life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「トッカン ―特別国税徴収官―」(著:高殿 円)

2011-06-25 22:39:45 | 【書物】1点集中型
 そうかーライトノベルの人なのか、と思いながら読み始めた。そのせいか(?)主人公・ぐー子とその上司・鏡のほか、特に職場の人々のキャラがとても立っていて、一種漫画っぽくもある。が、その分読みやすいと思う。なにせ「税金の取り立て」と言ってしまえば簡単だが、税務署というわかるようでわからない世界のお話なので、このくらい極端なキャラクターが多い方が読むテンポが作れて助かる。基本はコメディ仕立てなので、ドラマにしても楽しいかもと思った。

 とは言え、ぐー子の身分である「徴収官」の仕事は、いわゆる「マルサ」のような一般からはちょっと遠く見える世界の話ではなくて、納税滞納者に直接相対するという点が大前提としてある。だから自然、個々の人々の人生にあるドラマがあぶり出されることにもなる。
 ハスキー鏡に追い立てられながらそれらの人々に向かっていくぐー子は、もちろん壁にぶち当たりまくり、とんでもない間違いもしでかす。あんなに欲しかった「安定」を手放すことになるのに、その仕事を辞めようとまで思うほどに。

 でもそれを、その時々で周りの誰かからかけられる一言に向かい合い、理解しようとすることでぐー子はなんとか乗り越えていく。そうやって「仕事」や「他者」に向き合う姿勢を少しずつ確立していくぐー子の成長は、忸怩たる日々を送る身には、いい意味で「堪える」ものがあった。
 結局、単に、抱える仕事の種類や人間関係が違うだけで、人間が大きくなるために向かい合うべきものは根本的には同じなんだと思う。こんな歳になってものすごく今さらだけど、初心に帰る気持ちにさせられる瞬間が、読んでいて確かにあった。

 最後の1シーンが、なんだか突如(……でもないか)ラブコメ方向に行きそうになってしまったのはちょっと惜しかったが(笑)、そこも含めて、ある意味青春もののど真ん中王道とも見えるこの感じは、たまに読むと心洗われる感じがします、はい(笑)。特に最近はSF漬けだった(とか言えるほどたくさん読んでいるわけではないが。しかも結局またSF読むに決まっているのだが)し、さらに今は同時に読んでいるものと180度違う感じなので。

 余談だけど、「Resistance」は90年代っつーより80年代じゃなかったっけか。しかも、中学生のときに「Get Wild」て、ぐー子25歳じゃ年齢合わないよっ!! ……って、あ、懐メロ的な扱いの選曲なら別にいいのか……。(笑)
 ま、そんな点も個人的にはひそかにツボを刺激されたところだったりしたので、それもあって楽しく読めたのかもしれない。続編もあるそうなので、ぐー子の「これから」も気になるし、見つけたら読んでみようと思う。

「あわせ鏡に飛び込んで」(著:井上 夢人)

2011-06-18 22:26:04 | 【書物】1点集中型
 かの有名な「岡嶋二人」名義の名作「99%の誘拐」「クラインの壺」はかねてより愛読しているのだけど、井上氏のソロ作品は初読み。前出2作品が気に入っているのでいずれ読もうと思っていたものを、やっと今さら読んだという……(笑)
 最近どうにもSF方向へ気持ちが行く傾向にある(笑)ため、ミステリっぽいミステリは久々に読んだかもしれない。とは言うものの、「あなたをはなさない」「ノックを待ちながら」「ジェイとアイとJI」あたりは、単純なミステリという感じではなく、ホラー風味もあるというか……「クラインの壺」のエンディングのような、何が現実なのかがわからなくなる薄ら寒さがある。で、個人的には仕掛けがどうこうというよりその読後感がけっこう好きだったりする。
 それにしても、「あなたをはなさない」は怖いですね――。これをオープニングに持ってこられると、あまりにインパクトがありすぎて、「わかりました。この先も続けて読ませていただきます。はい」てな気分になる。(笑)

 巻末の大沢在昌氏との対談も、作家としての各氏の個性が垣間見える興味深い内容で、お得感あり。って、借りて読んだだけで買ったわけじゃないんだけど(笑)。
 ソロ活動になってからは長編がほとんどないらしい井上氏だが、私自身はだらだら読むのがけっこう好きなので(笑)長編もたくさんあるといいのになぁと思いつつも、この薄ら寒――い感じを味わいたくなったら、短編でももちろんウェルカムなのでまた他の作品も読んでみようと思う。←なんか微妙に上から目線か? すいません。

「冷たい方程式」(著:トム・ゴドウィン他/編:伊藤 典夫・浅倉 久志)

2011-06-16 23:34:20 | 【書物】1点集中型
 クラークの「破断の限界」(「太陽系最後の日」収録)が「『冷たい方程式』もの」と解説されていたのをきっかけに読んでみた。世界にはまだまだいろんなSFがあるなぁ、と感嘆したのが正直なところ。しかもこのアンソロジー、1980年のだし……でも内容は全然古く感じない。

 詳しいストーリーは、ネタバレするのもナンだし、それを書いてると「粗筋だけで終わってしまう悪い読書感想文の典型」みたいになっちゃうので(笑)書かないが、「接触汚染」では個人のアイデンティティって? という疑問を突きつけられる気がするし、「過去へ来た男」では文明的な隔たりが生む悲劇を見せつけられる。そして「冷たい方程式」の、「物理的法則が規定」する「人間の手を越えた刑罰」。知っていれば決して破ることはなかっただろう取り返しのつかない規則。「多くを守るためなら少しの犠牲はやむを得ない」というようなシチュエーションがよく(いろんな物語に)あるけど、それと近いようでいて、どこか決定的に違う感じ。って、どこがと言われるとうまく言えないんだけど……強いて言えば、人間自身に本当の意味で選択権はないというところかなぁ。
 そういう雰囲気もあって、この3作品はlowというかdonwerな感じなんだけど、超能力者と宇宙船操縦という組み合わせが意外に面白い「操作規則」はちょっとコミカルな雰囲気もある。ハッピーエンドだからというのもあるかな? 「信念」も最後はユーモアすら感じられるし。「結局、人間ってそういうものだよね」と微笑ましく思える。

 結局、特定の環境下(まあ、物語の舞台にということだけど)におかれたときの人間の行動や心の動きをどれだけユニークに、しかしリアリティをもって描けるかということに、物語の面白さがあるんじゃないかと思う。
 その意味では確かに「冷たい方程式」は絶品だった。文字通り「究極の選択」を描いているわけだし……大体、タイトルも秀逸すぎるし。あ、「究極の選択」といえば「接触汚染」もそれに近いネタかもしれない。なんにしても、読み返したくなる作品群でした。

ドアラ先生!

2011-06-12 18:37:07 | 【日常】些事雑感
 ……の、自画像クッキーをお土産に1枚いただいた!
 パッケージのドアラ先生のお写真もステキー(笑)

 今日は勝って良かったね、っと言いつつ、劇場版トリック2が楽しみな今夜。そして昨日はIPPONグランプリでした。バカリズムの回答はやはり一味違うぞ、というわけで決勝の最後の2本がツボに入っておりました。ライディーン万歳!

「陰陽 ―祓師・鬼龍光一」(著:今野 敏)

2011-06-10 00:21:07 | 【書物】1点集中型
 最初の今野作品は「隠蔽捜査」で、これはけっこうハードなイメージが残っている。でも、主人公は変人だけど基本的に善良な人で、最終的にはハートウォーミングな印象も残る。安積班シリーズにしてもそうだし。
 で、「今野氏、格闘技ものも書くんだなぁ(読んでないけど)」と最近知って、さらに今回「伝奇ものも書くんだ!」とやっと知り(笑)読んでみた。

 文中、「鬼道」そのものについての説明は大枠だけって感じで、戦闘(?)の描写はわりとあっさりしてる。だからか、警察ものとも言えると言えば言えるけど、最終的に富野刑事も「鬼道」寄りな部分が出るので、読み終わってみたらライトノベル的なイメージ。短い台詞を多用してストーリーを転がす感じが、ネタが近いせいもあって「陰陽師」を思い出す。同じような読み進めやすさはあるので、あんまり深く考えずに気軽に読める。伝奇ものだと思えば、官能描写が多いのも納得いく(笑)。まあそもそも、敵である「亡者」の力がそこを司る設定なわけだし。
 個人的には鬼龍の、名前のわりにちょっと間の抜けた(ようにも見える)のんびりしたキャラはけっこう好き。孝景との凸凹コンビっぷりといい、B級ドラマ(言うなればテレ朝金曜23:15枠の。たとえば「スカイハイ」的な)かアニメとかに向いてる作品んじゃないかな~と勝手に想像してみたりもした。そういうのも含めて、いわゆる「エンタメ系」として楽しめる感じの作品。

「魔笛」(著:野沢 尚)

2011-06-09 23:51:20 | 【書物】1点集中型
 脚本家として高名な野沢氏なので、当然お名前はず――っと知ってるんだけど実は初読み。そして実は氏のドラマもほとんど見た記憶がない(笑)。唯一見た記憶があるのは「砦なき者」で、ああいうの好きなので楽しませてもらった記憶があります。
 というわけで、それから何年経ってるんだっつう今ごろになって読んでみたこの「魔笛」。本屋で面出しされてたのを手にとって、裏表紙にあったあらすじ読んで興味を持ったので、今さらながら。

 白昼堂々の爆破事件から始まる物語は、さすが人気脚本家だけあるなーと思わされるテンポのよさ。疾走感すらある。ぐいぐい引っぱられて、いつになく先を急ぐようにして読んだかも。
 重なり合うのは宗教、テロ、警察と公安の暗部、罪を犯した人々。即物的でドロドロな人間関係とか、ある意味「エグい」感じがあって、でも個人的にはそういうのが好きだったりする。特にエグさが際立つように思うのは籐子が夫を手にかける場面と、礼子が川俣を手にかける場面だなー。こうやって文字にされたものを追っていくと、単に映像として1つの答えを見せられるよりも無駄に想像力が逞しくなちゃって、頭の中の映像が勝手にさらに迫力が増す。このエグさは映像ではそう簡単に現せないぞーと思うと逆に、読みながらひとりで盛り上がっちゃう(笑)。ってこれじゃ普通に変態みたいだな。

 作中に描かれる「メシア神道」なる宗教団体は、もろに「あの」宗教団体を想起させるんだけども、そこに結果として取り込まれることになった礼子の、公安職員としての心と信者としての心の「二重螺旋」は、ちょっとオーウェルの世界を彷彿とさせる。そして、ああいう形になった宗教って、やっぱり最後は「ビッグ・ブラザー」的なところに行き着くんだなぁと今さらに思った次第。
 とにかく、ストーリーのスピード感と、登場人物がそれぞれ持つ重い闇に圧倒された。小説としてはとても楽しめたので、「砦なき者」 や「破線のマリス」も是非読んでみたい。

「眠れなくなる宇宙のはなし」(著:佐藤 勝彦)

2011-06-04 23:44:18 | 【書物】1点集中型
 ずいぶん前に図書館で予約して、しかし所蔵が2冊だかしかなかったので何ヶ月か待った本。イラストレーションかなり好みである(笑)。
 内容としては、「古代インドの宇宙観から、宇宙を巡る宗教裁判、相対性理論、最新・ブレーン宇宙論まで」と帯にある通りで(そりゃ当たり前なんだけど)、人間がどのようにして宇宙の謎に向かおうとして、何が明らかになり、そして今何を探し出そうとしているのかが書かれてある。

 最後の「無境界仮説」「ブレーン宇宙論」あたりを除くと、8割~9割方は「宇宙創成」で読んだ話や理論。本の趣旨として両者はかなり近いと思うので、書いてあることの流れも近い。なので、ちょっとした復習をしてる気分になりながら読んでいた。
 言ってみれば、「宇宙創成」をさらに誰にでもわかりやすくてなじみやすい表現にした、本当に初級の入門書として楽しめると思う。この本を先に読んでから、「宇宙創成」でさらに知識を肉付けしていくのもいいかもと思った。実際、もう1回「宇宙創成」読み直してみようかなーと思ったし。もちろんそれだけじゃなくて、そこにはなかった「ブレーン宇宙論」を初めて目にして、今も少しずつ進んでいる宇宙モデルの研究動向に興味が湧いてきた。「超ひも理論」ってこういう風に進んでるんだなぁ。でもこの先、もしかしたらブレーン宇宙論も含めてそれをひっくり返す発見も現れるのかもしれない。

 それにしても、宇宙物理学と一口に言っても、宇宙の姿を解明する学問を紐解くにはやはり人類の歴史や文化も含めたあらゆる背景を学ぶことが重要なんだなぁと、改めて感じた読後でした。著者の佐藤氏はホーキングの本も訳されているそうだし、そろそろホーキングも読んでおかねばと思う今日このごろ。

「代替医療のトリック」(著:サイモン・シン&エツァート・エルンスト/訳:青木 薫)

2011-06-03 23:23:42 | 【書物】1点集中型
 サイモン・シンの、文系にもとっても優しい科学の本再び。待ってましたっ。(今回は共著だけど)
 と言いつつも、これまでの「ストーリー性のある科学ノンフィクション」(と、私は思っている)なサイモン・シン作品に比べると、「驚き」というか「謎を解き明かしていく」みたいな感じのワクワク感は少ないかもしれない。もちろんそれが全くないわけじゃなくて、言うなれば第1章に凝縮されている感じ? 第2章以降は、それぞれの代替医療に関する検証が大きいので。

 ただ、「代替医療が結局、主流の通常医療になりえないのは何故か」ということに対して、相変わらずストイックなまでの検証をもって説得力のある結論を導き出しているのが氏らしい。鍼もほとんどプラセボなんだ! というのは若干驚きだったけど……
 結局のところ、「なんとなく怪しい」と言うだけではなく、「何が怪しいのか」を理解したうえでこれらの代替医療に(選ぶにせよ選ばないにせよ)向かうことこそが大事なのだろう。逆に、プラセボならプラセボでもいいや、って思えるのならそれはそれでいいんだろうと思うし。たとえばアロマテラピーあたりだと、単純に「自分が好きな香りでリラックスできるから」というレベルの話ならばおそらくそれほど大きな問題はない。でもそれを、「治療」(=医療)として考えようとすると悲劇が起こる可能性もある、ということなんだろうと思う。とはいえ、ホメオパシーまでいくとこの本を読んじゃうとかなりアレな感じはするけど。

 そういう意味では、「真実は重要か?」という最後の章にはなかなか考えさせられた。「一酸化二水素」のネタとか、面白すぎる(笑)。謳い文句や雰囲気だけでなにかを知ったつもりになるとろくなことはない、というのの典型。
 同じ意味合いで、第5章「ハーブ療法の真実」にある「自然なものが良いとはかぎらず、自然でないから悪いともいえない」というところは、なるほどと思わされた。自然界にだって毒物はあちこちにあるわけで、よくよく考えればそれが当たり前の話のはずなのに、「天然由来成分」とか言われるとつい体にいいものだと思い込んでしまいがち(少なくとも私は、自分がそういう傾向にこれまであったことを否定はできない)だったりする。「それが自然であることの何がいいのか」を理解できていないと、結局自分が痛い目を見るってことだ。

 結局、自分(あるいは自分の大切な人)の体に関わることなのだから、後悔しない選択をするために、代替医療に関してできるだけ正しい知識を持つとともに、通常医療がなぜ信頼するに足るものなのかを理解するべきだと、つまりはその1点に尽きると思う。