変化。そして、空虚の果てになお広がった空虚。それが、クラヴィスに罪を償うための罪をもたらした。それは、「虐殺の王」ジョン・ポールが最後に遺した「虐殺の文法」であったのかもしれません。
物語では「戦争」や「戦場」を扱ってはいますが、戦闘シーンの生々しさよりもむしろ全体的にすごく……へんな言い方ですが、落ち着いた知性の漂うような文体です。クラヴィスというキャラクター自体がそうなのかもしれないけど。
とはいえクラヴィスもただ健康なだけの人間とは言いがたく、彼の裡にあるもの、その迷いや懐疑が常に他者――母親であり、自殺した同僚であり、相棒であり、愛した女性であり、「世界」であり――に触れることで表現されているように思います。久しぶりに、読みながらキャラクターに入り込める作品でした。舞台はSFだけど、結局は「人間」が描かれている。そういう意味ではなんとなく、合田雄一郎@高村薫作品とか、如月行@「亡国のイージス」とか(笑)のキャラクターに感じたものに近い感覚がありましたね。
あと、カフカやらオーウェルやらのネタが出てきてみたりするのも、ちょっと面白かった(と言うのも変だけど)。特にオーウェルは読んだばっかりだったのでわかりやすかったというか、タイムリーでした(笑)。
惜しむらくは、著者が昨年既に亡くなられているということです(確か文庫の帯にもそのようなことが書かれていたような)。この先どんな世界を見せてくれるのか、楽しみな作家さんと言って良かったんだけどなぁ……本当に残念です。
個人的にはとても余韻の残った作品で、読み返したい気持ちは強いです。いずれ文庫を買っておきたいなと思います。←表紙は文庫の方が好き(笑)
なんかSFづいてますが(と言っても、まともに読んでいるSFは「2001年宇宙の旅」くらいだったりして)文庫版が目を惹いて、借りてみたら新書でした。(図書館にはまだ文庫がなかった)
感覚と切り離された知覚、つまり「痛い」ことを「知っている」だけで「痛み」を「感じない」戦闘し続けるゾンビのような兵士たちの姿であったり、「環境追従迷彩」という名のカモフラージュであったり、近代のゲームやSFアニメの世界を彷彿とさせる(「環境追従迷彩」は特に、光学迷彩@攻殻機動隊をつい想像しちゃいますね~)ディテールが満載で、親しみやすいというかわかりやすい部分はあります。その中で、ちょっと異様な「人工筋肉」を用いた各種の機器なんてものもあったり。そういう世界観は、個人的にはけっこう好きです。なんか新鮮な感じがします。
後進諸国で増加する内戦や虐殺の引き金を引く「器官」とは何か。
その答えは、具体的に「何をどうすればどうなる」という形ではなく、抽象的な「手法」として(たぶん)述べられています。(作中の)学者であり「犯人」とも言えるジョン・ポールの理論を借りてではあるけれど。イメージとしてはサブリミナルに近いような感じかな?
ただ結局のところ、問題はタネ明かしや犯人探しではなく、なぜその「器官」を用いてこの虐殺を起こす必要があったかという、その動機です。
「わたしは考えたんだ。彼らの憎しみがこちらに向けられる前に、彼ら同士で憎みあってもらおうと。彼らが我々を殺そうと考える前に、彼らの内輪で殺しあってもらおうと。そうすることで、彼らと我々の世界は切り離される。殺し憎みあう世界と、平和な世界に」
(「虐殺器官」本文より)
自分たちの手の届くところにある「平和」は、何によってもたらされているのか。それを知ることになったとき、主人公クラヴィスに起きた変化。そして、空虚の果てになお広がった空虚。それが、クラヴィスに罪を償うための罪をもたらした。それは、「虐殺の王」ジョン・ポールが最後に遺した「虐殺の文法」であったのかもしれません。
物語では「戦争」や「戦場」を扱ってはいますが、戦闘シーンの生々しさよりもむしろ全体的にすごく……へんな言い方ですが、落ち着いた知性の漂うような文体です。クラヴィスというキャラクター自体がそうなのかもしれないけど。
とはいえクラヴィスもただ健康なだけの人間とは言いがたく、彼の裡にあるもの、その迷いや懐疑が常に他者――母親であり、自殺した同僚であり、相棒であり、愛した女性であり、「世界」であり――に触れることで表現されているように思います。久しぶりに、読みながらキャラクターに入り込める作品でした。舞台はSFだけど、結局は「人間」が描かれている。そういう意味ではなんとなく、合田雄一郎@高村薫作品とか、如月行@「亡国のイージス」とか(笑)のキャラクターに感じたものに近い感覚がありましたね。
あと、カフカやらオーウェルやらのネタが出てきてみたりするのも、ちょっと面白かった(と言うのも変だけど)。特にオーウェルは読んだばっかりだったのでわかりやすかったというか、タイムリーでした(笑)。
惜しむらくは、著者が昨年既に亡くなられているということです(確か文庫の帯にもそのようなことが書かれていたような)。この先どんな世界を見せてくれるのか、楽しみな作家さんと言って良かったんだけどなぁ……本当に残念です。
個人的にはとても余韻の残った作品で、読み返したい気持ちは強いです。いずれ文庫を買っておきたいなと思います。←表紙は文庫の方が好き(笑)